表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

これがぼくの接し方

「テメー、誰に口利いてんのか分かってんのかっ!!あ!?」3年生と思しき不良生徒は完全にキレてもう何をするか分からない状態になっている。

 「テメーに教えられる事は何もねえだぁー!だったら今から俺が、誰にケンカを売ったのかをよく分からせて教えてやるよ!」

 「誰に口を利いている?目の前の相手の言っている事も呑み込めない程に頭が悪いのですね。それと、最初に公衆の面前で騒ぎを起こし、暴力行為まで働き周りを不快にさせて部活の勧誘の方々にケンカを売ってきたのは他でもないあなたでしょう」冷はいかにも不快という表情を隠しもせず目を細める。

 もうこんな状況になってしまったらどんなに早く先生を呼んでも間に合わないので、俺は、実際に目の前で不良生徒の怒りの矛先を向けられている冷自身よりもハラハラしながらも、もし冷に何かあったら間に割って入って殴られてでも冷を助けようと精神を落ち着かせ覚悟を決めようとする。

 遂に不良生徒の怒りが頂点に達し、ブチッという音が聞こえたように感じた。

 「ぶっ殺してやるよ!!」冷の顔に拳が振るわれる。

 パンッ!

 冷の顔に振るわれた拳は気づいたら全く違う方向に振られそのまま空を切る。

 「!?」

 不良は何が起きたのかが理解できていない顔をしている。俺自身も何が起きたのか今の状況が分からない。

 「なにしやがった!?」驚いてはいるがまだ怒りは全然静まっておらず、もう1回冷に向けて殴り掛かる。

 パンッ!

 殴られる、という事を意識しすぎてしまったせいでそれ以外の情報に目を向けられなかった事と、その殴られる瞬間に冷が何をしたのかを前もって意識できていなかった事で見えなかったが、今度は最初から冷が何かをすると注意していたためしっかりと見えた。

 自分に向かって振るわれた拳を平手で受け流している。

 不良は不愉快そうに一発で止めようとせず当たるまで何度も殴りかかる。

 だけど冷はその全てを平手で受け流したり、顔や体を最小限の動きで避ける。

 そして瞬間的に近づき相手の後ろ側に右足をかけ、そのまま右手で相手の胸を正面からおもいっきり押し込み一切の無駄のない動きで倒れさせる。

 その流れのまま拳を振り倒れた不良の眼前で殴ろうとした拳を寸止めして、そのまま顔を上から相手の顔に近づけ見下ろすようにして、「これ以上続けるのでしたら、今度は遠慮なく殴りますよ?」と鋭い目つきで言う。

 「・・・あ・・・あ、あ」不良は今までの怒りがどこかへ飛んだかのように体を震わせる。

 そりゃそうなるのも無理はない。明らかに実力の差がありすぎた。

 そこへ先生方が現れ周りの生徒達が状況を説明してくれて不良は連れていかれ、冷は特に暴力を振るったわけでも無かったのでお咎め無しで事態が収拾した。

 だけど、事態が収拾した後もしばらくは今の出来事が話題に上がっていて周りからは、あの新入生、この学校内だけでなく他校の生徒とも喧嘩して負けなしだったのが武勇伝だった火村に勝ったぞ、と抑え気味にザワついている。

 そんな危険な奴だったのか。

 俺はしばらくしてどうにか気持ちが落ち着き、景と貴志も安心したような顔で、寄ってくる。特に景は心底安心した、というようなややオーバーともとれるほどの表情をしている。

 俺は冷に「いやー冷や冷やしたぞ。間違いなく寿命が少し縮んだわ。それにしても冷、どこであんな体術憶えたんだ?」と話しかける。

 「まあ、身を護るすべは身に付けていたほうが良いので。我流ですが」

 冷は最初からずっと堂々としていて特に緊張したりビビっているようには見えなかった。

 それを見てずいぶん昔と変わったな、と思う。

 連絡がつかなくなった3年の間に冷にはいったい何があったのだろうか。少し不安とも呼べる感情が沸く。

 そんな中「そう言えば、皆さんはどのクラスになったのですか?」と俺の心境なんて知りもせずついさっきの騒ぎを何でもなかったかのように表情を変えず、聞いてくる。

 それが腹ただしいかというと、どちらかというと不安な気持ちになってしまうという方が強い。

 何があったんだ?と聞いてもきっと答えてはくれないだろう。

 

 花弁を舞わせて暖かい、気持ちの良い風が吹く中、新しい学校生活に期待と不安が混じった何とも言えない気持ちで校内に入る。

 俺と景と貴志に明理、そして冷はなんと全員同じクラスに決まっていた。偶然という表現では言い表せない程の奇跡的な確率だ。

 自分達のクラスに入り、席に着く。

 本当は不安を紛らわすためにも教室内で少し皆と喋っていたいが最初なので大人しくしていようと思う。

 この学校での新しい友達を作る時に、教室に入って早々に今の友達と一緒にいると、良い方に向けばそのグループに入って一気にそのグループ全員と友達になれる事を狙って話しかけてきてくれるパターンと、悪い方に向くと派閥が出来てしまい近寄りがたい空気になってしまうパターンがある。

 皆その事をよく理解しているので自分達の席に大人しく座っている。

 そして、まだ慣れないクラスと周りに馴染む前の学校生活の最初の時特有の空気で、みんな緊張をしているのが俺自身の今現在の心境もあって良く分かる。

 ちなみに、俺は人間観察が趣味だったりするので基本的に周りの空気を読んだり察するのが得意な方で自分で言うのもなんだが、コミュ力はそれなりに高い方だと思っている。

 また、人付き合いを煩わしいと思った事は一度もないし、友達が困っていたらそれが面倒事であったとしても普通に協力する。

 なので、少し脱線したが俺と同じように自分の席についているクラスメイト達を観察しながら、景と貴志と明理と冷たちもそれぞれ見ていると、景は誰がどう見ても緊張していると分かるような、気持ちがそのまま顔に出ている。少し面白い。

 貴志は自分のスマホをいじっているのが見える。貴志の趣味は読書なのでネット小説でも開いて読んでいるのだろう。

 明理を見ると早くも教科書に目を通している。相変わらず真面目だなと思う。

 冷を見てみると体を姿勢良くして辺りを見回している。自分でも気づいたのは意外だがよく見ると視線がいろいろな方に向いていて教室の情報を細かく収集しているように見える。いや、冷、お前は何に気が向いているんだ、と思ってしまう。

 しばらくそんな時間を消費していると担任の先生が教室に入ってくる。

 担任の先生は35歳くらいに見える。新任教師ではないが高齢で融通が利かない、考え方が古くなり堅くなる年齢でもなく、性格にもよるだろうけど生徒側が意見を言いやすそうな雰囲気ではある。

 「先生は生徒達を正しい方へ導く為に“教えて”“育てる”『教育』をしっかりとして社会に出てもやって行けるように色々教えていきたいと思っている。基本的にちゃんと授業を受けて提出物をしっかり提出する、テストで平均点を取っていればちゃんと評価する。今挙げた事は生徒として当然の行動だが、その当たり前の行動が社会で何よりも大切だと思っている。だから先生はその当たり前の事をこなせばしっかりと評価しようと思っている。授業は難しいと思うがしっかりとついてくるように。以上だ」

 先生の簡単な挨拶が終わり、今度は生徒同士の自己紹介が始まる。

 出席番号順に1人1人自己紹介をしていく。

 俺の番になり起立し「海野優っていいます。好きな科目は社会。趣味は人間観察で、友達を沢山作りたいと思っています。気軽に接してください。よろしくお願いします」と自己紹介を済まし着席する。

 また次の人が自己紹介をしていく。

 そして冷の番になる。

 冷は起立し無表情のまま「清水冷と申します。最初に言わせていただきますが、ぼくはこのクラスの誰とも友達になる気はありません」

 周りがザワつく。

 「ぼくはその姿勢で皆さんと接します。ですので皆さんもそのつもりでぼくと接してください。以上です」

 予想は出来たが、本当にまだお互いを詳しく知らない新しいクラスメイトたちが集まってこれから仲良くしていこうとする為の最初の自己紹介で冷は堂々と言い切った。

 俺は顔に手を当ててため息をつく。

 友達を作る気が無いにしても、言い方というものがある。これでは関係が悪くなって友達でないというより、それを通り越して仲間外れにされ避けられる。

 担任の先生が君、今の発言は良くないよ、と注意に入る。

 「同じクラスメイト同士仲良くしないと。何事も協調性は大事だよ」と言う。

 それを聴き冷は再び起立し「お言葉ですが、先生。人は考え方も性格も捉え方も様々です。同じクラスメイトだから誰分け隔てなく仲良くしろというのは暴論ではないですか?同じクラスの生徒同士でも気が合う合わないはありますし、皆が皆仲良く出来るなんてことはあり得ません。第一に同じクラスメイトだからという捉え方で物事を見るのでしたら、クラスメイトに限らず、同じ年齢、同じ子供同士、同じ市に住んでいる、同じ県に住んでいる、同じ国に住んでいる、同じ世界に住んでいて同じ人間同士だから協調性を持って皆友達、そんな考え方や捉え方が通る訳がありません。仮に通るのでしたら、とっくにこの世界から争いごと、もっと言えば戦争なんて起きていません」

 先生は面をくらったような顔で「いや、君それは・・・」とたじろぐ。

 「これがぼくのスタイルでこれがぼくの皆さんへの接し方です」着席し姿勢を正す。

 周りはますますザワつき、

 そういえばあいつ、3年生の火村にケンカで勝ったらしいぞ

 マジか

 なんか怖い人なのかな

 うち等のこと最初から拒絶しているよね

 でも先生を言い負かすのは凄くね?

 いや教師なんて社会経験が無くていきなり教師になるから

 いやそれは極端だろ

 と生徒各々が勝手に喋り出す。

 「静かに!とにかくこれから社会に出ると今まで以上に人間関係が重要になってくる。その時に上手くとけ込める様に協調性はとても大切だ。君の自論は分かったけど出来るだけ人付き合いはした方が良い」と話す。

 冷の考え方は極端だがあながち間違ってもいない。たしかによく先生は同じクラスメイト同士仲良くしなさいというが、ただクラスが同じなだけで考え方も性格も趣味嗜好など全然違う1人1人の人間を一括りにして皆仲良くしなさいと言う。冷の言うとおりそれは暴論だ。だが一方で先生の言う社会に出て人間関係が大切になってくるというのも正しいと思う。どちらにもそれぞれしっかりとした考えがあるのでどちらも正しくどちらかをだけを否定はできない。

 もちろん俺は暴論を除けば概ね先生の考えの方に賛成だ。友達は大事だ。

 そして気付いたのだが、明理が目を大きく見開いて驚いている。そうか、明理は別行動をとっていたから今の変わってしまった冷を知らないんだったな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ