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エイプリルフール・トゥルーストーリー  作者: 日向満家
五年前 南波  組織に入った直後
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Scene36

 葵の噂を始めて聞いたのは、組織に入ってから数年経ってからだった。昔、すごい才能を持っていたのに、適正年齢内で見出されなかった少女がいたと。

 彼女は見出されたかったのに、それよりも年齢を重ねていた自分は見出された。そのことに優越感を覚えたこともあったが、すぐにその原因は、自分の精神の不安定さにあったことを知った。

 社長いわく、初めて南波少年を見た時、その少年は獣のような顔つきをしていたらしい。目に映るもの全てを壊してしまいそうな、そんな危うさを秘めていたそうだ。だから特例として、南波少年の組織入りを進めた。

 それを知ったとき、南波少年の、その少女への興味はさらに増した。彼女は、両親からの愛情をふんだんに受けて育ったのだろう。自分とは違う人生を歩んだ、もう一人の自分。

 そこから、南波少年はその少女のことを調べ始めた。その少女の詳細な個人情報は当時の幹部しか知ることはなく、特定には骨が折れたが、三ヶ月ほどかけてなんとかその少女が齊藤葵であることを知った。

 南波少年は驚愕した。南波少年は彼女のことを知っており、彼女とは浅からぬ関係だったからだ。

 それより何年も前、南波少年が小学三年生になったばかりだったころ、始業式の次の日くらいに教室の中で妙なことを口走った女子生徒がいた。

「私ねー、よく変なものを見るのよ。昔からなんだけどねー」

 その女子生徒としては、新学年の友達をつくるための掴みのトークのようなつもりだったのだろう。今まで何度その手法を使ってきたのかは知らないが、南波少年の次の一言で、その場は凍りついた。

「何、そのつまらない嘘。そんなのでみんなの興味引きたいとかダサくない?」

 ビクッと顔が強張り、全身が硬直した女子生徒を見ながらも、南波少年は無慈悲にも言葉を続けた。

「それじゃ狼少年と一緒じゃん。あ、女だから狼少女か」

 南波少年はそのころ、一年前に父親が出ていき、母親とうまくいっていない状態がもう長く続いていたため、その心の中は荒んでいた。

 常に斜に構え、思いやりもなくバンバンと人痛いところを突く。南波少年はそのころそういう人間だった。

 南波少年はそんな状態だったが、基本的に小学三年生の男子というものは、もっと幼いものだ。それまではそんな会話に一切興味を示していなかった周りの男子たちが、南波少年の言葉に反応し、その女子生徒を茶化し始めた。「狼少女、狼少女」と。

 組織に入ってから家を空けることが多くなった南波少年はストレスがなくなり、そのようなひねくれた性格はだいぶ改善されていたため、あのころの愚かな自分を悔いるようになっていた。

 彼女のことをそんな状態に追い込んだことに罪悪感はもちろん覚えていたが、しかしそれ以上に、彼女がその能力者の少女であると知ったとき、南波は興奮で身を震わせた。

 天才と言われた自分でさえ、この組織に入る前は幻など一度たりとも見たことはない。それなのに、かつて教室で彼女は昔から何度も見たと言っていた。

 あのとき、南波少年はそれを嘘だと断じたが、彼女が能力者だということは、それは本当だったということだ。

 彼女は、自分を超える才能を持っている。南波の彼女への興味は、さらに増していった。今現在の彼女の居場所を割り出し、実際に見に行った。近くに寄っただけで分かった。彼女の能力は確かにすごい。

「バケモンじゃないか……」

 秘めた彼女の能力に呼応するかのように、正のエネルギーと負のエネルギーが、彼女の周りで共鳴して波打っているのが見えた。

 普段のときにはそれほど影響はないだろうが、ただでさえ負のエネルギーの動きが高まるエイプリルフールのときなんかは大変だろうな……

 ぜひとも彼女に再び会ってみたい。彼女の能力に触れてみたい。彼女に触れてみたい。南波の中で、齊藤葵の存在が、どんどんと神格化されていった。

 だが、おそらく南波が自分の能力を明かして近づいても、拒絶されるだけだろう。彼女はいつか、彼女の方からこの世界に近付いてくる。南波は気長にその時を待つことにした。



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