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エイプリルフール・トゥルーストーリー  作者: 日向満家
現在 葵  恭一とケンカ別れした少し後
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Scene33

 円盤は、葵が負担にならない程度のスピードで、地上に降下した。最初に地上から天国に行ったときは地上には数分で着いたが、地上の様子を改めて見た葵は拍子抜けした。

 そこでは全くいつも通りの日常が流れていたからだ。私達があんなに騒いでいたほど、地上は本当にピンチだったのだろうか。

 葵は家まで走った。家には灯りがついていた。葵が家を出たときは、消してきたはずだ。家の中から人の影が見える。あ! あれは絶対私の家族だ! 良かった…… 復活したんだ。葵は気が抜けて、その場にへたりこみそうになった。

 だが、葵の持ち前の猜疑心が、そこで目を覚ました。あれは、誰もいない我が家に押し入った泥棒かもしれない。

 葵は、天国での経験を思い出して、金属バットを具現化させた。えらく不格好な、ぼこぼこ曲がったバットが出現する。玄関の鍵は閉まっていたため、葵は合い鍵を使って中に入った。

 そおっと靴を脱ぎ、灯りが点いているリビングルームまでゆっくりすり足。中は静かだった。やっぱり、泥棒かもしれない。

 バットを顔の横まで掲げて、いつでも振れるようにする。葵がリビングルームの扉の前まで到達したのとほぼ同時に、不意にその扉が開いた。

「ギャーーーー!」葵は叫んだ。どれだけのことを経験してきても、怖いものは怖い。

「ギャーーーー!」扉から出てきた人物も同じように叫んだ。

「お父さん?」

 葵はようやく相手の正体に気付いた。その声を聞いて、相手も瞬時に冷静さを取り戻した。

「葵か。今頃帰ってきたのか。あんまり厳しくは言いたくないが、ちょっと遅すぎるんじゃないか? 皆もう寝たぞ。お父さんももう寝るところだ」

 そう言う父親は、パジャマ姿だった。部屋の奥の時計を見ると、二十三時四十五分。色々と大変だったが、意外と二時間弱くらいしか天国にはいなかったのだな、と思う。

「それより葵、お前何持ってるんだ?」

 葵が持っているものはまぎれもないバットだったが、あまりに曲がりくねり過ぎていたため、薄暗い廊下では、父親はすぐには何かわかっていないようだった。葵は急いで、背中の後ろに隠した。

 消えろ! 消えろ! 葵は急いでバットを消そうとするが、そういえば消し方はあんまりわかっていない。

「なあ、おい、何隠してるんだ?」

 父親は執拗にのぞきこもうとしてくる。うっざ、こいつ。

「な、なんでもないからあ~~」

 家族も無事だと分かったし、父親とこれ以上顔を合わせるのも嫌だから、葵は家を飛び出た。

 父親の方も、「あ、おい! 待てよ!」くらいは言っていたが、追ってくる様子もない。わざわざまた着替えるのが面倒なのだろう。あの父親からは、全く愛情を感じられない。

 家を出てからすぐ、葵は空を見上げた。恭一達はまだ戦っているのだろうか?

 それまでは全く気付かなかったが、あのデカい黄色い風船は、地上からでも確認できた。それの周りに、時折戦火が上がっているのも見える。

 あんなのが空にいたら、この街はパニックになるのではないのだろうか。葵はキョロキョロと辺りを見回す。しかし、周りは閑静な住宅街のままだ。

「大丈夫だよ、葵ちゃん。普通の人にあれは見えてない」

 背後から声がした。振り返ると、そこには見覚えのあるおじさんがいた。

「社長!」

 よっ とフランクに社長が片手を上げる。

「俺たちが持っているような能力の無い人間が負のエネルギーによる幻が見えないのと同じように、一般人にあれは見えない。脳がそれを受け付けない」

 社長も上空を見上げながら、葵にそう言った。そして言葉を続ける。

「大変だったんだぜぇ。この世界をここまで元に戻すの」

「あ、やっぱり社長たちがやってくれてたんだ」

「そうそう。君たちが上から送ってくれた負のエネルギーをうまいこと全世界に分配したんだ。世界中の支部と連携してな。それだけやっといたら、今回の件が起きてから数時間で対応できたから、何とか勝手に復元してくれたな」

 喋り方は軽薄なままだが、社長の顔がわずかに強張っているので、何だかんだ言いながら社長もヒヤヒヤしていたのだろう。

「本当に全部元に戻ったんですか?」

 葵が訊ねる。

「これだけの大事件だ。事が起こってから、すぐに世界規模でモニタリングしていた。それで監視していた限りで言うと、元に戻っている。 ……大変だった~~~」

 その時のことを思い出したのか、社長は言いながら膝に手をついた。私達も大概大変だったけど、地上も地上で色々やってたんだなぁ、と不思議な気持ちになる。

「ねえ、それより」葵は早速話題を変えた。

「それよりって!!」社長はショックを受けるように叫ぶ。

「恭一とか南波くんを助けに行ってあげてよ。あいつめっちゃ強いんだから」

 葵が上空の風船オバケを指さす。

「ああ、あれな…… 確かにほっとくのはまずいなあ」

 その割には、社長の声はどこかのんきだ。

「今暇なんでしょ?」

「暇じゃねーよ!」

 びっくりしたように社長が言う。

「とにかく大群率いてあれ倒しに行ってよ。恭一と南波くんだけじゃきつすぎるよ」

「とりあえず、監視はまだ続けてるし、みんなさっきまでの負のエネルギー分配で疲れ切ってる。もう余剰人員はいない」

 社長が無慈悲にもそう言う。

「そんな……」

 葵は心配そうに空を見上げた。

「それにな…… 南波がこの業界きっての天才だという話は聞いているかもしれないが、恭一もここ数世代じゃ一番の実力者だ。あいつらに倒せないようじゃ、あれは誰にも倒せない」

「え、そうなの!」

 葵は驚いて社長を見た。それに関しては初めて聞いた。確かに恭一は能力とか正負のエネルギーについてとても詳しかったし、びっくりするくらい何でもできたけど……

「恭一がひたすら会議をサボり続けられるのも、定時帰りを繰り返してヲタ活ができるのも、ひとえにあいつの実力あってこそだ。南波が見出されるまでは、あいつがエースだった」

「そうなんだ……」

 葵は、再び上を向いた。天災と戦うのは、天才とエース。でも、葵が知る二人は、弱いところもある、お茶目なところもある、普通の青年でもあった。

「心配か?」

 社長が葵に訊ねる。

「うん。でも……」

 葵はうつむいた。あの人たちがそんなにすごい人達なら、自分が行っても足手まといになるだけだろう。自分にとってどうしようもないことは、初めから考えない。そんな社長のような考えに、葵もなりたかった。

「葵ちゃん。君は誤解をしている。確かに、私は自分にとってどうしようもないことは初めから考えない。時間の無駄だからだ。だがその代わり、逆に自分には何ができるかは常に考えている」

 いや、だからなんであんたは私の考えを読んでるんだ。

「あと、君は自分を卑下しすぎだ。君ほど才能あふれる能力者はなかなかいない。その気になれば、恭一はもちろん、南波にも遅れをとることはないだろう。もし、今の君にそれを発揮できる自信がないにしても、今自分ができることを考えるんだ」

 そう言い残して、社長は去って行った。

 今、私にできることか……

 葵は自分の胸に手を当て、再び空を見上げた。その直後、空がわずかに、光った気がした。



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