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エイプリルフール・トゥルーストーリー  作者: 日向満家
現在  葵 さっきのちょっと後
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Scene24

 恭一と葵は、龍の首の上ですっかりと話し込んでいた。気持ちよすぎるたてがみの上に二人で寝転び、リラックスしきった状態で、一緒のクラスだった高校一年生の時の思い出話や好きなテレビ番組の話など、楽しくコミュニケーションに興じていた。

 そんなことをしているうちに、下からわずかに声が聞こえてきた気がした。

「かーーーぃ…… かーーぃ…… かーぃ……」

「ん、もう、なんだよ。人がせっかく気持ちよく話してたのに」

 恭一はそう言って、しばらくぐずっていたが、寝返りを打ってうつ伏せになり、下を覗いた。すると、はるか後方で南波と愉快な仲間達が怪物相手に戦っているのが見えた。

「あ、忘れてた」

 恭一は急いで龍を引き返させた。そのまま龍に炎を吐かせ、怪物達を焼き払っていく。ある程度下の怪物達が減ってから、恭一は龍を消し、もうしっかり黒く染まってしまっている天国の大地に降り立った。

「おぉーい、助けに来たぞー」

 妙に間延びした声で恭一が南波達に声をかける。まだ龍のたてがみボケが抜けきっていないようだ。

「いや、助けに来たじゃないわ! 結界を張っていなかったら、あやうく丸焦げになるところだったじゃないか!」

 その言葉の通り、南波一派達は結界の中で無傷だったが、結界に張られているバリアの表面はチリチリシューシューと湯気を出していた。南波本人も自分で防御したのだろう、涼しい顔をしている。

「これしきのことでやられるお前らじゃないだろ」

 恭一の方も反省の素振りを見せない。

「ところで、南波! 仲間達は早く下に返せと言っただろう」

「今は下も危険かなと思ってね」

「うるせえ、どの口が言ってんだ! 全部てめえのせいじゃねえか。とにかく今は、能力をまともに使えないそいつらは足手まといだ」

「そういう君だって、葵ちゃんがいないと使えないんだろう? 彼女の能力はすごいからね」

「そういうお前は単体で能力を使えてるのか。くぅーー、相変わらずムカつくね、その才能」

「ちょっと、二人とも! そんなダラダラ喋ってる場合じゃないでしょ!」

 葵が二人を一喝する。一旦は減った怪物達はまたその数を増やし、もうすぐそこまで迫って来ていた。

「負のエネルギーは具体化する力そのものだ。はやくこの天国を解体して負のエネルギーを散らさないとやつらは無限に出てくる。このままじゃらちが明かないぞ」

 恭一が南波達に向かってそう告げる。最終通告のつもりなのだろう。

「そうだね…… うん、ここまでくると仕方がないね」

 南波は少し考えたが、やがて意を決したように顔を上げた。だが、その表情は少し寂しそうだった。

「まだ会えてないんだな?」

 恭一が南波に尋ねる。南波は首を縦に振った。

「俺は兄に会えたが、快斗が母親に会う前に怪物達が現れた」

 亮助が恭一たちにそう言った。

「でも、ここまで負のエネルギーが暴走していると、会えるとも限らないからね。もういいよ」

 南波が、どこか吹っ切れた様子でそう言う。

「本当にそれで良いのか?」

 恭一は、なおも南波にくいさがる。

「みんなは会えたらしいし、それでいいんじゃないかな、良かったよ」

「かーっ、お前も謙虚なやつだねえ、こんだけ骨を折っといて、自分はあっさり身を引きますか」

 恭一がそう言ったところで、南波がやっと感情をあらわにした。

「うるさいな、何だお前! さっきから僕をどうしたいんだよ! このままじゃダメだとか言うくせに、僕を焚きつけて!」

「ごちゃごちゃうるさいのはてめぇだよ! お前さっきから何か勘違いしてないか? 急がなきゃいけないからこそ、はやく自分の望みを叶えてこいって言ってるんだよ。こんなところで油売ってないで」

 南波が怪訝そうに恭一を見る。

「お前が母親に会えるまでは俺達で何とかしとく。だから…… 早く行け」

 恭一が、南波を追い払うかのように、しっしっと手を振る。南波はしばらくそんな恭一を見つめていたが、やがて後ろを振り返った。

「頼んだよ」

 南波はそう言って、走り去っていった。

 その後、恭一と葵は大忙しだった。再び龍や思いつく限りの猛獣たちを具現化し、怪物たちと戦わせた。その間にヘリコプターで、亮助はじめ、南波一派たちを地上に帰す。

「俺達が地上に送る負のエネルギーを、社長たちと協力して世界中に分散してくれ。どうなるかは分からないが、俺達にはもう、そうするしかない」

 南波一派と別れる前、恭一は彼らにそう言い渡した。

「分かった」

 亮助が代表して、重々しくそう答えた。

「消されんなよ」

 恭一は、最後に彼らにそう言ってヘリコプターに乗せた。



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