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エイプリルフール・トゥルーストーリー  作者: 日向満家
三年前 南波 中学二年生の真っ只中
20/44

Scene17

 南波は母親のことが嫌いだった。南波が小学二年生のとき、両親が離婚した。南波は母親に引き取られた。

 しかし、南波少年はどちらかというと父親に懐いていた子どもだった。父親は基本的には優しく、時には厳しく南波少年を導いてくれた。土日は両方とも公園に行き、南波少年の気の済むまでキャッチボールに付き合ってくれた。

 当時、どういう話の流れで二人が別れたのか、南波少年には一切知らされることはなかった。しかし、大好きな父親を自分から奪った母親を、南波少年は許せなかった。

 それまでは活発で純真無垢だった南波少年は、それ以来口数がめっきり減ってしまい、ふさぎ込み、ひねくれきった性格になってしまった。

 だが、いくら母を憎んでも、小学生だった南波少年にその庇護の下から抜け出すことなど、出来るはずもない。南波少年は常に鬱屈した思いを抱えながら、日々を過ごしていた。

 そんな時だった〝組織〟にスカウトされたのは。

「君には〝適性〟がある」

 小学六年生のとき、なんとなく家に帰るのが嫌で、近所のショッピングモールのゲームセンターで閉店間際まで粘っていたときに、横に熊のような影が見えた時はぞっとした。

 そーっと見上げると、そこに立っていたのは本当に熊かのようなゴツい体格のおじさんで、黒々とした立派な髭を口の周りにびっしりと蓄えていた。

 そのおじさんの言うことには、南波少年には特殊な能力があって、それの使い方を学ばなければいけないということだった。

 南波少年はそのまま、おじさんに連れられて廃校の地下にある組織の秘密基地に行った。おじさんはそこで〝社長〟と呼ばれていた。

 それまで、目の前に闇しかひろがっていなかった南波少年にとって、そこで目にした光景はまさに一筋の光明だった。

 ここのメンバーが家族をも欺くために、組織の訓練・業務に従事する際に自らのコピーを生み出すことをいいことに、南波少年は自分の居場所を求めてここに入り浸たった。

 自分よりもはるかに幼い子ども達と一緒に訓練を受け、この能力についての文献を読み漁った。社長が言うには、自分はこの組織全体が震撼するほど、高い能力値を持っているらしい。

 南波少年は今までそんな能力が自分にあると感じたことは、ついぞなかった。しかし、幼いころから教師の言うことだけに従って、マニュアル通りに能力を開花させる他の子どもとは違い、自らの知的好奇心に従って独自に技術を次々磨いていった南波少年は、短期間で社長はじめ、幹部クラスと遜色ないほどのとんでもなく高度な能力者となった。

 南波は基本的に基地で暮らし、ほとんど家に帰ることはなかったが、その時は偶然、私物をとりに帰っていた。

「ねえ、快斗。今日は四時からだからね」

 母親が、基地に戻ろうとする南波に声をかけた。

「んー、うん」

 南波は靴べらを踵に差し込みながら、上の空で返事をした。最近はコピーとの記憶の共有も全然行っていなかったため、何のことか皆目見当もつかない。だが、南波にとってそんなことはどうでもよかった。

「ねえ快斗、四時だからね」

 南波は、今度は無視した。日頃はもうちょっと性格の良いコピーを置いてきているので、母親の方も違和感を抱いたのだろう。

「ねえ、ちょっと! どうしちゃったの、快斗」

 母親が南波の身体を起こし、激しくゆすった。

 南波はしばらく母親と目を合わせようとしなかったが、やがて顔を上げ、殺意の眼差しで母親を見つめた。その目を見た母親は、ビクッ、っと咄嗟に手を放した。

 南波はさらに、言葉を続けようとした。どうすれば相手に効果的にダメージを与えられるか、頭の中には大量の言葉が浮かんでいた。

 しかし、数年ぶりに母親を直視した南波は、口を開く前に思いとどまった。自分の母親は、こんなに老いていただろうか。

 南波は結局何も言わず、家を飛び出した。その後だった、母親が死んだのは。



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