自分が納得できるまで
ベアリオ城の一室。シェドとネクは、ただ静かに、1人の男を待っていた。もちろんその男とはサンである。
今日は、今後のシェド隊が取る作戦を全員で共有する日だった。しかし、サンは集合時間になっても、未だこの部屋にやってこない。
「この分だと、こないかもしれないな」
シェドがネクに対してそう呟く。シェドは宴会当日、サンがどういう思いを今抱いているのかネクに聞いていた。だからこそ、彼はサンがこの戦争から降りる可能性も充分に考慮していた。
とはいえシェドがサンを勧誘したのは、ゲッコウの再生能力を、使い切らせるためである。それに関してサンは自分の予想を遥かに超えるほどの働きをしてくれた。だからこそ、もう彼は充分この戦争にて役目を果たしたと言えるだろう。
「まあもともと奴は流浪の身だったしな。礼を言いたかったが仕方ない。じゃあネク始めるか」
「……うん」
寂しそうな顔を浮かべながらも、静かに返事をするネク。そして彼らが、今から作戦会議を始めようとする時、部屋のドアが空いた。
「ごめん! シェド! ネク! 遅れた」
息を切らせてそう声を発するサン。そんな彼に、シェドは落ち着いた声で、彼に問う。
「きたか。遅れたことは気にするな。それよりも、ここに来たってことは、お前はまだともに戦ってくれると考えていいんだよな?」
サンは、シェドとネクを交互に見据えて、彼らに言葉を放つ。
「ああ、まだやるよ。自分が納得できるまで、ちゃんとこの戦いをやり抜きたい」
シェドはそんな彼の様子を見て、驚く。おかしなものだ。ゲッコウとの戦いであれほどの違和感を得たというのに、まだこいつは戦場に立とうと言うのか。
――サンの答えが、俺を救う、か。
シェドは、ジャカルの言葉を思い出す。確かに彼は、彼が出した答えが自分の苦しみから解放すると言っていた。一体、彼のどんな答えが、自分にそれほど有益なものをもたらすというのか。
「そうか、ありがとな。じゃあ、サン、ネク。これからの流れをお前らに伝えるぞ」
しかしそんなことで今頭を悩ませても仕方がないことだ。今自分にできることは。カニバルの勝利を確実にすること。シェドはそう考えて、ネクとシェドに、作戦の説明を始めるのだった。
「いいか、次やることは、戦闘じゃない。情報収集だ。この3人で敵の本拠地に乗り込み、レプタリアを攻める上で大きな壁となるであろう、国王アリゲイトと、その側近、マムスについて俺たちで探る」
「なんだよ。あのゲッコウってやつ倒しても、まだそんなに強いやついるのか。つくづく大変なんだな。戦争って」
「まあそうだな。ゲッコウを倒しても油断しないことだ。そもそもアリゲイトってやつはゲッコウよりも強いぜ?」
「え?」
サンは、しっかりとその言葉を聞き逃さず捕らえ、シェドに突っ込む。
「なんだよ、それ! あんなにゲッコウがレプタリア軍最強の兵士ってみんな言ってたじゃないか。あいつより強いやつなんて、俺想像できないぞ」
「今自分でも言ってたろ、サン。ゲッコウはあくまでもレプタリア『軍』最強だ。そしてアリゲイトは国王だから兵士じゃない。つまりレプタリア国最強がアリゲイトということになるな。ちなみにベアリオの父を殺したのも、そのアリゲイトだ」
「なんかそれ、詐欺くさいな。でも、そうか。……ベアリオの父親を殺した相手なのか」
そうして、サンは言葉を止める。カニバルの兵士からは、先代国王もまた、シェドとも負けじ劣らぬ実力だったと聞いている。何より、あのゲッコウを上回る実力を持った相手に自分は勝てるのか。
そうつい思い悩むサンに対し、ネクが声をかける。
「……サン。大丈夫。別にサンがアリゲイトと戦うわけじゃない。だからそんなに気負わないで、ねぇシェド」
「ああ、そうだな。もしたまたまアリゲイトと交戦になっても、お前が前回みたく突っ込まない限りは、俺が相手をする。カニバルの最強は、紛れもなく俺だしな。まあ今回のサンの役割は、もし仮にマムスと戦闘になった時、お前にやつの相手をしてもらいたい。やつもゲッコウほどではないが手練れだ。ネクだけじゃあ敵わない」
「そのマムスってやつはどんな獣人なんだ?」
「やつはマムシの獣人だな。レプタリアでもっとも毒に対する知識が深く、レプタリアの参謀的役割を担っている。あいつの策略にはまったまま戦うことになれば、ゲッコウより厄介な相手になるだろう」
「また毒か。前回のあれ痛かったんだよなぁ」
「まあ、お前には基本的にネクと行動してもらうし、マムシの毒の血清は持っていくから安心してくれ。あ、それとレプタリアの本拠地はここからだいぶ遠いが移動に飛行船は使えないからな。歩いて行って、一度あっちに泊まることにはなる。だからそれなりの準備はしておけよ」
泊まるのか、再びサンの頭に疑問がよぎり、彼はシェドに尋ねる。
「泊まるってどこにだよ。だってそこも敵地には違いないわけだろ。レプタリア軍にバレずに体を休められる場所なんてあるのか?」
「それについてはうちの諜報部員が調べてるよ。おいネク。頼む」
「……うん、今回私たちが拠点として活動するのは、レプタリアのハクダっていうスラム街。そこにちょうどいい空き家があったから、そこを拠点にしよう。あそこなら、南の峠から離れてもいないし、治安が悪いから、レプタリア兵もあまり寄ってこない」
スラム。都市部において貧しい層が密集した地区のこと。確かにそこならレプタリア兵も好んで近づきたいとは思わないだろう。サンは納得する。
「……それにハクダのスラム街は、アリゲイトやゲッコウが育った街でもあったって聞いてる。だから、もしかしたらなんらかの情報が隠されてるかもしれない」
「あ、そうなんだ!? あのゲッコウもスラム街育ちなのか」
そこでサンは、ふとスカイルで出会ったイエナやピグル、アラシのことを思い出す。確か彼らも貧しいところで育ったはずだ。やっぱりそういうところで育つと、自然と本能的な戦闘能力も上がっていくのだろうか。
今回の話すべき内容を話し終わり、シェドはまとめに入る。
「まあとにかくこれで今回の説明内容は終わりだ。多分出発は明日ぐらいになるだろうか。だから今日はしっかり休んでおけよ」
こうして、カニバル軍での新たなる作戦が始まるのだった。作戦会議の翌日、サンたちは、南の峠を出て、ハクダを目指して出発。特に何もトラブル等起こることなく、彼らは、ハクダにたどり着いた。しかし、サンは、その地ハクダにて、人生を変える出来事が起こってしまうことを、彼はまだ分かってはいなかった。




