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ありがとうな……シェド

「ようやく気づいたようだな。もうお前の中には、再生する獣の力など残っていないということに。先程お前は俺がいつでもお前を殺せると言ったがそれは買い被りすぎだ。かつてのお前との3度の対戦。俺はお前に負けはしなくても、倒し切ることはできなかったよ。そのお前の再生能力のせいでな!」


 敵の動揺する隙を逃さず、一気に距離を詰めるシェド。そんな彼の爪を、ゲッコウは槍で受ける。シェドは、互いの武器を挟みながら、ゲッコウへ向かって言葉をこぼす。


「だが、お前はジャカルとサンとの戦闘でその再生能力を使い果たした。もうお前の中に、ヤモリとイモリの獣の力は残っていない。だから、俺はここでお前を倒させてもらうよ」


 血と共に少しずつ活力が流れ出ていくゲッコウ。彼は、絶望的な状況ながらも不敵な笑みを浮かべて、シェドに呟く。


「なるほどな。通りで、あんな何も知らない兵士をカニバルがよこすわけだ。お前、あの再生能力持ちの男と俺に最初から削り合わせるつもりだったろ?」


 二人の距離は近く、ゲッコウはもう声を張り上げる元気は残っていない。だからこそ、今このゲッコウの会話は、サンには聞こえていなかった。シェドは、冷たい目を浮かべて、ゲッコウの質問に答える。


「は、なんのことだかわからないな」


「とぼけるなよ。なぁ、流石の俺も出来過ぎた話だと思うぜ? 俺が倒した隊員が、あのサンってやつとたまたま仲が良くて、それでたまたま正義感の強いサンってやつが、俺と同じ再生能力を持って俺を倒しにくるなんて。なぁ、シェド。どこからだ? 一体お前はどこからこの展開を仕込んだんだ?」


「さあな。俺は全知全能じゃないから予測できないことなんて腐るほどあったよ。俺がこんなリスクを負うことになるとは思わなかったし、あの男があれほど周囲を惹きつけることはわからなかった。ただ、今まで、書いたシナリオに比べたら、まだアドリブは少ないほうだったさ」


「外道だな。他人を騙し、甘い汁を啜る。そんな勝利になんの価値がある?」

「なんとでも言え。俺は、俺の野望を全うするためならどんなことでもしてみせる。それが俺の信念だ!」


 ――ガキィィィィン。


 シェドは、自らの拳でゲッコウの槍を高く打ち上げる。そして、そのまま彼は、手を抜き手のようにし、獅子の爪を発現させ、それをゲッコウへ打ち立てる。


「鎖烈獣術、牙槍!!」


 ――ズシャァァァァァ。


 無惨にも真っ直ぐにゲッコウの胸を貫くシェドの右手。そしてシェドがその手を抜くと同時に後ろへ倒れるゲッコウ。


 倒れる刹那、様々な想いが彼の脳を駆け巡る。


 ――ああ、いてぇなぁ。いてぇ。こんないてぇの初めてだよ。しかももう治らないとか想像つかねぇぜ?


 ――思い返せば嫌なことばっかりだったぜ。実験成功例なのに、最終的にその再生能力を気味悪がられてスラムに捨てられるし。


 ――そのスラムで親友に出会えても、周りにはクソみたいなやつしかいなくてよ。


 ――そんな人生を変えようと強くなったって結局は戦うだけの毎日だった。


 ――でもさ、本当にクソみたいな人生だったけど、ここでただ倒れたら、アリゲイトに申し訳がたたねえなあ。


 ――ああ、そうか。あいつにかっこつけるためなら、別にまだ立てるな。


 ――ズザザァァァァ。


 しかし、すんでのところで足を後ろに出し、なんとか持ち堪える。腹には穴が空き、血は絶え間なく流れ続けている。誰が見ても限界だった。立つ気力などないはずだった。だが、彼は、なんの意味を持たないのにも関わらず、そこで倒れることを拒絶した。


「まだ、立つのか。言っておくが、もうお前に勝ち目はないぞ」


 ゲッコウに対して、威圧的な視線を向けるシェド。しかしゲッコウは、顔すらもあげられないため、彼の目を見ることはできない。


 そして彼は、静かに言葉を呟く。


「……はは……はははは」


あまりの覇気のない呼吸に、シェドが、それを彼の笑い声と認識するのは、わずかに時間がかかった。死に際に放った彼の笑みに、シェドは思わず彼に問う。


「なんで笑ってるんだよ? 何がそんなにおかしいんだ?」


 しかしゲッコウはシェドのそんな問いには答えなかった。ただ、彼は両目に少しの涙を浮かべて、僅かに顔を上げシェドに言った。


「……いやぁ、気にすんなよ。……ありがとうな。シェド」


――ドサッ。


 そして彼はゆっくりと目を閉じ、前に俯くように倒れるのだった。


 こうして南の峠に駐屯していたレプタリア軍は、隊長を失ったことにより、撤退を余儀なくされた。不思議とゲッコウがやられても敵を打とうとするものはいなかった。しかし、それは彼の人望がなかったことの裏返しではないのだろう。唇から血が出るほどかみしめて撤退する彼等を見るに、きっと誰かからゲッコウが負けたらすぐに撤退するよう命令を受けていたのだ。


 こうして数年前にレプタリアによって襲撃された南の峠は、長い月日を超えて、ようやくカニバル軍の元へと戻ってきた。カニバル軍は、1日にしてレプタリア軍に勝利を収めたのだった。

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