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俺がこの戦争を終わらせるから

 こうして1日目のカニバル軍とレプタリア軍の南の峠をめぐる戦いは幕を下ろした。カニバル軍が上げた功績は、カメレオン部隊の撃破。しかし、シェド軍が奇襲を行うつもりで戦っていた本隊は、作戦通りにことが進まず、結局レプタリア軍に大打撃を受ける結果になった。


 またジャカルはネクの献身的な治療もあり、すぐに命を失うという結果にはならなかった。けれどそれも時間の問題だろうと彼女は言っていた。今ジャカルは、重症患者が、預けられる病床で静かに横になっている。


 そして、ベアリオやシェド、ネクにねぎらいの言葉をかけられ終えたサンは、その病床にきて、ジャカルの元を訪れていた。


「……ジャカル。きたよ」


 もう夜も遅いため、他の重傷者はすっかり寝ているようだ。サンは彼らを起こさないようにジャカルに近づきながら、彼に優しく言葉をかける。


 ジャカルはこちらに気がつくと、柔らかに微笑みながら、近くにあった椅子を差し出す。


「……おお、サンか。……まあ……そこに座ってくれ」


 声を出すのもやっとのようだった。腹に巻かれた包帯には真っ赤な血が滲んでいる。サンはそんな彼の様子に、思わず涙を浮かべそうになる。


「……あまり……みないでくれ。……みっともない姿だからな。……それより、来てくれてありがとう。……もっと近く、顔を見せてくれるか?」


ジャカルにそう言われて顔を近づけるサン。そんな彼の頬にそっと手を置き、ジャカルは、静かに言葉を紡ぐ。


「……やっぱり若いなぁ。……ほんとにすごいよ、君たちは。……サンもシェドもネクも、その若さで……みんなそれぞれの強さを持っている。……ごめんなぁ。……俺たち大人たちが始めた戦争なのに……君たちばかりに重荷を負わせている。……俺は、自分がみっともないよ」


 サンは、自身の頬に添えられたジャカルの手を握る。


「そんなことないよ。ジャカル。俺にとってジャカルはかっこいい大人だ。だから、俺の尊敬する人を、そんな風に言わないでくれ」


 そんな言葉を聞いて、ジャカルは再び柔らかく笑う。しかしその笑顔は、あまりに儚くて、今にも散ってしまいそうな桜のようだった。


「……ありがとうなぁ、サン。……俺は運がいいよ、サン。……自分の死に際でそんな言葉をかけてくれる人なんて、生涯でどれぐらい出会えるんだろうなぁ。……そうだ、サン。……ジャックに伝えて欲しいことがあるんだよ。……頼めるかい?」


「……うん、聞くよ。ジャカル」


「……ありがとう。……そうだなぁ。まずは健康に気をつけて、独りにさせたのは本当に申し訳ないけど……あんまり心配はしてないよ。……お前はしっかりものだからな。……きっと大丈夫だ。……それとな。……お前の周りには、シェド隊長、サン、ネクとか尊敬すべき人達がたくさんいる。……ジャックもきっとそういう存在になれるよ。……みんなを守れる強い存在に、ジャックなら、きっとなれるからな。……じゃあな、俺とピュマの大切な息子」


 そして、ジャカルは、ゆっくりと眠るように目を閉じるのだった。


 ――やっぱりダメだ。俺には、この人を見捨てることができない。


 ぽたぽたとジャカルの顔に涙を滴らせるサン。そんな彼は、手にそっと炎を灯した。再生の性質10割の傷を癒す炎。彼がスカイルにてスアロを蘇生したものと同じ炎だ。


「ジャカル。俺からはそんな恥ずかしいこと言えないよ。それはさ、あんたが直接、ジャックに伝えてくれ」


そしてサンは、自らの手のひらに灯した炎を彼の胸へと当てる。ガクンっと、サンの体からドンドン活力が吸われていく。そしてジャカルの顔色が少しずつ、あのアツかった頃の彼に戻っていく。


 ――やっぱり、きついな。


 本来サンはこの蘇生の力を、カニバルとレプタリアの戦争では使わないと決意していた。なぜならサンの一日に蘇生できる人数は、1人だけ。そして、その誰かを選ぶということは、助けられない複数の誰かを見捨てることと同じ行為になる。


 だからこそサンは、この戦争という多くの重傷者が出てくる場で、この力を決して使いたくはなかった。自分と関わりのあるものは救い、自分と関わりのないものは救わない。そんな選別は、命に背く行為だと思ったから。


 けれども彼は、たとえそれが非人道的な行動だとしても、ジャカルを、目の前の大切な友を見捨てることができなかったのだ。


 すっかり顔色も守り、心臓も正常に機能しはじめるジャカル。サンはそんな彼を見届けると、ゆっくりとこの病床を出ようとした。帰り際に、様々なカニバルの獣人のうめき声が聞こえる。きっと彼らにも、ジャカルにとってのジャックと同じくらい、帰りを待ってくれる家族がいたのだろう。この戦火を飛び越えて、健やかな体で抱きしめたい存在がいたのだろう。


 ――ごめん、みんな。俺にはもう、みんなを助けることはできない。でもその代わりに。


 病床を出て、サンはじっとレプタリアの本陣を見た。南の峠は、道が険しく、とても灯りなしで進めるようなものではないらしい。だから、夜は両軍ともにこうして体を休めることができるのだとネクが話してくれた。


 サンは刀を発現させ、自らの炎を灯す。ボワッと辺りが明るく照らされる。そして彼は、敵の本陣へと向かって走り出す。


 ――その代わりに、俺がこの戦争を終わらせるから!

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