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だからきっと、まだ足りない

――過去――


「なぁ、ファル先生、ちょっとさ。俺、ファル先生に聞きたいことがあるんだ」

「ん、なんだよ、スアロ。お前が俺に対して質問なんて珍しいな」


ある道場の帰り道。サンとクラウの二人にはたまたま用事があったので、この日はスアロとファルの二人がフォレスへの帰路についていた。


「なんでさ。サンはあんなに陽天流が使えないんだ? 練習量は、俺の何倍にもなるはずなのに?」

「お前のことだからきっとサンへの嫌味じゃ決してないんだろうな」

「うん。純粋に気になるんだ。なんかあいつの頑張りが報われないのがさ、見ててモヤモヤする」

「ははは。優しいお前らしい理由だなあ。そうか、多分それは、サンがどの獣の力も持ってないからだろうなぁ。陽天流の型は、ある程度獣の力の補正がなきゃできないように作られている。洛陽とかは、普通じゃありえないほどの動体視力がないとできないから」

「じゃあさ、サンが仮に獣の力を手に入れたら急に強くなるってこと?」

「多分そうかもなぁ。普通なら体に急な変化が起きたら戸惑うだろうけど、努力家のあいつなら、もし自分がもっと動けたら、こう戦うのにっていうイメージをしっかり持ってそうだよな。……まあ、できれば、今のままで強くなって欲しいんだが」


ふと、何かを思いを馳せるように夕日を見つめるファル。スアロは、いや、彼だけでなくサンやクラウも、何度も彼のそんな表情を見ることがあった。


 懐かしい何かを見つめる目。そして、あまりにも深い悲しみと恋しさに満ちた目。


 スアロは、そんなファルの表情に深く追及することなく、自らの言葉を発する。


「でも、もしサンが強くなったら怖いな、俺」

「なんでだよ。追い抜かれるのがそんなに嫌なのか?」

「ううん、そんなんじゃないんだ。なんかあいつが強くなったらさ、何もかもさ、一人で背負うようになるんじゃないかと思ってさ。サンは、きっと自分に力があるなら、全部独りで困難に立ち向かうようになる。そして、無意識に自分を擦り減らす。なんだか、そんな気がするんだ」

「――ああ、そうだな。きっと、サンは、そうなるだろな」


そう言うとファルは、また遠い誰かを思い出すような目を浮かべる。スアロは、そんな彼に言葉を放つ。


「なあ、ファル先生。俺さ。もっと強くなりたいよ」

「そうなのか? だってもう十分強いだろ?」

「まあね。でも、もっと強くなりたい。きっとサンはさ。いつか誰よりも強くなると思うんだ。けれどあいつはきっと、みんなを守ろうとしても、自分のことなんて考えもしない。だからさ、俺があいつを守ってやりたいんだよ。あいつが守りたいみんなに、サンは入ってないから。そんなあいつを守れるくらい強くなりたい。だからきっとまだ足りない」

「そうか」


 ファルは、スアロに対して笑顔を浮かべる。そして、彼の頭に手を置き、スアロに伝える。


「じゃあ、もし俺がいなくなったら、みんなのことはお前とサンに任せたよ。サンは目に映るもの全てを守るって、言ってるけど、それには限界がある。そして、その目にはサンは写ってない。だから、スアロは、サンが自分自身を含めた守りきれないものを守ってくれ。頼んだよ」

「ああ、約束するよ。ファル先生」


 夕焼けが照らす中、太陽にも負けぬ暖かさを放ち、二人帰路につくスアロとファル。


 スアロは、剣士としてあまりにも優秀な才能を持っていた。だからこそ彼は無意識に感じ取っていた。サンの中に眠っている大きな力を。そして、その力をファルは隠そうとしていることを。


 それ故に、スアロは何よりも分かっていたのだ。いつかはサンに抜かれると。きっと自分がどれほど努力しても、それを超えるサンの熱量や潜在力には勝てないと。


 しかし、スアロはそれを恨みはしなかった。なぜなら、彼はサンの志に感銘を受けていたからだ。目に映るもの全てを守りたい。そう言って努力するサンは、スアロにとって、剣で勝っていようとも、目標と呼べる存在だった。


 そして、だからこそ、スアロは、そんな彼が守りきれないものを、守りたいと強く思ったのだ。


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