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武力をちらつかせた途端に、平和的話し合いなんてできないよ

 それから、アリゲイト、シェド、ネク、そしてサンは、共にカニバル城へと向かった。目を覚ましたアリゲイトは清々しいほどに潔くて『どうぞシェド隊長のお好きなところへ連れて行ってくれよ。どうせ、サンに負けた時点でレプタリアはサンの提案を呑む意外道はねぇんだ。負けか引き分けか。こうしてみると、確かに俺は、抱えているもの投げ出してでもベアリオ王と話さなきゃならなくなったな』と語っていた。


 とはいえ、敵軍の大将なのでそのまま野晒しでカニバルの地に連れて行くわけにもいかない。そのためにシェドたちは、グレイトレイクで内密に馬車を借り、アリゲイトに縄をかけて運んでいくことにした。サンはアリゲイトに縄をかけるのに反対したが、ネクが防犯上の観点から仕方がないのだと説明するとわかってくれた。


そのかわり、カニバルがアリゲイトを襲うことがないよう、サンは、基本的にアリゲイトのそばにいた。この獣人は、本当にアリゲイトとベアリオに話をつけさせる気なのだ。その本気が伝わったのか、アリゲイトもサンと打ち解け、2人で色々な話をしていた。


シェドはそんな2人が乗った馬車を引いたり、ベアリオへ事の顛末を記した伝書鳩を送ったりして、ようやくカニバル城にたどり着くのだった。



「うおぉ、ここが玉座の間かよ。デケェなぁ。扉」

「権威なき者に民は従わない。それがベアルガ王の考え方だったらしいよ。ベアリオから聞いたんだ」


城の内装の豪華さにいちいち子どものような反応を示すアリゲイト。そんな彼に対してサンが自慢げにカニバルにきてから得た知識をひけらかす。自分もこの国に来たばかりだろうに。


「いやぁ。しかし、こえぇなぁ。だってこのドア開けたら槍でブスってこともあるわけだろ? 手がこわばっちまうぜ」

「大丈夫だって、アリゲイト。ベアリオはそんなことしないよ。それにあんたの鱗なら槍程度じゃきかないだろ」

「いやでもサンよぉ。永く生きてても怖いものは怖いんだぜ? なぁ、サン。ちょっと俺の背中バシって叩いてくれよ。そしたらやる気も出るってもんだ」

「そういうもんなのか? よっしゃ、任せてくれよ」


ドアの前で騒いでいる2人、そんな彼らに対し、シェドは呆れて声を張り上げる。


「ガタガタ言わずとっとと入れ! というかお前ら、どれだけ仲良くなってんだ!!」

「うわ、大声出すなよシェド隊長。お前絶対カルシウム足りてないと思うぞ」

「まあ確かにそれは、俺もアリゲイトの言う通りだと思うよ、シェド」

「うるさい! いいから早くしろ!」


 シェドに叱られて、いそいそと扉のドアノブに手をかけるアリゲイトとサン。そして彼らはシェドとネクを背後に連れ、カニバル城の王の間に入ろうとする。


 ――ギィィィィィ。


 軋む扉をゆっくりと開く。するとそこには、ベアリオがただ1人ポツリと立って待っていた。


「一応何人かの護衛はつけとけって言ったはずだけどな。ベアリオ王」

「必要ないさ。武力をちらつかせた途端に、平和的話し合いなんてできないよ。それと、はじめまして、レプタリア国王アリゲイトさん。僕が、現カニバル国王。ベアリオです」


 するとベアリオは真っ直ぐに自らの手を差し出した。何年も戦争を続け、父の仇でもあるアリゲイト。そんな彼に、ベアリオは何の躊躇いもなくその手を差し出したのだ。


 アリゲイトは、そんな手に驚きながらも、自らも手を差し出し、その手をがっしりと握った。そして彼もまた真っ直ぐにベアリオのことを見据える。


「あんたがあのベアルガ王の倅か、よろしくな。だが、あいにく貧民街の生まれだから、俺はそんなに礼儀正しく話せないぜ」

「構いません。礼儀なんて尽くしたところで、この戦争が終わるわけでもありませんから。あ、ですがアリゲイト王。あなたと円卓の席に着く前に、私はカニバルを代表してあなたに言わなくてはいけない」


するとベアリオは、深く深く頭を下げた。一国の王が、敵国の王に頭を下げる。そんなことは、国の面子を考えたら決して起こってはならない事態だ。


「お、おい、ベアリオ。何してるんだ」

「黙っていてくれ! シェド! ついに来たんだ。レプタリアの王と話ができるこの時が。だからこそ、この会談を成功させるためにも、席に座す前に、僅かなわだかまりもあってはならないんだ!」


そしてベアリオは、アリゲイトに向けて言葉を向け、続ける。


「我々の兵が、愚かな行為を働いて、ハクダの民間人を傷つけた。しかもそれはあなたの大切な人だったと聞く。2人は国外追放としたし、レプタリアとの国交が回復した際も今後こういったことがないよう努めます。本当にすまないことをしました」


 アリゲイトは、そんなカニバル国王のことを、信じられないものをみるような目で見つめた。しかしその後、どこか悲しそうな目をして、彼は続けた。


「……なるほどな。もっと早く、あんたのことを知りたかったよ。ベアリオ王。俺は今から、あんたの言葉に、そしてカニバルの言葉に、信頼を持って耳を傾けることをここに誓おう。そして、レプタリアを代表することはできないが、1人の人間として、あんたに謝罪する。大切な父君の命を奪ってしまって、本当にすまなかった」


 今度は深く深くアリゲイトが頭を下げる。ベアリオはそんな彼のことを、意外そうな眼差しで見つめ、そして彼は、微かな笑顔を見せた。


「大丈夫です。父の熱意や志は、形を変えても私の中で生きていますから。それではアリゲイト王、腰をかけてください。この戦争を終わらせるために何ができるのか、2人の知恵を出し合って考えましょう」

「ああ、よろしくな」


こうしてアリゲイトとベアリオの対談が始まった。サンとネクとシェドは、その2人の様子を王の間の端で、眺めていることにした。


「さて、それじゃあ、まずこちらを見ていただきたい」


 ベアリオは、自身の机の下から大量の書類を取り出した。サンがこの場所にきたとき見せてもらったものと同じものだ。


「何だよ? これ?」


「あちらにいるネクなどのカニバル国の諜報部隊にレプタリアのことを調べさせ、そして僕が持っているカニバルの知識を組み合わせた戦争終結の案です。いくつか考えましたが、どれも今一決め手に欠ける。

だからこそ現地の人の意見を聞きたいと思っていたんです。ましてや、それが国王なら尚更ありがたい」


「はあぁ。すげぇなぁ。よくここまで調べたもんだ。どれ、少し見せてもらうぞ。レプタリアのコクラ地区の開拓による農地拡大。あそこは地質的に難しそうだな。そしてこれはカニバルによる農耕技術の提供か。一方的な提供になるとと利益が絡んだとき、面倒だ。ん? これは何だよ? グレイトレイクの流域拡大? 湖の大きさはかわんねぇだろ」


「いや、作るんです。グレイトレイクからハクダを横断し、ゆくゆくはハビボルとも交渉して、あの国に面している海と繋げる。そうして大運河を建設する」


 アリゲイトは、ベアリオの考えに対し、深く何かを考えるような表情を浮かべる。


「なるほどなぁ。それなら水問題は解消されるし、レプタリアも家畜の飼料を作る産業を生かして発展できる。しかし、そんなこと本当に可能か?」

「わからないんです。レプタリアは、国の性質的に地質が硬い。だからこそ、多大なる労力がかかってしまうんじゃないかと」


「いや、いけるな。スラム街だからしっかりとした資料がなかったのか。ハクダの地質は水捌けが悪くてぬかるんでるんだ。あそこなら、多分簡単に掘り進めることができる」

「本当ですか。確かにハクダを経由すれば、ハビボルの海に繋げるのもスムーズにいく」


「けれどそのハビボルは本当に俺たちに協力してくれるのか?」

「そうなんです。それも考えていきたくて」


「それならカニバルの産業をいかして、これこれこうしてこうすれば」

「なるほど、それならこれこれしてこうできますね。でもならレプタリアでもこれこれこうさえすれば」

「確かにこれこれこうなるな。てことはこれこれこうして」


 議論を白熱させ、互いの国のために、自らの情報全てを曝け出す2人。そんな中、もはやサンは、2人の会話を言語情報として頭に入れることができなくなっていた。


「シェド、俺抜けていいかな。本は好きなんだけどこういう政治の話は頭が痛くなってくる」

「待て、俺も行く。俺も軍とか兵が絡まない話はからきしなんだ。大分序盤からこいつらが何を言っているのか分からん。ネクは、どうする?」

「……私は、ここに残ってもう少し聞いていく。嫌いじゃないから、こういう話」

「わかった。余裕があったら後で要約して教えてくれ」

「……うん」


 こうして、ネクを残し、シェドとサンは王の間を後にした。まああれほど目を輝かしていたなら、あそこから争いに発展することはないだろう。

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