夢をバラードに乗せて
「ちーちゃん、お歌が上手だね。歌手になれちゃいそう。」
テレビの前で歌うわたしに、ままはいった。
「ちー、ピアニストになれるね。」
発表会の後、花束を持ったママがいった。
「すごい、ちーちゃん絵描きさんになったら?」
スケッチブックに向かって、お母さんは言った。
「あなた、ゲーマーにでもなるの?」
ドアの向こうで、あいつはいった。
「ちひろ、何を目指してるの?」
分からなかった。
「ちひろ、本気なの?」
「ちーちゃん、私はずっと応援してるから。」
スーツケースを引いてドアを開ける私に、母は言った。
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「エントリーナンバー269番、山崎ちひろさん!どうぞ。」
マイクを持つ私の手は震えている。
声が出ない。
あんなに練習した曲の歌詞を見失う。
「ちーちゃん、お歌が上手だね。」
「歌手になれちゃいそう。」
その言葉を信じて、ここまで来たんだ。
私は握るマイクに、ありったけの思いと、声を響かせる。
「私はずっと応援してるから。」
ありがとう。
バラードのリズムと、私の歌声が、会場を満たしていく。
気付けば、歓声と拍手が、私をやさしく包み込んでいた。
読んでくださってありがとうございました。
私の母親と、ちひろのお母さんを重ねながら書きました。
「〇○になったら?」と私に言う母の癖を、我が家では「ママハローワーク」と呼んでいました。
少し照れるけど、そう言われることは案外嬉しかったり。
そしてその言葉が、自分の人生の舵を持つことも、あるのです。