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苦手な方はご注意ください。

満腹村

作者: セロリア


優雅な住宅街。

生ゴミを漁る母親と小さい娘の姿。


岡山県、倉敷市内の歴史ある住宅街の一角の光景。


ゴミを漁るのは違法である。


警察に通報された。


母親は娘と離ればなれになるのが嫌で、娘を抱き抱え逃げた。


現在2024年。


時代はビットコインと土地持ちだけが、優雅な生活を許される時代になっていた。


日本円は暴落。


無価値とは言わないが、日経平均株価は3000円代に。


何故ならアメリカが内戦になり、ドルが暴落した為だ。


今や中国の元、インドのルピーが力を持ち、それ以外は紙屑へ。


世界は大戦前夜とされつつも、何とか大戦は避けよう避けようと努力している状態であった。


そして。


日本政府は最低限生活出来るようにと、毎月旧日本円換算で8万円分のビットコインをマイナンバーカードに振り込む法案を可決。


銀行は既に全く存在しない。


個人銀行として、マイナンバーカードが存在するように。


マイナンバーカードは盗まれる。


従って、手の甲側、親指、人差し指の間にマイクロチップ式マイナンバーチップの登場である。


だが、急激なインフレにより、キャベツ一玉6000円の時代。


8万円分等、直ぐに無くなる。


人々は飢えた、そして、大量に殺し合い、大量に食い合い、大量に死んだ。


都会だけではない。


田舎も同じ。


理由は科学肥料に頼った栽培方法だった為である。


三期作分は土壌栄養が持たない。


作物はあっという間に不作へ。


田舎は缶詰めがない。


都会に缶詰めを買いに来る田舎者が増えたが、当然売り切れ。


自然の川の水、魚だけでは、栄養が足りない。


川の魚も都会の者が大量に乱獲。


魚が激減。


痩せた鳥の死体を猫が咥えて運び行く。


人が人を隠れて食う時代に突入したのが、2023年5月初め。


まさに餓鬼道に堕ちた世界が日本の光景であった。


現在2024年。


人の数が減り、落ち着いて来たが、まだチラホラ、飢えた人が残飯を漁る時代、2024。


人を食べた罪悪感に苛まれながらも、子供を産み、育て、親になる。


子供のふっくらした手を見て、涎を飲む自分が有る。


人を食べたからなのか、障害児童が大量に産まれている時代。


どうせ長くは生きられない赤ちゃんなら、食べー・・〈ゴクリ〉。


自殺する親が多発。


我が子を食べる前に死を選ぶのだった。


が。


親に死なれた赤ちゃんの行方は。


施設行き。


その施設は、富豪が食肉工場と呼んでいた。


赤ちゃんらは富豪向けに出荷されていた。


そんな時代に。


この親子は、必死に必死に生きていた。


親は聖書を持っていた。


子守唄代わりに夜の公園で子供に言い聞かせた。


必ず神様のお導きがあると。


諦めてはいけないと。


獣になってはいけないと。


人間の皮を被った獣になるくらいなら、泥水をすすり、残飯を食べた方が人間であると。


諦めてはいけないと。


何度も何度も。


何日も何日も。


それは普通での時間では6日間であった。


だが、この親子にとっては。


数年間に値した。


家を追い出されてから7日目。


とうとう残飯に洗剤が投入された。


公園に、警備員が巡回するようになった。


そして、今夜。


とうとう警備員に声を掛けられてしまった。


警備員から逃げようにも、もう体に力が残っていない。


5歳の女の子は既にうわごとを言っている。


母親からは涙も落ちない。


警備員は二人組み。


警備員1「ちょっと待ってろ!見張ってろよ?」


警備員2「任せてください!」


警備員2は泣きながらもう大丈夫、もう大丈夫だと母親と娘の肩を擦っていた。


警備員2「噂を聞いて探していたんだ、逃げるのが上手いから手間取りました、すいません、すいません」


母親は何のことか解らない。


とにかく眠い。


意識を失った。












目が覚めた。


病院?のベッドの上だった。


だが、病院というよりも、何というか、街医者のような感じの、民家を病院に改装したかのような。


知らない女性30前半「あ!目覚めた?やっぱり砂糖蜂蜜レモンは効くわー」


母親の口にチューブが通って痰を吸出している。


点滴が腕青静脈へ流れている。


知らない女性「あなたの子供はもう元気になって、走ってるわよ?あなたも早く元気にならなくちゃ、ね?子供に全て食料やってたんでしょ?気持ちは解るわ、早く良くなりな、今、あなたの子供さん、呼んで来るから、待ってて」


笑顔で知らない女性は出て行った。


母親は困惑していた。


病院に払うお金なんか、持っていない。


出来るだけ退院しないと。


出来るだけ早ー・・。


あらゆる場所にここは全てが無料です。という張り紙が張ってある。


母親の近くのあらゆる場所に。


天井まで。


ここは全て、衣食住、病院、税金、ありません。


ここは全てが無料です。


ようこそ、満腹村へ。


母親「私は・・死んだのかしら?」


ママあ!


母親が呆然としている間に、娘に抱き付かれた。


間違いない。


間違える筈がない。


娘だ。


娘の匂いだ。


母親はやっと現実に頭が追い付いた。


母親「あああああああああああ」


岡山県、津山市、北西の村。


季節、冬、1月20日。


暖炉から鉄パイプが伸び、部屋に張り巡らされている。


細い鉄パイプは壁に触れない位置にあり、床下からは小さい小窓が開いている。


冷たい空気がそこから入って、暖炉から抜ける。


一酸化炭素中毒を防ぐ為だろう。


母親はやっと落ち着いた。


母親「一体ここは?」


知らない女性「私は斎藤京子と言うの、あなたは?」


母親「私は・・田中美智子、この子はひかり」


京子「うん、ひかりちゃんなら名前聞いてる、平仮名でひかり、なんですって?ふふ、素敵な名前ね」


美智子「あ、ありがとうございます、それであの」


京子「美智子さん、ここは、見捨てられた人間のオアシスなの、最後の楽園なのよ、あなたは間に合ったの、気絶しても、あなたは聖書を絶対手放しはしなかった、尊敬するわ、そして、お疲れ様でした、ようこそ満腹村へ、現代的なものは何もないわ、ゲームも、スマホも、電気も、水道水も、ガスも、テレビもね、ラジオはあるけどね、でも、生きていける、ここは、食べ物は全てある、ハム、ソーセージ、すき焼き、ピザ、アイスクリーム、チョコレート!凄いでしょう?ふふふ」


ひかり「ママ本当だよ!?ひかり、いいっぱあい、食べたの!いいっぱあいだよ!?お肉もお野菜もお菓子もケーキも!いいっぱあい、いいっぱあい、あるんだよ!?ママも早く良くなって食べよう?ね?」


美智子「夢・・じゃないの?」


ひかり「うん!夢じゃないんだよ!ママ頑張ったから、神様がご褒美くれたんだあ、よしよし、ママ頑張ったもんね、よしよし良い子ね、ママ良い子」


また涙が滝のように溢れた。


本当に助かったんだと。


元気になった我が子の力強い腕の力が。


伝わって。


それが、非常に嬉しかった。







美智子はお粥生活が終わり、フルーツを食べられるようになった。


歩く練習を開始。


2日で歩けるように。


村を案内、見せて貰った。


専門家が集まっていた。


医者。


鍛冶職人。


大工。


薬草師。


井戸掘り師。


漆喰師。


野菜農家。


豚農家。


酪農家。


馬。


羊農家。


鶏農家。


漁師。


猟銃を持つ猟師。


茸農家。


コンクリート設計士。


一級建築士。


格闘家。


軍隊っぽいベトナム、インド、韓国、メキシコ、台湾人達。


彼らは日本語がペラペラであった。


気さくで、優しい雰囲気。


日本人の魂を感じられた。


彼らはもう、日本人だった。


菊の紋章を体に彫っている外国人が多い。


日本人だという誇りがあるようだった。


美智子「いったい誰がこんな村を作ったんです?」


京子「あー・・それは知らない方が」


メキシコ人のめちゃくちゃ美人な女性「そーね、したらこうかいするねー、じゃじゃじゃじゃ」


バケツに沢山の凍ったフルーツを入れたメキシコ人女性が笑いながら道横を走って行く。


京子「もう!アインー?転ぶよー?」


アイン「だいじょぶーじゃじゃじゃじゃ」


見えなくなった。


美智子「今のは?」


京子「村長のお嫁さん」


美智子「うええ!?」


京子「犯罪よねー?あははは」


美智子「・・やっぱり、村長は、その男性なんですか?」


京子「うん、男性、不安?」


美智子「・・」


京子「心配ないない、あいつは弱い人には無害だから!ね!」


美智子「・・はい、?え?、弱い人には?それどういう・・」


京子「さ!後少しで着くよー、ほら見えた!あれ!」


豪華な家だ。


立派な瓦屋根、雪が少ししか積もっていない。


よく見ると針金?が屋根全体に張り巡らされている。


針金に通されている熱があるようだ。


美智子「凄い・・」


京子「見れば凄いなんて思わなくなるよ、さ、入って入って!」


大きな門。


中くらいの鐘がある。


〈コーン、コーン、コーン〉


京子が三回鳴らした。


灰色紳士服の品の良いお爺様が出てきた。


京子「あ!目が覚めたの!この人!美智子さんっていうの、奴に知らせてくれる?めーやさん」


紳士服のお爺様「京子様、めーやさんはお辞めくださいといつも言っていますでしょうに、美智子様、お身体はもう大分良くなられたご様子、大変喜ばしく、ささ、中へ、ささ」


美智子「あ、ありがとうございます」


京子「めーやさんで良いじゃん、羊なんだし」


お爺様「羊ではございません、執事でございます」


京子「一緒じゃーん」


お爺様「私には、翼様より、授けられた武蔵という立派な名前がございます故に」


京子「えー、もっと品の良い名前にしなよー、セバスチャンとかさー」


武蔵「私は武蔵、結構好きでございます故に」


京子「はいはいそーですかー」


長い廊下を歩いて行く。


武蔵が膝を付き襖を少し開ける。


光が漏れる。


武蔵「親子連れの母親の方がお目覚めにございます、京子様がお連れになられました故に」


翼「あー・・はいよー、通してー」


武蔵「は」


襖が完全に開いた。


巨大な机の上に大量の書類の山。


そこから、面倒そうにぬーっと顔を覗かせた痩せた眼鏡男。


若く見える。


30前半?だろう。


翼という人物は眼鏡をかけ、凍った葡萄を食べながら、大量の書類の山に目を通していた。


書類は和紙のようだ。


少し離れた所に暖炉があり、暖かい。


暖炉の側にもふもふの大きな床クッションがあり、そこで半裸同然のメキシコ人お嫁さんがチャイナ服?を着た状態で絵本を描いている。


翼「おー、目が覚めた?どう調子は?」


書類に目を通しながら、質問する男。


京子「ちょっと!世話したのあたし!」


翼「はいはい、よっこら」


京子に近づく。


翼「ほら、これで良いか?」


京子の頭を撫で撫で。


京子「えー、もっとー」


翼「えー?」


京子「もっとー」


翼「あー・・うりゃうりゃ」


京子の髪をくしゃくしゃに。


京子「きゃー、きゃはははは」


京子は嬉しいそう。


京子は嬉しそうに、メキシコ人お嫁さんのアインの方へ行った。


アインと京子は仲良しの様子だ。


アイスクリームの箱?を笑いながら取り合っている。


翼「夢みたいだろ?」


美智子「え?あ、え、ええ、まるで夢みたいで、現実感がまるでないんです、ここは、岡山県の津山市だと聞きました、しかし、何故こんなに専門家を集めたり、食料が大量にあるんです?あなたが作ったのですか?この村を?」


翼「答えはNO 、俺は何もしちゃいない」


美智子「え?」


翼「事実だ、俺はビットコインで多額の金を稼ぎ、その金を使って、安くなってた土地を買って、そこにホームレス達を大量にスカウトしただけ」


美智子「あ!」


翼「気づけばこうなってた、俺は飢餓が来ると解ってた、つか、調べたら誰にでも解ってたことだ、日本政府は産業から農業へシフトすると・・そうする筈だと・・思っていた、いや、そう願っていた、が、悪い状況も考えていた、悪い予想は、当たって欲しくないがな、悲しいかな、当たるんだなこれが」


美智子「地獄でした、あれは・・本当の地獄です、人を・・食べなきゃ生きられないなんて!」


翼「食ったかどうかはどうでも良い、俺も第二次大戦の末裔だ、俺の先祖が人を食った確率は限りなく100%に近いだろう、だから、あんたが食ったかどうかなんて、ここに居る皆は気にしないさ」


美智子「でも!」


翼「あんたは隣の餌を食わなかった、守ったじゃないか、例え、朦朧とする我が子に、無理やり肉を口づけで詰め込んだとしても、仕方なくやったことだ、誰も責めないし、責めさせないさ、俺がな」


美智子「う・・ううう」


美智子を抱き寄せる。


翼「大丈夫だ、これからは人間だ、あんたは人間、子孫は人間の味を忘れる、時間が解決する、大丈夫だ」


美智子「はいいい」


翼「ブルーベリーアイスクリームだ、食べると良い、暖炉の奴ら、分けてやれ」


仲良く食べていた箱に三本目のスプーンが足された。


暖かい暖炉に、ふわふわのクッション。


ブルーベリーが乱暴に入れられたアイスクリームの箱。


メキシコ人のアインが大きめスプーンで掬う。


暖炉の熱で箱の中壁から溶けているアイスクリーム。


アイン「あーん」


美智子「あ、あーん?〈パク、もぐもぐ〉ん!ん~!」


ふんわり濃厚なクリームミルキー。


ブルーベリーの酸味がより、甘さを引き立てる。


美智子「おいひー!」


アイン「じゃじゃじゃじゃ!あーん」


美智子「あーん」


京子「あーん」


アイン「京子はダイエットねー」


京子「あにをー?ダイエットが必要なんはここじゃー」


アインの胸を揉む。


アイン「じゃじゃじゃじゃ!変態ねーじゃじゃじゃじゃ」


アインのスプーンにパクりとかぶり付く美智子。


女性三人の暖炉キャッキャにため息を付きながら、また書類に目を戻す翼。


美智子は翼に尋ねた。


美智子「何故こんなに・・発展・・専門家を集めることが出来たのですか?」


翼「ホームレスの方々は皆それぞれ違う人生、経験を積んでいた、そして、この村には図書室がある、俺が大量に買った各専門分野の本だ、勿論電気技術もある、今は試作段階だが、冬が開けたら地場電気の御披露目だ」


美智子「地場電気?」


京子「地球は大きな電池という考えよ、どこでも大量の電気を作れるの」


翼「春には御披露目」


京子「あたしの旦那が作ったんよ?すげーしょ?にしし」


美智子「・・凄い」


また翼に向き直る美智子。


美智子「国を建て直しますか?」


翼「そうだな、そうできれば良いな」


翼のスマホに電話。


電話に出た翼がみるみる内に目が見開く。


勢い良く立ち上がり、翼は言った。


翼「とうとう始まった、戦争だ、アイン、走れ、京子、旦那に伝えろ、美智子さんは俺と来い、プランBだ、状況開始」


アインは軍服?に着替え始めた。


京子は直ぐに出ていった。


武蔵「何事ですかな?」


執事がドアを半開きにし、問う。


翼「戦争が始まり、プランBの状況が開始されている、全員のスマホに送った、直ぐに届ー」


執事のスマホ、奇妙なベルが鳴った。


翼「来たな、具体的な指示は追って出すから、今はただ、防空壕へ」


武蔵「御意」


翼は大量の資料と、蝋燭、マッチ、ポリタンクをショッピングカートの大きいやつにバラバラ乗せていく。


美智子はポカーンと見ていた。


翼が机の引き出しの手前を触るとガチャンと音がした。


机を蹴飛ばし、絨毯を捲ると、床板が見えた。


その床板は二枚の厚い板。


板を外した。


滑り台のコンクリート。


ショッピングカートを滑り台に。


手を離した、あっという間にカートは見えなくなった。


翼は小さい車輪が付いたトロッコ?を蹴飛ばして中身を出し、美智子を乗せ、自分も乗った。


翼「頼む」


武蔵「御意に」


武蔵はトロッコを押し、滑り台で手を・・ー。


美智子「待って待って待って」


翼「うるさい目を閉じてろ直ぐに着く」


離した。


美智子「ああああああぁぁぁぁー・・・・」


武蔵は板、絨毯、机を元に戻し、部屋を後にし、ヘルメットを被り、バイクに跨がった。


《ブオンブオンブオン!ブロロロロオオオオー・・》


走り出した。


全ての村の住人は持ち物はお気に入りの本や、食器、毛布、枕等だけを持ち、防空壕へ通じる公民館地下道へ避難していく。


そこには、放射能ろ過フィルターの換気扇が回り、人間の体温で暑くなる空気の気温を下げる役割も兼ねている。


大量の地下水脈の隣に作られた地下施設。


地下水脈から通されたステンレスパイプ。


そのパイプは空気交換器と繋がり、一定時間経過すると噴霧される。


噴霧された水は磁場電気により動くモーターで回る換気扇により冷やされ、氷となる。


その冷えた氷の空気が施設全体に行き渡る。


プライバシー等はない。


村人大人36人、5歳以下子供11人、5歳~12歳の子供5人。


70過ぎ年寄り2人。


大量の粉石灰、炭灰を混ぜたボットン便所。


石灰、炭灰、食料は大量に備蓄してある。


植物は小さいモノからもっと小さいモノまであり、植物は食べられる実をつけるモノだけ。


各部屋に置かれ、鉢植えには電磁ライトが常に照らす。


植物は暗くしてしまうと、酸素を吸い、二酸化炭素を放つ。


それを防ぐ為だ。


住人らは頭に黒い布を被り、寝る。


一方その頃、ビットコイン長者の為だけの高い塀に囲まれた安心安全衛生な上級国民の街では。


ナノマシン奴隷解放ナノマシンにより、決起した人々。


工場が次々破壊され、住宅街が焼かれ、造船所、製鉄所、何もかもが火の海に。


核戦争へ。



地下生活から1年経過。


核の冬はまだまだ終わらない。


5年経過。


ようやく冬の終わりが見えて来た。


6年目。


春。


防空壕穴から出てきた猫。


帰宅した猫の放射能濃度を計測。


異常無し。


猫に付着していた泥を顕微鏡で覗く。


見たことがない細菌が。


調べる、結果。


放射能を食べる細菌、発見。


それは日本に古くからある細菌。


納豆菌と日本酒の造酒に使われる酵母菌を掛け合わせたモノのようだった。


まさか。


そんなまさか。


納豆と日本酒を飲むだけで放射能が中和される?


そんな馬鹿な。


しかし、現実に、6年の歳月により、外は放射能汚染が無くなっている。


それはこの猫が証明している。


皆と話し合い、翼は決心し、遺書を書いて、皆とハグをし、単独、一着だけある防護スーツに身を包み、外に出た。




冷えているであろう空気、風。


雪が残っている。



翼「・・」



倒れた黒い焼けたビル群からは沢山の緑が生えて鳥が歌っている。


倒れた高速道路、何もかも黒い人間の作ったモノ。


隙間隙間に。


狐、犬、猫、狸、馬、ライオン、兎。


子供が小さい家族ばかり。


命が吹き荒れている様は。


翼「・・・・・・・・・・叶わないなあ・・本当に・・強えなあ」


生命の神秘。


圧倒され、ただ、ただ、一人泣いた。





落ち着いた翼。


防空壕の扉を独特なリズムで叩く。


何かの曲のようだ。


防空壕の扉が慌てたように金属音が聞こえ、勢い良く開いた。


中から続々人々が出てきた。


48人。


小さい子供が多い。


皆健康のようだ。


初めて見る地球の表面の景色。


大人達は泣き崩れ、子供達ははしゃぎ回る。


青年、淑女らは抱き合い、夫婦らは激しいキスをした。


翼はそれをリヤカーの荷物の上から見下ろす。


ヘルメットだけ脱ぎ、満足そうな笑顔を浮かべるその姿を。


妻、アインは写真を撮影した。







60年後。


津山城。


満腹村は襲撃を受けていた。


あまりに発展した村。


津山城の真上に浮かぶラピュタならぬ、満腹号と名付けられた巨大過ぎる城。


下の津山城からチューブ内部をエレベーターが高速で走る。


それは目立ち、各国からも望遠鏡で丸見え。


防空壕普及率が高かった国は生き残った人々が多数。


翼92歳。


満腹号の王室。


ではなくー。


下のまた下。


町人らと一緒に種植えをしていた。


町人らと共におにぎり、漬物、味噌にきゅうり。


トマト。


リンゴパイ。


最後に緑茶。


翼「ああああああ・・幸せえ!」


町人らは笑う。


こんな王様居ないと。


翼「俺は王様じゃない、農民だ!だははははは!」


そんな暮らしも長くは続かず。


各国が沢山子作りを行い、数多くの兵士の準備が終わった頃。


新たなる覇権戦争が起きようとしていた。


皆王様は無理に子作り政策、軍事政策を進めた事で、皆、皆、餓えていた。


もう、戦争しかない、もう、戦争しかないと、繰り返し鉱石ラジオで国民に呼び掛ける国策。


翼の耳。


無線機から報告が入る。


翼「頃合いか・・、よし、許可する、配れ」


満腹号がチューブを外し、ふよふよ移動を開始。


満腹号は町を見つける度に、パラシュートで沢山の箱を落とす。


沢山の食料、調味料、水、そして、何か沢山の種が入った箱だ。


無料で、無償で、沢山落とす。


お金は入っていない。


全て飲める食える、育つモノを。


沢山。


沢山。


沢山。


沢山落とす、落とす、落とし続けた。


箱には手紙が何通かそれぞれ入っていた。


手紙の内容は以下の通りである。




《あなた達は敵ではない。


敵は餓えであり、あなた達ではない。


どうか安らかにあなた方が眠れますように、満腹号より》


戦争の準備を終えた晩に沢山の雪みたいなパラシュートの数。


各国の王様は力を欲しがった。


が。


王様の下に住んでいる人々は、力なんかより欲しいものがあったのだ。


お腹が空いたと呟く子供に、食べ物を。


喉が乾いたという旦那に、潤いを。


お金なんか要らない。


権力なんか要らない。


水を。


食べ物を。


どうかー・・。



世界中の生き残った皆『お腹いっぱいになりたい!!神様あ!!』


白い雪が降る。


沢山の雪が。


パラシュートの雪が降る。








3日後。


各国の王族はクーデターにより処刑された。


満腹号は毎日毎日、食料を落とした。


新しいパンの種類が増えて、飽きない。


ジャムの種類も沢山。


沢山の食料を生産する本、調理本。


考えて考えて、緻密な計算により、落とされていた。


助かったのは、石灰、炭灰の箱。


衛生面はこれで解決された。


世界は自然と。


満腹号を神と崇めるようになった。


満腹号で働く作業員らには、補助スーツが。


それでも汗だくになりながら、業務をこなす日本人達。


箱を回収。


洗浄。


乾かす。


食料を詰める。


落とす。


三年半後。


満腹号は200船に。


満腹号が300船になろうとした時。


世界中は果樹園になり、誰も肉を食べなくなった。


野菜、果物だけを食べるように。


たんぱく質は豆科、牛乳で十分。


人々の寿命は極端に延びて来ていた。


翼108歳。


満腹号1号から見下ろす景色。


雲海、夕日。


若返りのポッドを運んで来た若い武蔵。


武蔵「さ、良い加減に入りなさいませ、この武蔵、まだまだあなたに尽くしとう御座います故に」


翼「・・待ってんだよ、あいつが」


武蔵「まだまだこの世界はあなた様が必要なのです!故に!」


翼「必要なのは世界じゃねえ、お前だろ?」


武蔵「!?」


翼「物語ってのは、終わるんだ、それが物語ってモンだ」


武蔵「さ、さすれば自分も!」


翼「何もかもまた味わう覚悟だと、よくよく考えた結論だと、お前、俺に言ったよな?ありゃ嘘か?」


武蔵「うぐう・・しかし、しかし」


翼「もう良い、もう良いんだ、俺は・・満足だ、皆を救えた、本当の意味で、救えた、ああ・・、武蔵よ?・・」


武蔵「うぐ・・は、はは」


翼「・・下を見せてくれ」


武蔵「高度を下げろ」


満足号1号の高度が下がり、夜の元気な町並みが見える。


子供達が夕飯前にはしゃぐ。


青年、淑女が手を繋ぐ。


大人達はお酒を飲み、語り合う。


翼「はー・・・・楽しかったあー・・おー!アイン」


武蔵「え?アイン様?どちらに?」


翼「・・おー!そうか、うんうんそうか」


武蔵「駄目です!行かないでえあああ!!私はあなたが好きでしたあああ!お慕い申しておりますうう!!うああああ、ああああああ」


108歳の翼は26歳の武蔵の頬に口づけをした。


翼「はは、武蔵顔、赤いぞ、ん?ああ・・わかってる、さ、行こう・・・・ぁ」


見えないアインに手を引っ張られ、手が落ちた。


武蔵「駄目だ!逝っちゃいけない!」


激しくキスをした。


押し倒した。


武蔵は無我夢中でキスをしたり、体を触った。


武蔵は冷たくなっていく翼の体に何度も何度もキスをした。


誰も。


見ている部下達は、誰もそれを止められなかった。


見て居られなかった。


皆下か上を向いて泣いていた。


武蔵「あなたが必要なんだあああ!!アイン様が死んだ時、私も大事だと!仰ったではありませんかああああ!!」


翼の体だけがそこにあり、武蔵の若い力に揺れるだけだった。






楽園。


かつて人が住んでいた園に。


人類は帰還した。


武器ではなく。


食べ物を分けるという教えによって。


《END》



























エピローグ。



一方その頃、火星。


火星がエイリアンにより侵略されていた。


何もかも奪い、食い尽くすエイリアン。


エイリアン《シイイイイイイギョギイイイイイイイ!!》


エイリアン200万艦隊の群れが火星の青い空を覆い尽くしている。


火星の人類は皇帝主義の社会主義だった。


完全軍星主義により、豊かな食料を持つ地球を侵略しようとしていた時期であった。


コックピットのエイリアンがその地球侵略計画のファイルを見つけた。


エイリアン《シイイイイイイ・・グボ!ガギャギャギャギャキイイククカカカカカ》


地球を見つめている。


沢山の人間の映像、畑、田んぼ、大量の食料。


今や愛に満ちた地球を見つめている。


最も愛より離れた種族。


《ヴンヴンヴン》 エネルギー充膨。


地球に向かうワープ準備中。


その瞬間。


どこからともなく飛来した一個の真っ白なミサイル。


宇宙船が警告音を響かせる。


エイリアン《シイイイイイイ・・〈ピーピーピー〉・・??シイギャゴエエエエエエ》


《ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー》


爆発は、火星表面から、上空まで全てを覆い尽くし、火星はまたもや滅んだ。


その白いミサイルは何処から来たのか。


それは、誰にも解らない。


《END》


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