異世界に行きたい
次回から
異世界へ行きたい
が始まります。
晴れ渡った空、舞い落ちる花びらに心奪われる季節。
4月の1日、何も変哲のない1日だが彼にとってはそうもいかないようだった。
彼の名前は雪代太助どこにでもいるような唯の大学生だ。
最近、彼の周りでは不可解な事件、いや事件と呼ぶようなことでもない事が起こっていた。
それは、ある人物の失踪というものだ。
これだけだと重大事件に思われるが、実際に失踪しているということを理解しているのは雪代、唯一人だけなのである。
雪代は、周りの人々に聞いて回ったが、失踪者などいない、と妄言として処理されるのみ。
彼はただ打ちひしがれる他なかった。そして遂には自分がおかしくなってしまったのかと嘆き始めた。
それが少し前の話である。
一度心が折れてしまった雪代であったが、携帯の写真データを見返し、改めて奮起し始めたのである。
春夏秋冬、幼馴染であった雪代と失踪した男は同じ時間を確かに共有しあっていた、そのことが非現実でないとデータは確かに教えてくれた。仲が良かった訳ではない、喧嘩が多い二人であったが、確固とした友情は二人を確かに繋ぎ止めていた。
しかしながら探し人は自分の思い出の中にしか存在しない、誰かの手を借りることも難しい上、協力者ができたとしても忘れられてしまった人間を探し出すことは不可能だろうと、心のどこかで諦めをつけていた。
諦めてしまいたいが、諦めてしまいたくない、そんな矛盾を心に抱いていたためだろう、彼が車道に飛び出していることに気が付かなかったのは。
横合いからの強烈な衝撃と共に彼の意識は深い闇へと溶けていった。
目を開けると、まず強烈な光が目に飛び込んできた。視界全てを白く覆い尽くす光、しばらくの間目に焼き付いて離れなかった。
光が収まり、視界が開けてくるとそこにあったのは自分の部屋だった。
窓の前に設置された勉強机に、風を受けゆらゆら揺れるカーテン。漫画本と教科書などが雑多に詰め込まれた本棚もバンドのポスターも寸分違わず記憶にある自分の部屋と合致した。
だが、雪代は強烈な違和感を抱いていた。ここは自分の部屋であってそうでないと感覚で感じ取っていた。
その考えは真実のようで、先ほどまでいなかった筈のヒトガタが、目の前に立っていた。
なぜ人間と表現しなかったかと言うと、ソレは人の形自体はしているものの、顔には必要なパーツが一切見当たらず、全身が眩い光で覆われていたからである。
ソレは静かに話し始めた。
「はじめまして、ユキシロ君。本来なら会うはずのない存在を前にした気分はいかが?」
雪代は答えられなかった、今起こってることに頭が全く追いついていなかった。
「まぁ、そんなことどうでもいいよね。僕は忙しいくて君の事情は汲んであげれないから話したいことだけ話すね」
「君のお友達の記憶消すね」
そう言って額に向けて腕を伸ばしてくるソレに雪代は恐怖した、恐怖したがそれ以上に触れられることのマズさを感じ取った雪代は、大きく距離を取った。
そして今の感情をぶつけ始めた。
「やいやい、急に人様の前に現れてなんだってんだ一体!なんで全く理解できない状況でお前みたいな七面倒くさい奴の言うこと聞いてやらにゃいかんのだ、それに今お前がやろうとしている事は絶対俺にとって良くない事なのがわかる、まずは説明しやがれ!」
「そんなこと君が知らなくていいの、大人しくしてくれないなら荒いやり方始めるね」
そうソレが言い出すと、床へと体が縫い付けられたように急激に体が重くなり、倒れ込んでしまった、その際に顎を強打し、反論でもしようと開いていた口は強引に閉じられ舌を思いっきり噛む結果をもたらした。
「これでオッケーでしょ、それじゃサクッと消してあげるから楽にしててね」
踏みつけられた虫のように床にへばりつくことしかできない雪代に、ソレは容赦なく近づいてくる。
別に命を取られる訳ではない、記憶を消すだけと言うのはわかっていた。不思議な事だが目の前のソレが嘘を吐いている事は絶対ないと言う確信があった。
しかし、雪代は諦めたくなかった。記憶を消されたら、消えてしまった友人のことを二度と思い出せないと言うことへの嫌悪感、そして、ここまで苦労してきた事を不意にされるような終わらせ方を強要してくる相手への強い反骨精神が雪代を突き動かした。
「ざっけんじゃねぇ、こんなところで終わったら俺は何の為にに苦しんだんだ?何の為にここまでやってきたんだ?俺は、俺は!」
「あれ?結構強く縛り付けたはずなんだけど、まーだ動くんだね。なんというか滑稽だよね、そういうの。
どうせ彼の為とか彼の家族の為にって言うんでしょ?ハイハイもうそう言うの良いからサッサと帰らせてよ」
「アイツの為?そんなこと誰が言ったよ?生憎俺そんな高尚な人間じゃ無いんだよ。俺はな、俺の為にアイツの行方追ってんだよ、俺がいつも通りに過ごせるようにな」
「ふーん、自分の為にやってるんだ、ちょっと以外。こう言う時って大概誰かの為にって言わない?あれ正直寒いと思うんだよね。嫌いじゃ無いけどさ」
「当たり前よ、誰かの為にってことは言い換えれば誰かの所為で、ってことになんだよ。俺は自分の意志でここに立ってる、自分の所為で苦労背負ってる、そして自分の為にアイツを帰ってこさせるんだよ!誰かに指図された訳じゃ無い!俺がそう決めたんだ!」
そう言い放つと、ソレは笑い出した、小馬鹿にするでもなく、ただ嬉しそうに笑い出した。
「そっかそっか、何だか良いじゃんそれ!好みだけど大っ嫌いな返答!最ッ高!良い気分にしてくれたから、見逃してあげようじゃあないか!」
大層愉快そうに言い放つと笑い声を残してスッと虚空へと消えていった。
消えると同時に部屋が歪み始め、再び意識を手放すのであった。
目を覚ますと、そこは見慣れない場所であった。
周りを見わたすと、腕に繋がっている管や包帯の巻かれた体が見えた。
ここが病院だと理解するのに時間は掛からなかった、後日聞いたところによると、車に撥ねられて一時は生死を彷徨っていたが息を吹き返したらしかった。
しかし雪代の頭の中には、あの自分の部屋での出来事がこびりついて離れなかった。アイツは何者だったのか、あれは現実だったのかなど色々な謎が頭を駆け巡ったが、直ぐに眠りについてしまった。
それから一ヶ月は経っただろう時、雪代は病院を抜け出した。
見舞い品の中に次のような手紙があったのだ。
「拝啓ユキシロ君へ
先日の御褒美として君にプレゼントを贈ります、たっぷり喜んだ後しっかり君も目的達成に役立ててください。
ps、使い方の説明書つけ忘れたから頑張って覚えてね。
」
どこに置いてあるか、何であるのかわからない事だらけだったが、場所の検討は着いたので早速向かうことにしたのだ。
実家近くの公園、そこは街全体を見渡せるほどに高い場所で、いなくなった友人と初めて会った場所だった。
どうやら読みは当たっていようで、プレゼントボックスと言われて最初にイメージするような箱がそこにはあった。
早速開けてみると入っていたのは、一足の赤いスニーカーだった。
脇には「これで友だちに会いにいけるかも」という文言も着いていた。
それから二ヶ月後、雪代は無事に退院することができた。
更にその一週間後、雪代太助はこの世界から消えたのであった。ひとりの友人を探しに。
エイプリフールネタで考えてたけど間に合わなかった、クソバカ作者と罵ってくれ。