表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河列強 大日照帝国戦記  作者: 総統領代理人
9/10

第七話「侵食」

 大分期間が開いて申し訳ありません。気づいたら一年を過ぎてました。今回はかなり難産でした。



同時刻 『アクスプール宮殿』謁見の間


 そこには神谷率いる使節団一同とその護衛の兵士一個分隊がビストリア政府の許可を得てべステア大公への謁見を果たしていた。

 神谷の両脇にはビストリア政府を支える各部門の長や高位文官達が並び、一人の獅子面の獣人を除いて巨大空中艦に乗ってやって来た神谷達に好奇の目を向ける。


「大日照帝国第9801国家代務官区の長、打鉄優輝国家代務官の命により貴国に派遣されました全権大使の神谷義実と申します。此度は不躾ながらも戦闘艦による貴国領空侵犯を行った事についての謝罪とそれを踏まえてなお謁見の許しを与えてくれた陛下の大海の如き御心の広さに感謝を申し上げます」


 まずは神谷が領空侵犯の謝罪と謁見の許可が降りた事への感謝から始まり、一通りの儀礼を済ませビストリア側の出方を伺う。

 対するべステア大公は神谷の謝罪を手で制した上で微笑を含んだ顔で返答する。


「その件についてはもう良い。確かに貴国の行動は我が国の民にいらぬ混乱を招いたため、決して褒められるものではないがこうして誠意ある謝罪をしてくれた。自身の非に向き合う者達をいったいどうして責められようか」


 べステア大公は口では心の広さ溢れる慈悲深い君主を装いつつも、これ以上舐めた真似をすれば容赦せんと暗に示した言葉を連ねた。

 神谷はべステア大公が発する裏の意味をよく理解しながらも口角を少し上げて感謝を口にする。


「陛下の寛大な慈悲に重ねて御礼申し上げます。」


 神谷が正しく言葉の意味を理解したと確信したべステア大公は続けて相手国の意思を計り始める。


「して、貴国は我が国に交流を求めてやって来たと聞いているが真かな?」


「はい、我々は聡明なる陛下の統べる貴国と経済や文化を通じて平和的交流を図りたいと考えております。特にこの大陸有数の強国である貴国との国交については我らの長である国家代務官も重要視している次第です。無論、国交開設については貴国のみではなく、大陸に存在する国家全てが対象でありますが」


 表面上では相手を褒め称える言葉を並べ立てる神谷に対してべステア大公と外務卿であるコタン伯爵は別の意味を読み解き互いに目線を合わせる。


(つまり、此方に魅力が無ければ盗賊共(コンキスタ帝国)とでも喜んで徒党を組むという訳か)


 相手は確実に此方側の状況を完全に把握していると確信した大公に対してコタン伯爵の見解も一致していた。


(陛下、此処は彼らの出す提案を受け入れましょう。隣国に彼らの力が加わればいよいよ手が付けられなくなります!)


 長年の間共に(まつりごと)で戦ってきた同志である二人はその目線のみで相手の考えを確認した。


「ふむ、良き友人を常に欲している我が国としても願ってもない話ではあるな。平和的な交流は勿論だが、平和の為に必要な物も経済的交流とやらの中に含まれているのであろうしな?」


 神谷はべステア大公の問いかけに対して何も言わなかった。ただ大公に対して笑みを浮かべただけであった。

 大公は玉座から立ち上がり、宣言する。


「良いだろう。ならば我、当代べステア大公アスガル・マハキア・フォクスエル・べステアはビストリア諸侯領連合国の代表として貴国との国交樹立を求む!返答や如何に」


 いきなり相手国との十分な交渉を丸々飛ばしての国交樹立要請を口にした大公の行動に、獅子面の獣人を始めとした官僚の多くが驚きの表情で大公を見る。神谷は大公の要請を聞き終えると直立不動の態度て御礼を口にする。


「陛下のご決断に感謝申し上げますと共に貴国を失望させることはないと国家代務官の名代として此処に確約致します」


「うむ、では新しく友となる東の友人に対して我ら西の友人である我から一つ贈り物を送ろう。外務卿!」


「此処に」


 コタン伯爵が大公の前に進み出る。


「ウッドガルデン王国国王エレスミエル2世及びリングガンド組合連合国議長バグダ・ドガン宛に我の名義で親書を出す。内容は『これからそちらへ向かう【我が国の新たな友】を決して門前払いすることなく話だけでも聞くように要請する』と両国へ送れ、それとカミヤ殿に両国と交わした印を押した封蝋を渡せ」


「はっ」


 そして神谷に向き直るとその真意を述べる。


「貴国が我々より優れている面が多いであろうことは先の空中戦艦を見ればよくわかるし、後に屈服するか反抗するから別にしても会って話だけは聞こうとするだろう。しかし、それでも頑なに門を開かん者達がいるのが現実だ。我は今その頑なな者達が門を開けるよう手助けをしたまでだ」


 べステア大公はまた玉座に座り直ると神谷を見据えた。


「さぁ、これより先は交渉に移ろうではないか。すぐに場の準備は済ませる。互いに良い結果になれば良いが」


 何かを期待するような眼差しで神谷を見下ろすべステア大公に対して神谷は変わらず顔に笑みを貼り付けたまま頷いた。


「ええ、きっと良い結果になることでしょう」






同時刻 首都アクスプール郊外:貧民地区


 首都アクスプールの中央区域がこの国の光の面であるならば、闇の面も存在するのが世の摂理というものだろう。

 首都アクスプールには害獣や敵襲に備えた何重もの防壁がそれぞれの階級毎に設けられ、全ての地区とその住民は中で守られているが、その例外が防壁内の地元民から貧民地区と呼ばれている場所だ。

 此処には中央での競争に破れた者達や表社会に見捨てられた者達、立場の弱さ故に表社会からもそして自分自身からも逃げた者達が示し合わせた訳でもないのに自然と集まって来た。そして住民達が壁の影に隠れるかのように端材を組み合わせた掘っ立て小屋が建てられ、人口が増えるたびに増えて大して時間は掛からずに一つの街と呼べる大きさになった。持っている財産の無さという意味なのか住み着く人間の心の貧しさ故かいつしか『貧民地区』という名が定着した。

 現地政府側としては景観の問題や衛生上の観点からいち早く住民の退去と新しい就職先や定住地の確保を実行すべきとの意見が大半であるが、数々の問題があるためそれを実行できないでいた。


 まず一つは貧民地区住民の人口が首都の人口80万人に対して推定10万人以上と多いこと、そしてそれに付随して必要な住居や就職口等の諸々の費用が高いという点。現在すぐにでも勃発するであろうと予測される隣国との戦争を視野に入れた予算を組んでいる政府としては国家の緊急事態のためこれに多くリソースは避けず、結果として後回しにされる。

 もう一つは貧民地区の不透明性を利用した犯罪組織の温床として機能している点。貧民地区の住民は戸籍等当然持っていないため誰が何処にいるのか分かりづらく、それを利用して大規模な犯罪組織が潜伏場所として利用している。

 更にそれぞれの組織が保有するシマ内で流通や治安が成り立ち、彼らが扱う違法な流通品の中には貴族や大商人が大金を出してでも欲しい物品も多く存在し大金が落ち、その利益を使って正規軍でも保有していない最新装備を構成員に支給している。そのため、資金の流入とそれを元手にした兵力の強化というサイクルが生まれ、政府が正規軍を動員したとしてもかなりの損害が出るとの試算からより介入を難しくした。


 そしてビストリア政府が選んだのは徹底的な不干渉を貫くことであり、臭い物に蓋をするように無視を決め込むしかなかった。


――――――――――――――――――――――――


 地区の中でも最大級の規模を誇る暴力団の一つ、『コステロ一家』が支配する区域にある闇市場。

 並んでいる品々はこの国の一般の市場でも取り扱っているような食材や日用雑貨もあるが、その中に混じって違法な手段で仕入れた奴隷や即効性と多幸感、生産性を重視した危険薬物、また儀式や薬物の調合用に用いられる人間も含めた生物の生体の一部や死産した胎児が平然と売られていた。

 少し裏路地を覗いてみればゴミ漁りでその日を生きる行き場の無い孤児や病気と薬物で動けなくなった物乞い、虚ろな目で煙草を吹かせながらいつ来るかもわからない客を待つ娼婦、そして端に打ち捨てられ腐った皮膚に無数の蛆が踊り、眼球を鼠に喰われてぽっかりと空いた双眸でこちらを見る死体等、地区でも最下層の住民が住み着いており日の差し込まない暗い路地よりもより一層深い闇が場を支配していた。

 人の業と悪臭立ち込めるこの場所を一人の人物が行き交う人の波をかき分けて進んでいた。

 その人物は凡そ180センチはあるであろう背丈と全身を覆うフード付きロングコートの下からうっすらと見える角張った輪郭から、その人物は恐らく男性であることが伺える。

 歩き続けているいる彼の脳内に声が響く。


〘ねぇ、今本部から連絡があったよ。神谷さんが向こうの大将から国交開設の了解を取り付けたそうだね〙


 その声は男とも女とも言えない奇妙な声質で、古いラジオを彷彿とさせる砂嵐に似た雑音で覆われていた。


[随分早いな。後数日は掛かると思っていたが]


〘あ~あ、この前観た惑星侵略映画みたいに『おのれ、何奴!』とか言って斬り掛かって来たら面白かったのに。全く残念で仕方ないよ〙


 シャレにならない事を言う声の主を無視して彼は歩を進める。

 人々を避けながら地区を奥へ奥へと進んでいき、目的の場所へ着くとその歩みを止めた。


「此処か」


〘みたいだね。趣があって良いじゃない〙


 そこはかつて先々代大公の時代に貧民地区住民の救済計画の一環として運営される筈だった『国民治癒院(国営の病院)』の建物であった。


 貧民地区の衛生環境の悪さから来る疫病が都市部にまで及ぶのを未然に防ぐために建設による地元民の雇用拡大も含めた政策として建設がスタートした。

 しかし、現地の治安の悪さと身の危険に合わない賃金を嫌って優秀な医者が集まらず賃金を狙った詐欺師紛いのヤブ医者しか残らなかった。また、医療品の窃盗を防ぐための警備兵を常駐させる必要性ともしもの保証等から維持費が嵩み、当時の財務卿から強い反対を受けて計画は建設中の建物を残して空中分解した。


 残った建物は一階部分だけは完成していたため、『コステロ一家』により相場より安く買収され二階と三階の増築を経て本部が置かれた。

 各所に見張り台と胸壁、銃眼等が設けられ建物周辺と屋上にはコンキスタ帝国から密輸された最新式のマスケット銃やラッパ銃を装備した戦闘員が警備しており厳重な警戒網が張られている。

 

〘情報通りかなりの重装備をした奴がウヨウヨいるね。こりゃ相当儲かってそうだ。ねぇ、いっそのことこいつ等始末してお小遣いでも戴こうか?ちょうど欲しいスピーカーが〙


「しばらく黙ってろ気が散る」


〘あんっひどいッ!〙


 強制的に会話を切ると正面から門に向かってズンズンと進んでいく。門の前で警備していた二人の戦闘員が銃を構えて制止させる。


「待てお前。何入ろうとしてんだ?此処がドン・コステロの屋敷だと知ってんのか?」


 背の高いヒョロリとした印象を受ける日焼けした人間族の男が銃剣の先を彼の胸に押し付ける。


「んん?オメェ見ねぇ顔だな。余所者か?まさかこんなところに観光に来たわけじゃあるめぇに、見た感じカタギじゃなくて同業者か?」


 詰まった鼻をすすりながらブルドッグ系獣人の男がジロジロと観察する。

 すると彼は懐から動物の皮で作られた巾着袋を取り出して二人に差し出した。


「何、喉が乾いたから少し水でも恵んで貰おうと思っただけだ。ここら辺でマシな水を持ってそうなのは此処ぐらいだろうしな」


 獣人の男は自身の拳ほどの袋を開けて中身を確認すると、そこには何十枚もの金貨がぎっしりと入っていた。

 獣人の男は涎を垂らしながら黄ばんでボロボロになった不揃いの歯を見せる。そしてノッポの男にも袋の中身を見せると相手も同じように口角を上げた。


「ウヘヘヘッ、勘違いして悪かったな旦那ァ。確かにここいらではマトモな水を出してる店のほうが珍しいからなぁ。変な店で飲んじまったら丸2日は便所から出られなくなるぞ」


「そうそう。それに比べたら此処は安心さ。ドンもお優しい方だ、水なんて一杯だけとは言わず腹い~っぱい飲ませて貰えるさ」


 ブルドッグ面の男が皮袋を手に奥へと入っていき、その間にノッポの男が彼のボディーチェックを始める。

 数分後にはブルドッグ面の男が彼らの上司と思われる禿頭に女戦士の横顔を模した入れ墨を彫り込んだ男を伴って帰ってきた。


「兄貴、アイツです」


「わかった。おいアンタ、水が飲みたいんだろ?だったら俺について来な」


 彼は禿頭の男の案内で中へと通された。

 中は戦闘員の居住スペース兼倉庫といった感じで、汗臭さと据えた匂いが充満していた。そして奥にある階段を二回登った。

 三階は下二階とは変わって貴族の邸宅に似た豪華な造りになっており、所々に海外から取り寄せたであろう磁器の壺や動物の剥製が置かれている。

 だがそれよりも目立つのはある絵画郡である。

 暗雲を切り裂くように降り注ぐ光から六対の翼を持つ人型が舞い降りる構図で描かれた宗教画がいくつも飾られており、そのどれもが金細工で装飾された額縁に入れられていることから彼がこの絵に関する宗教に強い関心か信仰心を抱いているのがわかる。

 そうこうしている内に前を進んでいた禿頭の男が一対の扉の前で立ち止まった。

 禿頭の男は扉に取り付けられた獅子の毛皮を被った戦士を模したドアノッカーを叩く。

 すると扉の覗き窓がスライドして中の人物がこちらを確認する。

 覗き窓が再び閉められると扉が観音開きに開いた。

 中には二つの穴が空いた鉄鎖製の頭巾を被った身長二メートル近い背丈の大男二人が立っており、手には棘の付いた棍棒が握られていた。

 奥にはもう一枚扉が設けられており、禿頭の男はその前で中の人物に声をかける。


「ドン、お客人を連れて来ました。」


「入れ」


 最後の扉の向こうには猛獣の毛皮でできた敷物や猛禽類の剥製、異国から輸入したと見られる美術品で飾られた部屋が広がる。中央には来客用のソファとテーブルがドンと置かれ、奥には件の人物が座る執務机があった。

 そこに座っている中年ぐらいの男は右目に宝石商が使うようなルーペを当てて、机に広げた宝石類を眺めていた。


「チッ、あの見栄張り豚め本物とガラス細工の違いすらわからんのか」


 肩に掛かる長さの髪をオールバックにして固め、右のこめかみに弾痕らしき傷があった。


(頭部右側に着弾痕、こいつがドン・コステロ本人か)


「おう、お前さんがこんな糞溜めで水を恵んでもらおうとした変人か?まあ、そこに座れや」


 促されるままにソファに座ると使用人が彼の前に水の入ったグラスを置いた。コステロは向かいの席に座り、懐から手に収まる程度の円筒形の容器を取り出した。濃い色の木材でできた容器の底にはポットの注ぎ口に似た突起が飛び出しており、表面には緻密な彫刻が彫られている。コステロは突起部分を口に含み、一息に吸い込むと瞬時に恍惚とした顔を浮かべる。


「フヒャア〜、そういやまだお前さんの名前聞いてなかったな?」


 コステロは刺激臭を纏った吐息を吐きながら男にそう尋ねた。


「私の事はポーター(運び屋)とでも呼んでくれ、ありとあらゆるものを運ぶのを生業にしている」


「ふ~ん、運び屋って事か」


 コステロは目の前にいる男、ポーターの目的が自分の組織との取引であることは薄々感付いていた。問題は彼が何を求めて自分の下まで来たかにある。

 ポーターは懐から一枚の紙を取り出すと机に広げて文面をコステロに向けた。


「そして私が運んで来たのは君達への依頼だ。まずこの紙に書かれている物を用意して欲しい」


 コステロに差し出された紙には以下の内容が記載されていた。


・製造番号が削られた新品のコンキスタ帝国大陸軍制式1370年式騎兵銃150丁及び弾薬

・同軍制式1220年式サーベル一個中隊分

・一個中隊分の人員150人と西大陸産の健康な軍馬150頭(鞍付き)


「なんだ馬を使ったデカい盗賊団でも作って大手商会の輸送団でも襲うってか?こんな上等な装備じゃなくたって普通に売っている中古の銃とそこそこの馬で十分だぞ?」


 ポーターにこの依頼を任せた親玉の考えに首を傾げる彼の目の前にゴドンッと重い音を立てて金塊が並べられた。インゴットの重さは一本につき1キログラムでそれが十五本置かれていた。

 コステロはその一つを手に取って物色し、混ぜもの無しの本物であることを確認するとポーターの顔を見た。


「これは前金だ。書いてある物を全部揃えられたらあと三十五は渡すつもりだ。わかっていると思うがこの紙の物をどう使うのかについては何も聞くな。そして」


「このことを他所に漏らすな、だろ?そんぐらいはいつものことだ。武器と馬については少し時間を貰えれば揃えられるが使い手は少し難しいな」


 報酬については申し分なく、密輸のリスクを加味しても十二分に儲けがあるためコステロ自身としてはかなり前向きに考えていた。しかし、人員に関しては如何ともしがたい問題があった。

 コステロ一家が抱えている戦闘員の多くは歩兵であり、馬を操りながら武器を扱える者は限られている。歩兵に比べて訓練や維持費も高くつく貴重な戦力をどう扱うかわからない所で使い潰される訳にはいかない。


「別に人族で両手両足さえ付いていれば頭の中が吹っ飛んでいる輩でも構わない。彼方此方に借金して焦げ付いている不良品なら幾らでもいるだろう?」


「それならすぐにでも用意できるが役には立たんと思うぞ?まあ、そっちがそれでいいなら用意するが」


「なら決まりだ」


 ポーターは立ち上がると扉に向かって歩き出した。その後ろ姿をコステロは黙って見ていた。そして思い出したかのように立ち止まった。


「ああ、そうだ。言い忘れていた事があった。俺は仕事の相手が相手な事があるから慎重でな、君は大丈夫かもしれないが相手が誰であれ俺は何も変な事が無ければ害の無いモノしか運ばない。だが」


 振り返った彼の目線がコステロの全身に突き刺ささった。フードの奥から爛々と光る目からは人外じみた殺気が放たれていた。


「他に気づかれたり、持ち逃げでもしてみろ?その時は私が君達やその家族だったモノを『地獄』まで運んでやる」


 今まで多くの者達に命を狙われたコステロでも感じなかった明確にして濃密な死の予感を目の前の男から本能で感じ取った。

 ポーターが去った後、部屋には青ざめた顔で脂汗を額に浮かべたコステロと一切口にされずに放置されたグラスだけが残された。グラスの表面には水滴が垂れ、敷かれたコースターを濡らしそのシミが彼の心を侵食する不安感を表しているようだった。






 ポーターを始めとした工作員達の活動は連合国内だけに留まらずベルジア大陸各地で実行された。

 表の舞台ではビストリア政府と代務官区側での細かい協議が行われ、ビストリア側の強い要望で代務官区領である暗黒大陸(代務官区呼称:瑞穂大陸)へ使節団の派遣が決定した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こういうバカみたいにスケールのでかい話は結構好きです。内容としては国家転移系小説に似てるのかな、のんびり投稿待ってます。一話一話結構長いのでもうちょっと分割してもいいかも
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ