第6話 噂
「ふーん、そういうことだったのね。藤崎さんが失踪ねー。超能力が絡んでたら間違いなく面倒くさい事件でしょうね」
「え、帆夏さん、藤崎のこと知ってるんですか!?」
「ま、まぁそうね。知っているといっても過言ではないわ。ただ、あまり話したことはないわね。それより優翔君、あなたはこの事件についてどのように思っているの?」
「科学技術の進歩の代償っていうんですかね。皮肉なもんですよ。俺は何もしないってのは嫌だったし、後悔はしたくなかったんで、学校を飛び出してきた訳です」
「科学技術の進歩、ね。私も助けられた経験はあるけれど、その反面、悪用する者がいるのも確かで、それが事件に繋がったりしてるのよね・・・・・・・。そう、まるで今回みたいに」
「『今回みたいに』って、まだ藤崎はそういうことには関係ない可能性だってあるんですから、不謹慎なこと言わないでくださいよ」
「ごめんなさい。でも、客観的に見たらそう考えるのが妥当だとは思わないの? 人が突然失踪するなんて、普通じゃ起こらないことじゃないかしら」
「そんくらい俺だって・・・・・・。ふぅ、それで、帆夏さんはお金を貸してくれるんですか?」
優翔は少し苛立った心を落ち着かせて、今一番知らなければいけないことの、その核心に触れる質問をした。
「いいわよ。取り敢えずリニア代は貸してあげる。その代わり、私も一緒に行かせてもらうわ」
「ありがとうございます――ってえぇ!? 何でわざわざ帆夏さんまで付いて来てくれるんですか」
「私も気になるもの、どんな結果が待ってるのか、事件の真相がね」
「別に帆夏さんには関係ないのに・・・・・・。でもまぁ、お金を貸してくれるのは帆夏さんだけだし、反対する理由もないので、お願いします」
「どこまで行くの?」
「6駅先までです。だから二人で700円ってことになりますね」
優翔は敢えて片道だけの値段を帆夏に教えた。
「そう、分かったわ。それじゃ、行きましょうか」
そう言って帆夏は手際よく一人分の切符を券売機で購入する。
帆夏は交通系ICカードを持っているようだ。
二人は駅のホームへと向かう。
平日の昼過ぎということもあって、人数は少ない。
だが人数が少ないということは、リニアの需要もその分減っているということで、運行本数は朝夕の通勤ラッシュに比べると、極端に減っている。
優翔は当初乗ろうとしていたリニアには乗り遅れてしまって、後13分も待たなければならない。
優翔は無意識的に貧乏ゆすりを始めていた。
この一分一秒という間に、藤崎に危険が迫っているとしたら? 命が狙われているとしたら? そう考えると優翔は、自分の無力感に苛まれ、とめどない焦燥に駆られるのだ。
「そんなに焦っても、状況は何も変わらないと思うけれど」
優翔の貧乏ゆすりを見かねた帆夏が優翔に声をかける。
「そんなこと分かってますよ・・・・・・。分かっちゃいるけど、心配になるのはしょうがないことでしょ・・・・・・・」
優翔は少し落ち着きを取り戻す。
客観的に物事を見て、指摘してくれる人がいると、助かる部分があると優翔は思った。
「――それにしても、さっきから耳元でブンブンと、蚊が鬱陶しいな! ったく、帆夏さんは気にならないんですか? 俺の貧乏ゆすりはこいつらのせいでもあると思うんですけどね!」
先程から一匹の蚊が優翔の周りをしつこく飛び回っていた。
「そう? 私はあまり気にならないわ。優翔君、蚊にだけは好かれてるのね」
「蚊にだけはって何だよ! それじゃあまるで俺が蚊以外からは好かれてないみたいな言い方じゃないですか・・・・・・。いや実際そうだけど! まぁ、俺は今の自分に満足してるんで」
「やっぱり、あんな時間に一人で 『失礼しまーす。』 何て言って、屋上に入ってくる人に、友達が多くいるわけないわよね。それに、優翔君悪い噂も流れてるもんね」
「・・・・・・。帆夏さんも知ってるんですか。俺が登校中に他校の生徒と暴力事件を起こしたって噂。まさか、3年生まで俺の噂が広がっていたとはなぁ。ひょっとして、時代の寵児ってやつだったのか、俺って」
優翔は薄っぺらい冗談で重たい雰囲気を払拭しようとする。
もっとも、払拭したかったのは重たい雰囲気だけではなかったかもしれないが。
「ええ、まあね。知っていたわ」
「それじゃあ、帆夏さんは、あの噂についてどう思ってるんですか?」
「私は嘘だと思ってるわよ。優翔君、そんなことする勇気、ないでしょ。そんな勇気があったら、もうとっくにクラスメイトに事実を話したりしてるでしょ? どんなに否定されようともね。だから、嘘だと思ってるわ」
「おぉ、まともな人もいるもんだなぁ。今の、俺の噂を信じてるやつに聞かせてやりたいなぁ。どうせ、信じないんだろうけどな。皆空気読んでばっかだし」
「確かにそうかもね。まぁいいじゃない。理解者は何人かいるようだし。それで、事実としては、一体何があったの?」
「あぁ、そうですね。別に、ただ自転車で派手に転んだだけですよ。それで制服は血だらけ、顔には痣ができて、学校には遅刻。まだ学校が始まってすぐでしたしね、俺って目つきが若干悪いとこがあるんで、多分そのせいもあって、果たして勇ましい喧嘩者の完成ってわけですよ」
「アハハ! 優翔君、面白いわね。ただ自転車で転んだだけでそんなレッテル貼られるなんてね。でもそれって、言い出した人に悪意がないと、流石に無茶じゃない?」
「確かに・・・・・・。まぁ、もう過去の話ですよ」
「そうね、話してくれてありがとう」
気休めがてらに、優翔の噂について話をしていると、あっという間に時は過ぎた。
――間もなく、リニアモーターカーが到着します。乗客の皆様は、黄色い線の内側まで、お下がりください。
機械音声がリニアの到着を告げる。
到着したリニアは、今後への希望の風を運んできてくれたような気もするし、どこか不穏な、生暖かい風を運んできたかのようにも感じられた。
「行きますか」
そうして二人は、やっとの思いで藤崎家へと向かい始めた。
おっそくなりましたぁぁ!! ごめんなさいぃぃぃぃ! こんな感じ続いてしまうかもしれませんが、どうかお付き合い願いますm(__)m
そして、第6話をお読みいただきありがとうございました。
今後もよろしくお願いいたします!!
追伸 藤崎家への到着は今度こそ次回です。(多分・・・)