連れてきた
スマ本で調べた方法を使って、何とか小屋まで倒れていた人を運んできた。
「引きずってきたのに、全然起きなかった……。」
インターネットで検索した結果、気絶した人を運ぶ方法、というものが出てきたのでそれを参考に引きずって小屋まで連れてきた。
山道なので、それなりに衝撃はあったはずなのに全く起きない目の前の人に、本当に大丈夫なのか不安になってくる。
しかし、どうすればいいのか検索すると、救急車を呼ぶとか、周りの人を巻き込むとか、AEDを使用する、としか出てこない。
……ひとりぼっちで、救急車もAEDもない場合は、どうすればいいですか?
「どうしよう、どうしよう、どうし…うゎっ!」
周りで右往左往していると寝ていた人の足に躓いて転んでしまった。
「う……」
「あっ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
その衝撃で目が覚めたらしく、部屋を見渡すその人を見て、とりあえず意識が戻ったことに安堵する。
よく見ると、かなりの美少年。まだ幼いけど、将来が楽しみだ。前世なら絶対スカウトされてるだろう。
「あの、あなた、森で倒れていて、呼びかけても返事がないので連れてきました。」
「……誰?」
「私の名前は、ルナ・ハリスです。あの、あなたのお名前は?」
「……君、どこの奴隷?奴隷制度はもう禁止されてるはずだけど、誰の指示?何が目的?」
「は?」
目の前の美少年から向けられた言葉が一瞬飲み込めず、ぽかんとしてしまう。
「俺が誰か分かって攫ったんだろ?」
「さっ、攫ってなんてないよ!?あなた、森の中で倒れてたんだよ?もう体調はいいの?」
「ああ、そういう演技はいいから。雇い主は?隠れてるの?もういいから、出てこいよ。」
「………」
目の前の彼が言っている言葉が何一つ理解できないけど、なんか誤解されてることは分かる。
まず、私は奴隷じゃないし攫ってなんていない。それどころか、このガリガリの体で重たい思いしてここまで運んできた。
別に感謝されたくてこんなことしたわけじゃないけど、あまりに酷い。
……でもまぁ、見たところまだ子供だ。仕方ない。大目に見てやろう。なにしろ私は大人(精神年齢)だからね!
「あの、私は奴隷ではありません。そう思った原因がこのピアス…じゃなくて、耳飾りなら、これは私の魔法具です。」
「は?そんな魔法具見たことない。嘘つくならもう少しマシな嘘をつけ。」
「嘘じゃないって!ほら!」
全く信じてもらえなかったから、それならとスマ本を出して見せた。
「なんだ…これ…」
彼はスマ本の画面に釘付けになっている。
そうだろう、イケメンだろう!かわいいだろう!
言葉を失う神々しさだろう!
今、スマ本には探索中にチェックしていたアイドルフェスのブログ写真が映し出されている。
フェスを終えた彼らのやり切った笑顔を見ているだけで、感動して涙が出てくる。……行けなかった悔しさでも涙が出てくる。あ、また泣きそう。
「おい、こいつら全員奴隷じゃないか。お前の雇い主は何人囲ってるんだ。」
「あ゛ぁ゛ん!?!?」
その発言を聞いた瞬間、私は決めた。
こいつ、ゆるさない。