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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第四章
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終わりのち始まり

「……私は、ユージン陛下に殺されたんですね。」



「ああ。」



 全てを思い出した私の言葉をクロス様が肯定したことで、それが事実だと確信する。これで、私がここに来た経緯は分かった。



……佐藤瑠奈は、殺されてその生涯を閉じたのだ。



 ユージン陛下と目が合うたびに痛む胸の理由がやっと分かった。ユージン陛下の瞳を見た瞬間、前世の私は胸を刺されて死んだ。頭では忘れていても、身体にはその時の記憶が残っていたのだろう。



 それを思い出しても、不思議と殺されたことに対する怒りや憎悪といった感情は湧いてこない。むしろ、ずっとあったモヤが薄れ、清々しい気すらしてくる。でもまだ、モヤは完全に晴れてはいない。



……目の前には神様。絶好の機会だ。全てのモヤを晴らさせてもらおう。

 きっとそこに、この状況を打破する糸口がある。



「……気になる事があります。」



「質問を許そう。」



「私が、シュバイツオーケノア王国ではなくオフェルトクロス王国で生まれたのは、クロス様がそうしたからですか?」



「そうだ。」



「それは、ユージン陛下から私を隠すため?」



「ああ。」



「……もしかして、クロス様は……佐藤瑠奈(わたし)が死んでしまう前から、いずれ殺されてしまうことを知っていたんじゃないですか。」



 まず最初に、疑問に思ったことはこれだ。



 だって、あまりにも行動が早すぎる。きっとユージン陛下とオーケノア様は、私を殺してこっちの世界に転生させるまでの段取りを整えてから実行に移したんだと思う。

 ユージン陛下の政策や出会ってからの僅かな印象からみても、彼らは無計画に何かをするタイプではない。それなのに、クロス様はそこに介入して、さらには妨害に成功している。クロス様も、事が起こる前になんらかの計画を立てていたんじゃ……そんな疑問が、頭の中を駆け巡った。



「知っていた。」



 その言葉を聞いた瞬間……全身の血がスッとひいていくような、でも下の方でグツグツと何か沸騰するような感覚になった。



「……知っていて、佐藤瑠奈(わたし)が殺されるまで黙っていたのはなぜですか。」



 生まれ変わったことは、変える事はできない事実として受け止めている。でも、たまに頭をよぎることがある。



……あのまま佐藤瑠奈として生きていたら、私はどんな人生を送っていたのだろう。



 もっと友達と遊びたかったし、アイドルのライブだって行きたかった。家族とももっと過ごしたかったし……リオがアイドルとしてどうなってゆくのか、見届けたかった。



……どうして、佐藤瑠奈を助けてくれなかったの?



 自分が記憶を持ってこの世界に生まれたことや、この世界で生きていかなければならないという現実を受け止められないと、言いようのない感情が込み上げることは何度もあった。でもそれをぶつける相手がいなかったから、その感情は奥底に閉じ込めて、見ないふりをするしかなかった。

 でも、今はそれをぶつけられる相手が目の前にいる……いてしまう。



 自分でも、今更そんなことを言っても仕方がないことは分かっている。それでも、聞かずにはいられなかった。



「佐藤瑠奈のいた世界では神への信仰が薄い。」



「……は?」



「この世界は我等が与えた魔法を軸とし、栄えている。我等への信仰も厚く、思う通りに動くことができる。」



「信仰?魔法?確かに、この世界のように全ての人が神様を信じているわけじゃないけど……。そもそも、前世の世界では誰もクロス様やオーケノア様なんて名前は知らないし、魔法なんて架空の存在で……そもそも無いものだから仕方がないじゃないですか。」



 信仰が薄いとか、魔法がないとかそんな事が理由だとは思わなかった。思わず呆気に取られながらクロス様を見るが、クロス様の表情は全く変わらない。私自身に助けてもらえないような原因があったのか、とか色々考えていたのに、世界そのものに理由があるなんて思わなかった。



 確かシーくんは、クロス様は世界の全てを支配しておりその力はひとつの世界にとどまらないと言っていた。こうして、私やウィルド様が異世界との関わりを持つことが出来たことから考えても、神様は全ての世界を見て、時に干渉しているのだろう。



「始まりは同じだ。」



「始まりは……同じ?」



 それなら、同じように与えてくれればよかったのに……と、ほかの人に知られたら不敬罪で捕まりそうなことを考えていたが、クロス様は始まりは同じだと、そう言った。

 相変わらず言葉が足りずに理解できないといった表情をしていたのだろう、クロス様は続けた。



「どちらも等しく一部の人間にのみ魔法を与えた。だが結果は全く異なる。

一方では魔法を使う人間が魔法を使わない人間を支配し、一方では魔法を使わない人間が魔法を使う人間を異物として排除した。」



「排除って……一体いつ……」



「其方では、魔女狩り、と呼んでいたのだろう。」



「!?」



 魔女狩り。

 勉強が苦手な私でも知っている歴史。魔女だとされた人たちを迫害し、罰していった忌むべき歴史。でも魔女なんて濡れ衣で、ただ国や偉い人にとって都合の悪い人間を消すたまに言いがかりをつけているだけだ……と、そう思っていた。



「魔女狩りって……本物の魔法使いを排除していたんですか……?」



「魔法が使える者も使えない者もいた。どちらも排除された。魔法が使えることを隠し通した者も迫害をおそれ魔法を拒否し魔法が使えない人間となった。今其方の世界に魔法が使える人間は存在しない。」



 佐藤瑠奈が生きていた世界なのに、佐藤瑠奈のままでは知る事が出来なかった世界の歴史に、私は言葉を失った。



「神の存在も同様だ。同じように、人間の前に姿を現した。一方では信仰し、一方では神を遠い世界の存在とし、実在しないものと認識していった。全て人間の選択による結果。」



 自分に関わることなのに、他人事のようにクロス様は言った。



「……私をユージン陛下から隠してくれたのは、なぜですか。」



「オーケノアが嫌いだ。」



 その答えを聞いて、ようやくクロス様が文字通り神様という人間とは別の種なのだと認識することが出来た。

 クロス様は、基本的に人間に興味はない。人間が自分をどう思っているかなんて関係なくて、ただ自分が思うように動いているだけ。







……なら、私だって自由にやらせてもらう。







「クロス様。どうか、オーケノア様の計画を壊すために、力を貸してください。」







 その言葉に、今までの成り行きをジッと見守っていてくれたシーくんとウォルド様が思わずと言った様子で立ち上がり、目を見開いた。



 神様に反抗するなんて、とんでもないことを言っているのだろう。でも、こっちにも神様がいる。なんたって、死んだ人間ををもう一度、世界を跨いで生き返らせたような人だ。それも、私を助けるため、なんて理由じゃない。ただそれに関わった神様が嫌いだという理由だけで。



 リオを助けるためには、神様の力が必要。でも逆に言えば、リオを害するにも神様の力が必要なのだ。この計画は、ユージン陛下とオーケノア様のもの。



 きっとクロス様は、リオを助けて、なんて言っても助けてはくれない。それならば、言い方を変えればいい。クロス様の興味を引くように。



 それが正しいことなのだを証明するかのように、クロス様の口角が僅かに動いたのが見えた。






























































「なかなか興味深い話だったよ。しかし、神クロス様のお名前も伝わっていないとは。想像できないね。」



 ウィルド様がそう言うと、クロス様は私に向けていた視線をウィルド様に移した。



「名前は伝わっている。人間が存在を認識していないだけだ。」



「だが、ルナ嬢はクロス様のお名前を知らなかったのだろう。」



「はい、こちらの世界に来て初めて聞きました。でも、前世では特に神話を学んでいたというわけではないので、私の勉強不足かも知れませんが……。」



 事実、私はそこまで学のある人間じゃない。むしろ、知らないことの方が多い。だから苦笑いしながらそう言った。だが、私のその言葉を否定するようにクロス様は続けた。



「姿を見せ、名乗ったのは文字が誕生する遥か前。聞き手の違いによって異なる名前で伝わっている。」



「ああ、そうなんだ。向こうでは何と呼ばれていたのですか。」



 ウィルド様の問いに、クロス様は表情を変えずに淡々と答えた。
















 










「あちらの世界の人間は、こう呼んでいた。



時の神クロノス



と。」



 








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