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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第四章
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佐藤瑠奈

『瑠奈!おはよう!』



『しーちゃん!おはよう!』



『昨日のミュージックハウス見た!?』



『見た見た!!コラボ最高だったよねー!!』



『おはよー!何?何の話?』



『あ!おはよう、みずき!昨日のアイドルコラボがね!凄くて!』



 佐藤瑠奈の人生は、とても普遍的な、ありふれたものだったと思う。



 偏差値が良くも悪くもない、家から通える大学に通い、バイトに遊びに、アイドルの推し活動にと友達と笑い合いながら過ごす充実した日々。文化祭ではみんなでカフェをやったり、演劇やアイドルの完コピなんかしたりして、本当に楽しかった。



『瑠奈、今日の放課後はカラオケとかどう?』



『ごめん!今日はバイトなんだ!』



『そっか、残念!また瑠奈の完璧な歌とダンス見たかったなぁ……。』



『ありがと!また今度ね!』



 この日も、いつも通り午前の講義に出て、友達とちょっと高いランチを食べて、また午後の講義を受けて、バイトに行って、家に帰って、夕飯を食べて……そんな、いつもと変わらない1日のはずだった。

















『お先に失礼します!』



 飲食店でのアルバイトを終えて、電車に乗る。今日は給料日ということで給与明細をもらった私は、内心とても浮かれていた。

 あまり遅い時間に終わるバイトは、パパもママもあまりいい顔はしなかったので、比較的早い時間に終わるバイトを探した。そのため、周りの友達みたいに深夜時給アップの恩恵をガッツリ受けることはできなかったけど、来月からまた推し活をするための資金が手に入ったと思うとスキップでもしそうなほど嬉しい。

 あ、でもちゃんと貯金もしてる。お金の管理についてはパパとママよりもお兄ちゃんが厳しくて、毎月貯金しろってうるさいほどに言ってくる。確かに貯金は大事だと思うし、通帳残高が増えていくのを見るのも楽しい。だから私も、給料は全額使い切らないように気を付けている。……じゃないとお兄ちゃんがうるさいし。お兄ちゃんはそれなりに高給取りなのにお金にうるさい。いや、だからこそなのか?

 とにかく、今月もちょっと貯金に回して、あとはCDにグッズ、あとはコラボカフェに……うん!来月もまた忙しそう!



 そんな事を考えていると、自然と顔がにやけてしまう。いつもは憂鬱になる混み合った電車内でも、もらったお給料の使い道を考えているだけで全く気にならなくなるのだから、私って単純な人間だと思う。



 それでも、こんな単純で幸せな日々に満足していた。



























「次はーーーー駅、」



 聞き慣れたアナウンスの音がして、電車は家の最寄駅に止まった。いつものように電車を降りて、駅の改札を出る。

 そしていつものように家までの道のりを歩いて、いつものように家に着く………はずだった。



 最初に違和感を感じたのは、駅の改札を出て少し歩いた時だった。いつもはそれなりに人通りも車通りもあるはずの帰り道なのに、誰ともすれ違わない。電車に乗っている時も、電車を降りる時も、改札を出る時も、いつもと変わらず沢山の人がいた。だから、帰り道でもそうだと思っていたのに、誰とも、車一台とだってすれ違わない。この辺りは塾もあって、自転車に乗った高校生とかともよくすれ違うのに、それすらない。

……何かあったのかな?事故……?いや、それなら逆に野次馬でごった返す筈だ。そもそもパトカーや救急車のサイレンも全く聞こえない。



……なんとなく薄気味悪い。




『……早く帰ろ。』



 そんな時、反対側から歩いてくる人影が見えて、私はほっと息を吐いた。



……なんだ、ちゃんと人いるじゃん。



 心細かったから、なんとなく勝手に仲間意識のようなものが芽生えて、見ていることがバレない程度に反対から歩いてくる人を見た。

 暗闇に紛れそうなぐらい綺麗な漆黒の髪をしたその人は、ちょっと普通じゃお目にかかれないぐらい端正な顔立ちをしていた。芸能人って言ってもいいぐらいのオーラもあって、これはスカウトが放っておかないだろうな、なんて考えながら歩いていた。



 今考えれば、この時の私は人がいない夜道を歩いているのに危機感が無さすぎた。でも、危機感を持っていたとしても、この後に起こる事を予想も回避もできなかったと思う。



『……え?』



















 本当に、一瞬の出来事だった。



 いつの間にか、さっきまでそこにいたはずの綺麗な人が漆黒の髪の人が目の前にいた。その人は真っ直ぐ私を見つめている。



……すごく、綺麗な琥珀色の瞳。



 その瞳を見た瞬間、胸に痛みがはしった。














……何が起こったのか。それを確認する前に、私は目の前が真っ暗になった。




































……そうだった。やっと、思い出した。












 佐藤瑠奈が最後に見たのは、漆黒の髪と琥珀色の瞳……ユージン陛下の姿だった。




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