忘れているのは
「それで、質問とはなんだ。」
クロス様は私と話す体制を整えてくれているけど、それよりも気になることがる。私はこの人……いや、この神様を見たことがある。こんなインパクトの高まりみたいな人、会ったら絶対忘れない。
「あの、その前に、もしかしてユージン陛下と合う前に、私とすれ違った方ですか?」
そうだ、この言葉を失うほど美しい容姿をした人は、一方的に話しかけて、よく分からないままいなくなった人だ。
(「目立つな。それだけだ。」)
主語と修飾語がなくて、要領を得ない忠告なのか何なのかよく分からないことを言って去っていった人。それがまさか……
「目立つなと言ったはずだ。此奴には無理だったな。」
クロス様だったとは……!!
でも、あの時の人がクロス様だったとしたら、忠告の意味も理解できる。クロス様は始めから、ユージン陛下が私を探していたことを知っていた。だから私に目立つなと忠告して、ユージン陛下から見つからないようにしたのだろう。……忠告虚しく、私はユージン陛下にロックオンされてしまったわけだけども。
いや、そもそも私が虹を創り出した時点で興味はもたれていた。今更時すでに遅しだった気もするし……。
「忠告してくださったのに、無にしてしまい申し訳ありません。ですが、ただ目立つなという言葉だけでは何のことか分かりません。それに、忠告するには遅すぎたました。私はこの魔法具を望んだ時から、方法は違えどこういった手段をとると決めてしまっていましたから。」
そうだ。そもそも私は、私の思う普通の世界が欲しい、と望んだ。この世界で、わたしの望む普通を望むと言うことは、この世界での非常識だ。いやでも目立つ。
仮にそれを望んでいなかったとしても、クロス様が平民を王太子の婚約者にすると決めていた時点で、目立つ。それに、ユージン陛下にもオーケノア様がいる。遅かれ早かれ、見つかることは確定していただろう。
「それよりも、私はクロス様に聞きたいことが山ほどあります。」
「聞こう。」
やっと……やっと、私の生い立ちが分かる。それがどんなものでも、これから戦うための糧になる。そう思うと、期待と不安で心臓が煩いほどに鼓動する。大きく深呼吸して、言葉を紡いだ。
「まず、私はどうしてこの世界に生まれ変わったんですか?連れてくるだけならば、佐藤瑠奈のままでもよかったはずです。」
「世界が異なれば質量も異なる。魂の移動はできても肉体の移動は不可能。すでに其方は肉体の死を迎えていた。」
……相変わらず分かりにくい言葉のチョイスするな。
まとめると、異世界同士では肉体……つまり体の移動はできない。そのため、魂だけ移動させた。魂だけ移動させても肉体がなければ生きていけないから産まれ直させた……ということなのだろう。
でも気になるのは、すでに肉体の死を迎えていたというところ。私は、自慢じゃないけど健康そのものだった。人並みに風邪をひいたり怪我をしたりはしたけれど、死んでしまうほどの病を抱えていた覚えはない。
「その、すでに肉体の死を迎えていたというのはどういうことでしょうか。私は、特に病を抱えていた覚えもありません。事故……とかですか?」
健康な二十歳の体が死を迎えると言われて、思い当たるのは交通事故だ。でも、私は交通事故にあった覚えもないんだけど……。
「なんだ。覚えていないのか。」
「え……?」
「それとも、思い出したくないのか。」
そう言ってクロス様の美しい瞳が私を見つめる。
……思い出したくない?何を?だって私は、気がついたらこの世界に生まれていた。佐藤瑠奈としての終わりを、私は知らない。
……ほんとうに?
心臓が痛くなって、思わずしゃがみ込む。
「ルナ!?」
シーくんが駆け寄ってくれて、背中を摩ってくれる。そこで初めて、自分の呼吸も速くなっていることに気がついた。
なに?私は何を忘れているの?
必死に思い出そうとして、私の脳裏に浮かんだのは……
笑みを浮かべるユージン陛下の顔と、真っ赤に染まる夜空だった。




