選ばれたのは
「その後、シェイドが王太子に選ばれたことを気にして家出して、ルナと会ったのは完全に予想外だったんだがな。しかも、ルナに惚れてルナと結婚できなければ国王にはならないとまで言い出した。お陰で、神クロス様の婚約に関する神託で混乱をきたすこともなく、シェイドは誰にも意を唱えさせない国王となるためますます強くなった。私の判断に間違いはなかったということだ。」
無表情ながらも、どこか満足げにウィルド様は頷いている。
「ちょっと待て。じゃあ、俺が王太子に選ばれたのは……」
「私の先を見通した助言のお陰だ。」
「自分が王太子になるのが面倒だっただけだろう!」
「まあ、それもあるな。」
「それしかないだろ!」
「失礼な。私はシェイドならやれると思って託したんだ。私は夢だった魔法道具の研究に時間を費やせる。お前はルナ嬢と結婚できる。お互い幸せじゃないか。」
「部屋から出ないと思ったら、本当に研究だけやってたのか……。」
「ああ、今が1番充実しているよ。シェイドから相談されて、魔法石と水路を繋ぎ、物理的には水路を引くことができないような村にも水路を繋げるような魔法道具も開発しただろう。」
「それは感謝しているが……!」
その言葉に、私は驚いた。あの魔法具を開発してくれたのはウィルド様だったのか!
元々、私たちの住むガラク村がある周辺は干魃が激しい土地で、水路を引こうにも村に着くまでに干上がってしまって生活用水の確保が困難だった。それを解決してくれたのが、王太子であるシーくんが設置してくれた魔法道具だった。村の井戸と水路を魔法石で繋げることで、空間を繋げているそうだ。それによって、途中干魃した土地に水を吸い取られることなく水を汲むことができるようになった。
私たちの生活を救ってくれた発明をしたのが、ウィルド様だったとは!
「王太子になるより研究のほうが大事か!?」
「王太子ももちろん重要な役割だよ。だが、私は研究の方が性に合ってる。」
「俺は、兄様こそ王太子に相応しいと、ずっと思っていた!」
シーくんは、どこか苦しそうにそう叫んだ。私とシーくんが出会ったきっかけも、王太子に選ばれたことが怖くてシーくんが逃げてきたということだった。訳もわからないまま、前例のない第一子以外の王太子となってしまったシーくんの戸惑いと恐怖は計り知れない。
「だが、私が王太子となっていたらルナ嬢と結ばれていたのは私だ。それでもよかったか。」
「!?」
そう言われて、シーくんが言葉に詰まった。
ウィルド様の話を聞くに、私はこの世界に生まれる前からユージン陛下に狙われていたことになる。クロス様がそれを防ごうとしていたらしい。……確かに、相手が一国の王太子となれば、対等に戦うためには同等か、それ以上の立場が必要だろう。理解はしたけど、なんとなくこの世界に来た時点で私の運命が決まっているようで居心地が悪い。
でも、シーくんが王太子になったのは仕組まれたものだとしても、私と出会い、私を好きになってくれたのは偶然らしい。それならば、そっちの方がよっぽどいい。
「私は、シーくんが私と出会ってくれてよかったと思ってるよ。」
「ルナ……」
「それに……」
「?」
「ウィルド様の発明は素晴らしいと思います!こんな才能があるのに、それを生かさないなんてもったいない!」
もしもウィルド様が王太子になっていたら、ガラク村に……全ての村に生活用水を供給するような発明は生まれていなかっただろう。通信用の魔法具もそうだが、この人の発明は科学技術が発達していた前世の国に通づるものがある。この人から発明を奪うことはこの国の、ひいては人類の大きな損失となるだろう。
「はあ……。まあいいですよ。確かに、兄様が王太子になっていたら、ルナと出会った時にはルナは兄様のものになっているということですよね。それは、はらわたが煮え繰り返りそうなほど気に入らないので。」
「ははは。それは面白いね。」
私の発言に、呆れたようにため息をつくと、シーくんはウィルド様に向き直った。物騒なことを言っているシーくんにも動じることなく、ウィルド様は笑っている。……この人、本当に表情変わらないな。
そんな風に言い合っているシーくんとウィルド様を見て、私はやっぱりこれでよかったのだと改めて思った。
話を聞く限り、今のウィルド様と過去のウィルド様は性格に大きな違いがある。そしておそらく、今のウィルド様が、ウィルド様の素なのだろう。シーくんの反応から見るに、過去のウィルド様は立派な王太子となるために、家族にも本当の自分を隠して生きていたようだ。そう言った意味でも、ウィルド様は王太子という重責から逃れられてよかったのだろう。
……代わりにシーくんが重いものを背負ってしまったけれど、シーくんは私やルイス様、ウィルド様には王子様の仮面をかぶっていない自分を見せることが出来ている。ウィルド様よりは救いがある……と思いたい。
それに、シーくんは周りの目を引く容姿と圧倒的なオーラのようなものがある。自分に期待された役割を全うするために何でもする覚悟がある。シーくんはきっと、自分が思っているよりも王太子という役割に向いている。
……何より、シーくんが王太子でいてくれなければ、今の村の暮らしはなかった。本当に感謝している。
「適材適所ってやつだよ。シーくんは、自分が思っているよりもずっと王太子に向いてる。」
「そうだろう、そうだろう。流石、ルナ嬢は見る目がおありだ。」
そう言って笑い合う私とウィルド様を見て、シーくんは諦めたようにため息をついた。
……よし、これでシーくんの王太子になった理由については解決と見ていいだろう。
「それで、ユージン陛下についてなのですが。」
「ああ。そちらが本題だったね。」
そう言うと、疲れたようにため息をついていたシーくんも真剣な顔をして私を見た。
……そう、本題はここから。
「ユージン陛下の目的は分かりました。私がここにいる理由についても、大まかには理解しました。しかし、ここに来た目的であるリオ……前世の世界にいる私の大切な人を助けるという目的を果たすためには、あまりにも情報が少なすぎます。」
「だろうな。だが、俺が知っている情報はこれだけだ。それ以上は分からない。」
「はい。それは分かっています。」
ウィルド様から、これ以上の情報提供は望めない。でもこのままでは、リオを助けることができない。
なら、どうするか……
『うん、やっぱり初志貫徹だね。』
「は?今なんて……」
日本語でそう言うと、聞き取れなかったウィルド様が首を傾げていた。私は、それに満面の笑みで答えると、声を張り上げた。
「クロス様ーー!!いい加減出てきてください!!」
「は!?」
「ほう。」
戸惑ったようなシーくんの声と、楽しそうなウィルド様の声が聞こえるけど、構わずに私は続けた。
「あなたには聞きたいことも、言いたいこともたくさんあるんです!!」
ウィルド様の話を聞いて、理解できた所もあったけど、ほとんどが納得できないものだった。
生涯知ることがないと思っていた、『どうして私はこの世界に生まれてきたのか。』という問いかけに対する答えも、リオを助けるためのヒントも掴みかけた今、立ち止まっている暇はない。
『いいから腹括って出てこいやーー!!』
思わず日本語でそう叫んだ瞬間、あたりが静まり返った。全ての時が止まったように感じた。
「うるさい。そんなに叫ばずとも聞こえる。」
……目の前に、言葉を失うほど美しい存在が現れた。
「神クロス様。来られたんですね。」
「此奴がうるさい。」
「私も叫ぶとは思わず驚きましたよ。」
ウィルド様は、慣れた様子で目の前の美しい存在……クロス様と話している。シーくんはクロス様が現れた瞬間、膝をついていた。
私はと言うと、あまりに美しいその存在を目の前にして、固まってしまった。
「彼奴に見つかっては仕方がない。質問とやらに答えてやる。」
そう言われて、私は我にかえった。
……いけない、いけない。私が呼んだんだ。
この状況を打破するために、クロス様に会うという不可能とも思われた目的は果たせた。でも、本当の勝負はここからだ。
大きく深呼吸をして、私は再びクロス様に向き直った。そして、口を開きかけて……妙な既視感を感じた。
……あれ?私、この人見たことがある?




