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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第四章
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王太子の誕生

 そして、神クロスがウィルドの前に姿を見せてから2年が経った。あれから神クロスは気まぐれに姿を表しては、佐藤瑠奈……改めルナ・ハリスの状況を知らせに来た。



 すぐにでも婚約破棄をすることはできたが、ウィルドはまだそれをしていなかった。

 まず、第一にルナ・ハリスはまだ2歳だ。神クロスの話によると精神年齢は20歳を超えているらしいが、身体年齢は間違いなくまだ幼児。今いる婚約者と婚約解消をして、2歳の幼女と婚約します、なんて言ったら周囲からどんな目で見られるかは想像に難くない。

 神クロスの神託があれば問題ないように思えるが、そもそもオフェルトクロス王国では魔法具召喚の儀と王太子を選ぶ時しか神クロスの神託はない。ましてや、実際に神クロスと会って会話をしたなどと知られれば、国中が騒ぎになるだろう。

 それならば、王太子を選ぶ儀の時一緒に婚約者についても神託をすれば一度で済む。ウィルドは神クロスにそう言った。神クロスは結果的に王太子とルナ・ハリスの婚約が成れば過程はどうでも良かったようで、納得していた。どちらにしても面倒なことになるのなら、面倒ごとは一回で済ませたい。これ以上、本を読む時間が削られるのはごめんだった。




 そうして、表向きは変わらない日常を過ごしていたある日。シェイドが魔法具召喚の儀を行い、最強の力を願った。何を願うのかは、基本的に魔法具召喚の儀を行うまで誰にも告げることはないため、誰もそれを知らず、誰もがそのある種大それた願いに驚いた。



「いつか王太子となる兄様の助けになれるよう、俺が強くなります!」



 目を輝かせながらそう言ったシェイドを見た時、ウィルドは今まで誰にも言わず、奥底に眠っていた願望が顔を出したのを感じた。



……最強なら、シェイドが王太子になればいいんじゃないか。



 元々ウィルドは、王太子教育が好きではなかった。人前に出るのは苦手だし、国が信仰する神クロスもそこまで尊い存在だとは思えず、興味もなかった。

 そんな時間があるのなら、本を読んでいたいし……今まで想像することしかできなかった、魔力量や属性、魔法具に関係なく誰もが使うことで恩恵を受けられるもの、をつくることが出来るかもしれない。



 しかし、なぜか神クロスはいつも第一子を王太子に選んでいる。今回話をしに来たのもウィルドの所だった。もしも第一子じゃなければいけない理由があるのなら仕方がないか、と諦め半分に、なぜ毎回第一子を選んでいるのか神クロスに聞いてみることにした。



「人間の違いに興味がない。」



「は、」



 帰ってきた答えは予想外のもので、ウィルドは頭の中で必死に言葉の意味について考える。

 人間の違いに興味がないということは、神クロスにとっては誰が王太子になろうと興味がないということだ。



「それならば、なぜ神託を行なっているのですか。」



「選べと言われた、ゆえに選んだ。違いが分からないので最初に生まれた人間を選んだ。それならばひとりしか生まれておらずとも選べる。」



 第一子を選んでいる理由が、衝撃的すぎてウィルドは言葉を失った。

 つまりは、神クロスは次期王太子が誰であろうとどうでもいいのだ。それなのに選べといわれたから仕方なく、一番最初に生まれた子供を指名している。……それは選んでいるとはいわないだろう。



 しかし、それならば自分じゃなくてもいいはずだ。

 一度は諦めかけた願望が頭を擡げる。シェイドは頭が良く人当たりもよいが、強かで腹に一物抱えているがある。国王というのは、純粋で優しいだけではやっていけない。国民をまとめ、他国と腹の探り合いをしなければならないのだ。魔法具召喚の儀で神に最強の力を願うような腹黒さは、ある意味王太子に向いているといえるだろう。神クロスを信仰しながらも、最強の力を願う豪胆さも持ち合わせている。



 元来の才能と賢さに加えて、最強の魔法の力を得たシェイドこそ、王太子になるべきじゃないか。



 そう考えたウィルドは、神クロスに進言することにした。本来ならば神に進言するなど恐れ多くてできないが、ウィルドは元々の信仰心の薄さに加えて、度重なる神クロスとの邂逅で、神との会話に緊張するということが無くなっていた。ゆえに出来たといえるだろう。



「神クロス様。私は王太子には相応しくありませんし、他にやりたいこともあるのです。それに、最強の力を得たシェイドの方が、ルナ・ハリスを守ることができると思います。なので、神託では私ではなくシェイドを王太子にお選びください。」



 その言葉に、誰が王太子になろうと興味がなかった神クロスは躊躇することなく頷いた。














 こうして、オフェルトクロス王国建国以来初の、第一子ではない王太子の誕生となった。












 


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