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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第四章
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邂逅

 オフェルトクロス王国の次期国王は信託で決まるとされているが、建国以来第一子以外が選ばれたことは一度もない。長い歴史の中には、賢王も愚王も存在した。それでも必ず第一子が選ばれることから、第一子は神クロスに選ばれた存在と言われるようになった。そして、貴族や平民にも、第一子を何よりも大切にする文化が根付いていった。

 例に漏れず、オフェルトクロス王国国王の第一子として生をうけたウィルド・フェルダリアは次期王太子として教育を受けてきた。成績は非常に優秀で、周囲への心配りも忘れない。誰もが、ウィルドこそ次期王太子にふさわしいと口をそろえて言った。

 ウィルドも、神託後は自身が王太子となり、いつか国王となる未来が来るのだろうと漠然と考えていた。それが、この世界にとっての普通だった。その普通に綻びが生じたのは、今から13年前のことだった。



 いつものように王太子としての教育を受け、いくつかの公務をこなし自室に帰ってきたウィルドは本でも読もうかと本棚に目を向けた……その瞬間、本棚に空洞が現れ、そこから言葉を失うほど美しい人が現れた。急に現れた見知らぬ人間など、普通なら侵入者かも知れない、と疑いすぐに対処するウィルドだったが、何故か疑う気持ちは微塵も浮かばず、気づけば膝を付いていた。

……そして、思い出す。唯一神クロス様の姿を描いたといわれる、王家のみが閲覧できる姿絵そのままの人が、ここにいる。



「ウェルド・フェルダリアと申します。拝謁叶いましたこと、恐悦至極でございます。神クロス様。」



……己の、本能が告げていた。姿絵に間違いはなかったのだと。この人……いや、目の前にいるのはこの国が掲げる神であると。



「御託は良い。建前も不要。今から話すことを聞け。」



 だが、建国以来、神クロスが人間の前に姿を現したという記録はなかった筈だ。わざわざ自ら姿を表してまで話したいこととはなんだろうと、ウィルドは背中に冷や汗が伝うのを感じた。……しかも、国王ではなくまだ正式に王太子にもなっていない人間に話したいこととは何だ。



「はい。神クロス様の信託を拝聴するなど身に余る光栄でございます。」



「それはいらぬ。建前だけの信仰は邪魔だ。」



 ウィルドは、その言葉に驚き提げていた顔をあげた。神クロス様は一切表情を変えることなくこちらを見ている。神に隠し事が出来るとは思っていなかったが、気分を害した様子がないことに驚いた。



……誰にも言ったことも、悟られたことすらなかったが、ウィルドは神クロスに対する強い信仰心を持っていなかった。



 この国で生まれた王族として、神クロスに対する好意的な感情はもちろんある。しかし、そもそもウィルドは神クロスが与えた魔法という存在にはあまり関心がなかった。

 教育を受ければ、教えられたことはできるように努力はする。しかし、生まれつき属性が決められ、魔力量や魔法具によって左右されるという不安定なものに興味を惹かれなかったのだ。王族として魔力も強く、得られた魔法具も恵まれたものだったため、ウィルド自身は大変優秀だった。

 しかし、ウィルドが出来ることが他の人間にも出来るかというとそうではない。魔力量や属性、魔法具に関係なく誰もが使うことで恩恵を受けられるものはないのか。次第にそんなことを考えるようになり、そんなものがあったら夢のようだと、まだ見ぬ存在を想像しては心躍らせるようになっていた。



「ご気分を、害されてはいませんか。」



「ない。話をする。」



「はい。」



 王族である自分の信仰心が無いせいで神の機嫌を損ね、国の不利益になるなどあってはならない。ウィルドは信仰心こそないが、王族としてやるべきことは理解していた。そのため、本当に気分を害した様子のない神クロスに、ウィルドはホッと胸を撫で下ろした。



「ルナという人間が生まれる。王太子の婚約者として迎え入れ、ユージンの手に渡らぬようにしろ。」



……薄々感じてはいたが、神クロスはあまりにも言葉足らずだ。神々の間ではそれで通じるのかも知れないが、優秀とはいえただの人間であるウィルドにはその言葉を理解することが出来なかった。



 王太子の婚約者を指定しているのか?しかし、これから生まれる人間とルナという名前だけでは理解できない。しかも、同い年の他国の王太子の名前まで出されて、ウィルドは混乱した。



「申し訳ありません。私の矮小な頭脳では神クロス様のお言葉を一度で理解することは出来ませんでした。恐縮ではありますが、私のような愚かな人間でも理解できるような詳しい説明をお願い致します。」



 神に対して失礼だとは思いつつもこのままでは埒があかないと、ウィルドは作り笑顔を浮かべながら言った。

 神クロスはウィルドが言わんとしたことを理解したようで、再び口を開いた。



「ユージンも魔法具を得たことは知っているな。」



 オフェルトクロス王国では、国民に魔法具が渡ることはない。神オーケノアは自身が認めた王家の人間が20歳になると願いに応じた魔法具を授けにくる。そのため、20歳になって魔法具を賜った瞬間、その人は王太子となる。ユージンは、数年前に魔法具を手にし、王太子となっていた。

 ユージンが王太子となった後は、さまざまな改革がされ、国民の生活が大きく変化したとオフェルトクロス王国でも噂になっていた。



「はい。魔法具を手にして以降、ユージン王太子殿下が他に類を見ないような改革を行っていることは聞いています。それに、何か関係があるのですか。」



 ウィルドの言葉に、神クロスは色のない声で淡々と、信じられないようなことを言った。




「ユージンは、知らない世界を知りたいと願った。結果、他の世界に干渉することができる魔法具を得た。」











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