真実への扉
「ご期待に添えずに申し訳ないが、神クロス様はいつも気まぐれに訪れるんだ。こちらからコンタクトを取ることはできない。」
「そうですか……。」
神様と気軽に連絡を取るなんて出来るわけがないとは思っていたけど、やっぱり難しいのか……。もしもの可能性に賭けてみたんだけどな。
「……それでは、なぜクロス様は、鈴木瑠奈の話をウィルド様にしていたのか……なぜウィルド様は佐藤瑠奈をここに呼んだのか……教えて頂けますか?」
そう。これが1番の疑問だった。
ウィルド様が佐藤瑠奈のことを知っている理由は分かった。でも、どうしてわざわざクロス様はウィルド様に私の話をしていたのか。
前世の記憶があることは珍しいのかも知れないけど、この世界での私はただの平民だ。シーくんに出会って、ただの平民というにはかなり濃い人生を送らせてもらっているとは思うけど、何年も拝謁さえ叶わないような神様が、一国の王子にわざわざ会いに来てまで話すような価値のある人間ではない。百歩譲って話すとしても、私に興味を持っている王太子のシーくんではなく、ウィルド様にだけ話していた理由が分からない。
「ああそうだ、それを話しておかなければ。君たちはユージン陛下の目的も何も分からないんだったね。」
「兄様は、知っているのですか?」
「ああ、全て神クロス様から聞いているよ。今この国がどういう状況にあるのかも分かっている。」
「……いつも思っていたんだが、部屋から出ずにどうやって情報を得ているんだ。」
シーくんは呆れたようにそう言っていたけど、私は驚きを隠せなかった。正直、ウィルド様が唯一クロス様に会ったことがあると知った時は、クロス様の手がかりのひとつでも聞くことができれば御の字ぐらいに思っていた。
信託に選ばれず、ずっと部屋にいた王子様。表立って王族を悪くいう人はいなかったが、シーくんが王太子としての資質を見せるほどユージン陛下じゃなくてよかった、などと陰で言われていた。自分が神に選ばれず、人からも弟と比べて劣っているように言われ……引きこもりたくもなる。シーくんも、お兄さんの話をする時は少し言い淀んでいたから、あまり良好な関係ではないのだと思っていた。
けれど、実際はどうだろう。ウィルド様から、シーくんに対する負の感情は全く見えない。シーくんも、呆れたようなことを言いながら兄を認め、心を許している。クロス様と交流し、佐藤瑠奈を知っていただけではなく、ユージン陛下の目的まで知っている。
……めちゃくちゃ頼りになる。
「私も、生まれ育ったこの国を戦火にしたくはないからね。出来ることはするつもりだよ。」
「兄様……」
「それに、」
「?」
「私は弟の恋を応援しているからね。」
「兄様!?」
揶揄うようにそう言ったウィルド様に、シーくんが慌てて立ち上がった。
……シーくんがこうやって私への気持ちについて指摘されて焦っているのを初めて見た。いつも、何を言われても飄々としていて、逆に言われてる方が恥ずかしくなるようなことばっかり言ってたのに。……ああ、そういえば、お兄ちゃんもそうだった。私は前世の兄とのやり取りを思い出した。
(『お兄ちゃん、さっきチューしてたね!』
『!?え、ちょっ、瑠奈!?見てたのか?!』)
キスしてるときは恥ずかしがることなく、他の人に見られても関係ないって感じでクールに決めていて、私がいたことに気づいた途端慌てふためいていた。
……ああ、そっか。ちゃんと、兄弟なんだ。
勝手に仲が良くないんじゃないかとか、邪推した自分が情けない。後継者争いだとか、そんなのあってもこのふたりはちゃんと兄弟だ。
「……何笑っているんだ。」
「ん?仲良しなんだなーって。」
シーくんの中でずっと張り詰めていた糸が、ウィルド様に会って少し緩んだのが分かる。
……今回の視察、こんなに拗れてしまったのは私のせいだ。私が大変なのは構わない。だって私のせいだから。でも、シーくんやこの国の人たちに対しては本当に申し訳なくて、罪悪感でつぶれそうだった。……少しでもシーくんがリラックスしてくれたならよかったと、少しだけ胸を撫で下ろす。
「さて、かわいい弟を揶揄うのはこれぐらいにして。」
さっきまでシーくんを揶揄っていたウィルド様だったが、急に雰囲気が変わる。……こんな時になんだけど、ほんとにこの人表情変わらないな。
「ユージン陛下の目的を知るには、私が神クロス様と初めて出会った時のことから話すのがいいだろう。」
「……はい。お願いします。」
「そうすればおそらく、ルナ嬢がずっと疑問に思っていることの全てが分かるだろう。」
「全て……?」
「ああ。佐藤瑠奈がどうして、この世界に生まれてきたのか、その答えもね。」
「!?」
その言葉に、私は目を見開いた。……ずっと、この世界に生まれた時から分からなかったのに、この人は知っている……?
「それとシェイド、君がなぜ王太子に選ばれたのかも、話す時がきたようだ。」
「……は?」
今度は、シーくんが目を見開いた。……ウィルド様は、どうして自分が選ばれなかったのか知っていたのか。
「それでは話そうか。私が神クロス様と出会ってからのことを。」
……何が出てくるのか、分からない。
私が生まれた意味、というある種の自分の価値のような物をまざまざと見せつけられるのではないかという恐怖が、身体中を駆け巡る。
「ああ、聞こう。」
「……はい、お願いします。」
テーブルの下で、そっと握られた手が……震えている。
そうだ、ここに今の私の存在を誰よりも認めてくれる人がいる。それにシーくんだって、王太子に選ばれてからあんな毒の森に来るほど追い詰められて、そうしてここまで来たんだ。
自分がどうして王太子に選ばれたのか。シーくんにとっても、自分の存在価値が決まってしまいかねない話なのだろう。
……大丈夫。一緒に、前に進もう。
シーくんの震えが止まるように、私も震えた手で握り返した。




