きっと
「兄様……なんですかその格好は。」
髪はボサボサで、目元がよく見えないほど長い前髪。おそらく高級であろう服もボロボロになっていて、古着屋さんでも買い取ってもらえるか難しいレベルだ。
そんな中でも、スラリとしたスタイルや前髪の隙間から見える整った顔立ちはさすがシーくんのお兄さんというべきか。
「いいだろう。誰に見られるわけでもない。」
「俺とルナが行くと連絡しただろう!」
「まあ、それはそれだ。時間は有限だからな。それよりも優先するべきことが山ほどあるのだよ。」
「部屋にこもっているだけじゃないか……。」
……なんというか、思ってたのと違う。
信託でシーくんが王太子に選ばれてからは、部屋から出てこないって聞いていたから、もっとシーくんと気まずいのかな、とかあんまり喋らないのかな、とか思ってたけど、目の前の人……おそらくウィルド様であろう人は、とても饒舌で生き生きとしている。シーくんともとても仲が良さそう。……若干シーくんが振り回されている感があるのがちょっと珍しいけど、まるで普通の兄弟だ。いや、実際に兄弟なんだけど背景が普通じゃないから何というか……。
しばらくそのやりとりを見ていると、ウィルド様がこちらを見た。それを見たシーくんも、こちら見て、2人分の視線が私に注がれた。
「君は……」
「!!はじめまして!私、ルナ・ハリスと申します!」
そこでようやく、まだ名乗っていないことに気がついて慌てて頭を下げる。相手が望んでいたのは佐藤瑠奈だったから、佐藤瑠奈と名乗るべきか迷ったけれど、今ここにいるの私はルナ・ハリスだ。
「ああ、君がルナ・ハリスか。私はウィルド・フェルダリア。お噂はかねがね。」
「噂……といいますと?」
「まあ、色々とね。」
「その……色々、とは……?」
そう尋ねるが、ウェルド様は黙ってこちらを見ているだけ。……そういえば、この人は私の前世の名前を知ってるんだった。え、噂の発生源はどこ?全く心当たりがない。え?何?怖い。
「ああ、シェイド。あとでそちらの補助具の発信サンプルがほしい。使用した結果をレポートにしてまとめてくれ。」
「お断りします。」
「なぜだ。ようやく発信してくれたのだからサンプルがほしい。」
「こちらにそんな余裕はありません!」
「シェイドが全く連絡してこないから、いつもこちらから連絡していたんだ。それぐらいいいだろう。いつでも連絡していいと言ったのに、全く連絡がないから悲しかったんだぞ。」
「こんな莫大な魔力を消費する補助具、滅多なことがなければ使えません。」
「そこなんだよ。私から発信するには大元の魔法石を組み込んでいる補助具から発信するから問題はないが、かけらを埋め込んだ持ち運び用の補助具はどうしても使用者の魔力に依存してしまう。やはり実用化するにはまだ改良が必要だな。」
「しかも、兄様の研究材料用にと必要量より多く魔力が取られるだろう。」
「それはまあ、いわゆる使用料というやつだ。ああ、ついでにレポートも使用料として、」
「だからそんな暇はないと言っているだろう!」
ただでさえも混乱しているのに、次々と繰り広げられる兄弟の会話についていけない。シーくんもすっかりウィルド様のペースに乗せられている。
でも、当初の目的を忘れては行けない!
「あの!」
そう叫ぶと、2人の視線が私の方を向いた。よし、これで軌道修正できる!
「私、ウィルド様にお聞きしたいことがあって伺いました!」
「……ああ、そうだな。俺たちは兄様の道楽に付き合っている暇はないんだ。」
……さっきまで完全にウェルド様のペースに乗せられてたよね、という言葉は飲み込んであげることにする。
「その前に、私が出した条件を覚えているかな。」
「……佐藤瑠奈をつれてこいというものだろう。そもそも、どうしてその名前を知っているんだ。」
「言っただろう。お噂はかねがね、と。そのままの意味さ。聞いたんだよ。おそらく、君達が会いたがっているであろうお方からね。」
「兄様、それは……まさか、」
「ああ、この国の創造主であり絶対神。神クロス様だ。」
……ああ、そうなんだ。確かに神様なら誰にも言ってないことを知っていたとしてもおかしくないかもしれない。
でも、そうなると新たな疑問が生まれる。どうしてウェルド様は私たちの目的を知っていたの?どうしてクロス様は私と面識のないウェルド様に、私の話をしていたの?
……この疑問を解決する方法なんて、もうひとつしかない。
「ご存じでしたら話が早い。私、クロス様に会ってお願いしたいことがあるんです。会う方法をご存じありませんか?」
疑問の答えも、現状打破の答えも、きっと全部ここにある。




