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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第三章
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1番大切な人〜Side ジェイド〜

 崩れ落ちていくルナを、抱きしめる。



 ルナは、人前で泣くことはほとんどない。泣き顔を見たのも小さい頃に会ったあの小屋でだけだ。その時は悲しくて泣いている、というよりも怒りとともに滲んだ涙だった。それも再会してからは見ることがなく、どんな目に合っても泣くことはなかった。肩を震わせながらひたすら泣くルナを見るのは初めてで、ルナにとってリオという男がどういう存在なのか嫌でも思い知らさせた。



「え?!まだルナ様にとっての人質となり得る人がいたのですか?!気が付かずに申し訳ありません!すぐに確認いたしますのでそのお方のお名前と何処にいらっしゃるのかお伺いしてもよろしいでしょうか!?」



 初めて聞く名前に、ルイスが慌てたようにそう言ったがルナは声も出さずに泣いたままだ。



「ルナ。聞いたことがなかったが、そのリオ、という男はどこにいるんだ?今どうなっている?俺やルイスにはその魔法具に浮かび上がる文字が読めない。教えてくれ。」



 ルナの心をここまで揺さぶる存在があることに対して、うまく言い表せない複雑な感情が、沸々と込み上げていくのを感じる。しかし、ここでルナの大切な人を守りきれなければ、今後ルナが心から自分を頼りにすることはないだろう。ルナは、初めて会った時から人を頼るのが……というよりも、自分の本心を見せるのが苦手なようだった。

 そんなルナが、こんなにも感情を露わにするほど大切に思っている相手を見捨ててしまえば、おそらくルナがこちらを向くことは二度と無い。そんな打算的な考えがあるのは事実だが、それよりもここで人質が人質として機能してしまうことの方が厄介だ。なにしろ、相手の要求はルナだ。絶対に、渡すわけにはいかない。



 だからこそ、そのリオとかいう男の居場所や、ルナとユージン陛下の関係など知らなければならない情報が沢山あるのに、ルナは俯いて泣いたまま答えない。



「……ルナ。」



 ルナの魔法具に書いてある文字が理解できない俺では、何が起きているのかを知ることができない。なんとかルナを落ち着かせようと、顔を覗き込もうとした時だった。



「………よしっ!!」



 バチン!と大きな音を出してルナが自分の両頬を叩いた。



「……おい、どうした、大丈夫か?」



 いきなりのことで驚き、ルナを見ると両頬が赤くなっていた。……そんなに強く叩いたのか。



「ごめんなさい!落ち着きました!全部話します!だから……」



 どうしたのかと顔を覗き込む俺の腕を振り解き立ち上がると、一歩下がって……頭を下げた。



「どうか、力を貸してください。お願いします。」



「ああ、もちろん力になる。」



 その言葉に、ルナは安心したように、でも泣きそうになりながら笑った。

……ルナに必要とされている。この状況の中、ただその事実が嬉しくて口元が緩んでいくのを抑えることができない。ただ、先程までの泣いて縋ってくるルナも貴重だったため、それが見られないのも少し残念だと思った。



「……もう泣き止んだのか?」



少し揶揄うように笑いながら目尻を撫でるとルナは泣いたことが恥ずかしかったのか赤くなって顔を逸らした。



「……どうも、お見苦しい所をお見せいたしまして……。でもね、泣きたい時は思いっきり泣く!これも心身のコントロールのためには重要だから!」



「もっと泣いてくれてもよかったがな。泣いているルナは可愛かったよ。」



 泣いて縋っているルナも貴重で魅力的ではあったが、やはりこのよく分からないいつものルナが1番好きだ、と思った。いつもの調子が戻ったことに安心して、さらにいつも通りになればいい、と思って揶揄った。



「泣いて、泣き喚いて何とかなるなら何時間でも何年でも泣き喚くよ。でも、泣いたって何も変わらない。むしろ、時間がなくなって、リオも、この国も、私もユージン陛下のいいようにされてしまう。だから思いっきり泣いてスッキリしたら、もう終わり。大丈夫。……泣かせてくれて、ありがとう。」



 照れ隠しのような反応が返ってくるかと思っていたのに、いつものこちらを安心させるような微笑みを返されて一瞬息が止まった。しかしそんな反撃にも慣れたため、すぐにルナの言葉を反芻して時間がないことを再確認した。




「そうか。では、話を進めよう。」

 


……ルナを、ユージン陛下には渡さない。



 ルナは、良くも悪くも周りを巻き込んで、惑わせる。それがユージン陛下にどういう影響を与えたのかは知らないが、先に婚約という名の契約を結んだのは俺だ。今更何を言われたって渡すつもりはない。

 しかし、ここでルナを渡さずにリオの身に取り返しのつかない何かがあったり、国同士の争いの火種になってしまえばルナの心は一生それに囚われたままだろう。

……ならば、ルナを渡さずにリオを助け、争いを避ける必要がある。不可能にも思えるが、その条件を達成しなければルナは一生俺のものにはならないという根拠のない確信があった。



 どうするべきか、不可能を可能にするための糸口を探すため、ルナの言葉を固唾を飲んで待った。









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