美しい〜Sideシェイド〜
「この学園には月属性にも関わらず太陽が出ている時間に魔法を発動させ、神の階段を出現させた者がいると聞いた。そいつに話を聞きたい。」
そう言われてようやく、ユージン陛下がエリュシオン魔法学校へ視察に来た理由を知った。
ルナに自覚があったかどうかは知らないが、平民であるルナが太陽の光の元月属性の魔法を発動させ、神の階段を意識的に発動させたこと。さらに、月と太陽が共存し得ない理由まで知っているという衝撃的な事実は、学校内だけでなく国中の誰もが知るところとなっていた。それぐらい衝撃的なことだった。そして、ルナはその理由について積極的に話そうとはしない。平民であるルナに考えてみてください、と満面の笑みである意味挑発のような真似をされているのに教えを乞うような真似は貴族としてのプライドが許さなかったのだろう。生徒たちも誰も理由を聞こうとはしなかった。
俺も、聞かなかった。
それはプライドが許さないなんてくだらない理由じゃない。……初めて会った時からルナに感じていることがあるからだ。
ルナといると、目の前にいるのに目の前にいないような、どこか遠くにいるように感じてしまうことがある。神の階段を出現させた時のルナが、今までで1番遠く感じた。もしルナが理由を知っているのなら、世紀の大発見になることは間違いない。でも、聞けなかった。
ルナが考えて欲しいと言ったのなら、それには意味があるのだろう。だから、ルナが言うなら自分で考えたいと思ったのも嘘ではない。しかし本当は、神の階段について語っているルナを見たくなかったのがルナに直接聞かなかった1番の理由だった。
きっと神の怪談について語るルナは、今まで以上に遠く、そして……美しいだろうと思ったから。
しかし、即開戦を回避する条件としてエリュシオン魔法学校に視察に来ているユージン陛下にそう言われてしまえば、こちらに拒否権は無いに等しい。何故かこの会場にいなかったルナを、ルイスに頼んで連れて来てもらったが、流石のルナもこの状況に緊張しているのか、ユージン陛下に挨拶してから顔色が良くない。
いや、緊張というより……怯えているのか?
そのことに気づいた途端、心臓がの鼓動が速くなった。ルナは今まで、どんな危機的状況でも大勢の前で不安を表に出すことはなかった。緊張していても怖がっていても、笑顔で全てを乗り切っていた。
だからこの状況も、ルナなら何とかしてくれると思っていた。勝手に期待して、期待を押しつけて……それがどれほどの重圧か、俺が1番よく分かってたはずなのに……俺は同じことをルナにしていたのだと今更気がついた。
今からでもできることはないかと考え、思いついたのが…… 手を握ることだった。ルナは俺が好きだと告げてからは身体的接触に厳しいが、手に触れることには躊躇いがないらしく、よく手に触れてくる。ルナが手を握ってくれると……俺はいつも安心できた。
「ルナ・ハリス、落ち着いてください。あなたなら大丈夫です。……大丈夫です。」
だから、ルナがしてくれたように手を握った。ルナを安心させるために手を握ってそう言ったはずが、ルナの手を握って目があった瞬間、安心したのは自分の方だった。
それでもルナの緊張も少しは緩和されたようで、ルナはあたりを見渡した後、目を瞑って小さく深呼吸した。そして……目を開けた時には表情から恐怖が消えていた。
「申し訳ありません、ユージン陛下。このような場に不慣れな身でして、お見苦しい所をお見せいたしました。これより、説明させていただきます。」
そう言って、ルナが魔法を発動した……ルナしか使うことのできない、美しい言葉で。
目の前に広がっている世界はあまりにも美しく、とても現実とは思えなかった。
「まずはじめに、これはあくまでも私の魔法具が教えてくれる世界であると言うことをご了承ください。」
そう前置きをしてから、ルナは立ち上がりホールへと歩き出す。もう音楽を奏でる者もおらず、天井や壁いっぱいに広がる幻想的な世界に釘付けだった。
「この世界は、途方もなく広く、壮大な空間に浮かぶ、ひとつの球体です。」
そう告げるルナに、誰もが言葉を失った。ただの空間に、我々が暮らすことができるような大きな球体を浮かべたままにするなんてとてつもない魔力が必要であり、とても実現できるとは思えない。しかも球体に人が立つ場合、球体の側面や下にいる人間は常時飛行魔法を発動させなければならない。しかし、この国でも他国でも、それを行なっている、またはそれが可能な人間がいるなんて聞いたことがなかった。
「この球体は、常に動いています……ここに見える、大きな光を中心にして。」
そう言ってルナが指さしたのは、とても強く大きく……力強い光だった。見ているだけで力が溢れてくるような、不思議な感覚になる。
「これが、陽属性の皆様が魔法を使うために必要な太陽です。」
……これが、太陽!?
我々が暮らしているという球体よりも遥かに大きなその光は、いつも見上げている小さな光からは想像もつかない。天上に見えるため、実際はもっと大きいのだろうとは思っていたが、流石にこれは大きすぎて言葉を失う。
「そして、この優しく我々が暮らす球体を見守っている光が……月です。私が魔法を使う時に必要としているものです。」
これが……月?
太陽よりも、我々が暮らす球体よりももっと小さなものが、月?しかし、月も太陽も地上から見ると同じ大きさだ。こんなに大きさが異なるとは思えない。
「そして、この無数に煌めく光が……星です!」
両手を大きく広げて笑顔でそう言ったルナの話に……ついていけているものは誰もいなかった。
しかし、誰もがその美しい光景に見惚れ、言葉を失っている。
……だから、聞きたくなかったんだ。
いつも近くにいて、今も目の前にいるはずなのにどこか遠い。誰よりも理解したいと思うのに、理解できない。
そして……誰よりも美しい。
会場にいる誰もが、笑顔で無限に広がっているというその世界について語るルナから目が離せなかった。それは、隣にいる一国の国王すらも例外ではなく……
「……美しい。」
そう言って恍惚の笑みを浮かべながらルナを見つめるユージン陛下を見て……やっぱり呼ばなければよかったと、この視察を成功させなければならない立場でありながらそう思った。




