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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第三章
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裏方の仕事

 裏方の人が沢山いるのはどこだろう、と考えた結果、今日の視察には大量の軽食がでるみたいだし、食事の準備をしている厨房に行くことにした。

 厨房につくと、他の人に指示を飛ばしていた人が私を見つけるなり声をかけてきた。



「遅い!御令嬢方がら話を聞いていたのに全く来ないから逃げたのかと思っていたわ!はやく食器を洗ってちょうだい!」



「はいっ!すみません!」



 怒られたので、慌てて謝罪をしてから使用済みの食器や調理器具が山積みになっている洗い場に向かった。

 あまりの量に、前世のバイトを思い出した。まるで、もの凄く混んだため誰も洗い物をすることができなかったピーク後の居酒屋の洗い場のようだ……。そういう時は、頭の中でアイドルのライブ映像を無限リピートしながら行っている。さて、どのライブにしようか……



「ほら次!はやく洗ってくださる!?」



「はいっ!」



 なんて考え事をしていると、指示を飛ばしている人(メイド長らしい)から怒号が飛んできた。忙しくてピリピリしているのもあるけど、私が来るのが遅かったのが嫌だったらしい。

 どうやら私が裏方にまわることは朝のうちに伝えてあったみたいだけど、私は聞いていない。報連相がなっていないせいで、なんだか無駄に怒られている気がする。最初から決まっていたなら準備だってしっかりできたし制服に着替えることもなかったのに。



 不満を感じながらも、今更言ったところで目の前の洗い物の山が減るわけでもないので、ひたすら洗い物を進める。



 そうして厨房の調理が終わって、私の洗い物の山が終わる頃には、私の中であんなに衝撃的だったはずの、あの美しい人との邂逅はすっかり薄れてしまったのだった。





















「……なぜあなたがここにいるのですか?」



 視察パーティーが始まってからも、次々と食器が下げられてきて、私に休息の時は訪れない。立食式なので料理が無くなる前に補充する必要があり、調理している人たちも忙しそうだ。調理するたびに調理器具の洗い物も溜まっていく。……これ、ちゃんと賃金出るのかな……と不安になっていると、運営の状況を確認するために誰かが来る、と厨房が慌ただしくなってきた。

 厨房の慌ただしさに構わずにとにかく目の前の洗い物に気を取られていた私は、運営の責任者の人が来たことにも気がつかなかった。



「え?……あれ?ルイス様?」



 声をかけられたので顔を上げると、そこにいたのはルイス様だった。なるほど、責任者ってルイス様のことだったのか。確かにシーくんの側近だから責任者っていうのも納得だ。

 ルイス様自ら私にに話しかけたことに、厨房内は少しざわついた。なんであんな平民に話しかけているんだ、ってところだろう。



「どうして生徒であるあなたがメイドの仕事をしているのですか?生徒は全員視察に参加するはずでは……?」



「平民である私が学校の生徒であると知られたらよくないとのことで、視察が始まる数時間前にメイド服を渡されたんです。それで、裏方の仕事の人手も足りないみたいだったので、こっちに来ました。」



「……あなたはそれでいいのですか?」



「はい!こっちの方がお役に立てそうでしたし。……ただ、ちゃんと賃金がいただけるのかどうかだけ少し心配なんですけど。」



 そう言うと、ルイス様はため息をついて賃金支払いをメイド長さんと取り決めてくれた。メイド長さんは一瞬私を睨むように見てきたけどルイス様には逆らえなかったようだ。というか、支払わないつもりだったのか。それはよくない。労働基準法に……あ、ないんだったね。

 まぁいい、結果オーライだ。これでやる気も出てきた。いくらなんでもタダ働きはちょっと嫌だったし。



「……というか、これがシェイド様に知られたら大変なことになる気がするのですが……。」



 賃金についての取り決めを私に伝えた後、何かに気がついたようにルイス様は真っ青になりながら小声でそう言ってきた。



「大丈夫ですよ。私は私にできることをしているだけです。賃金も支払っていただけるみたいですし、不当な扱いをされているわけでもありません。適材適所っていうやつです。」



「……しかし、」



 そう言っても、ルイス様は不安そうにしている。そんなルイス様を見て一体何をやらかしているんだと言う目を向けられている私。会話の内容が聞こえていないせいで、有らぬ疑いをかけられている気がする……。

 それに、ただでさえも視察中で大変であろうルイス様に余計な心労をかけるのは良くない。なんとか安心してもらわなければ。



「必要ならば、視察が終わった後、私から王太子殿下にお話しします。ですからルイス様は、視察に集中してください。私は大丈夫です。」



 その言葉になんとか納得してくれたのか、ルイス様はメイド長の所へ戻って行った。何を話しているのかは分からないけど、深刻そうな顔をしているルイス様を見ていると、視察が上手くいっていないのかな……と心配になってくる。だって、あのシーくんがあれだけダメージを受けるほどの相手だ。一筋縄ではいかないだろう。



「では、指示通りに取り行ってくれ。また何が指示があれば来る。」



 ひと通りの指示は終わったのか、ルイス様が働いている人達を見渡しながらそう言った。厨房を出ようとしているルイス様を見ながら、このまま見送ったら視察がどうなっているのかもやもやしながら過ごすことになるのか……と考えた結果、声をかけることにした。もしかしたら、平民から声をかけるなんて不敬だ、と他のメイドさんや執事さんから言われてしまうかも知れないけど、まぁルイス様だから大丈夫だろう。



「あの!ルイス様!」



「はい?何です……何だ。」



 私の呼びかけに振り向いたルイス様は、いつも私に話しているように敬語で答えようとした。しかし、ここが他人の目がある場所だと気づいて、何事もなかったかのように敬語を無かったことにした。確かに、他の人に対して敬語を使ってなかったのに平民の私に敬語だったらおかしいけど、今の誤魔化し方は無理があるだろう……と思ったが、周りの人達は私が声をかけた、ということにしか意識が向いていないようで、気がついていないようだった。

……前から思ってたけど、この国の人たち嘘つくの下手すぎない?今の所、シーくん以外に誤魔化すことが上手い人に会ったことがない。あの狼狽え方も演技だったらある意味すごいけども……なんて、また考えが脱線しかけたが私は兄仕込みの演技力があったので顔には出さない。



「私は今、制服ではなくメイド服を着ています。しかしそれは、視察に参加することが嫌だったのではありません。私に出来ることは視察会場にはなく、ここにあると考えたからです。

この視察を成功させ、この国を戦火から守る。そのために、私に出来ることはなんでもする……その気持ちに変わりはありません。

ですからもしも、視察会場で私に出来ることがあるのならば、いつでもお呼びください。全力で、お力になります。」



 視察は気になるが、賃金が出る以上裏方に不満はない。でも、それが視察に参加することを怖がっているだとか、嫌がらせされたから参加できなかったとか……シーくんにそう思われるのは嫌だった。ただでさえパンクしそうになっているシーくんに、これ以上の負担をかけるわけにはいかない。



「……分かった。他の者も、自分の仕事を全うしてくれ。

頼んだぞ。」




 そんな私の思いが伝わったのかは分からないけど、ルイス様は私の言葉に頷いてくれた。さらに周りへのフォローも忘れないところを見ると、ルイス様も流石人の上に立つ人間だな、なんて思った。

 そしてルイス様がいなくなった後、何か言われるかと思っていたが周りの反応は意外なものだった。



「私たちも、国を守るために動いているのです!平民が偉そうに言わないでくださいまし!」



 と言われたが、その表情は笑みを隠しきれていなかった。他の人たちも、「頼まれたぞ。」「頑張りましょうね。」なんていいながら笑みを浮かべている。

 頼んだぞ、なんてそんな一言でやる気を出させてくれるルイス様がすごいのか、やる気が出るみんながすごいのかは分からないけど、相変わらずこの国の上の立場にいる人の影響力はすごい。

 理解できない……と思ったけど、確かに好きなアイドルにそう言われたら何でもやるかも知れない。なるほど、シーくんとルイス様はある意味この国のアイドルなのか。



 そう思うと、一緒に働いてる人たちのことを好きな相手は違えどある意味同士のように思ってしまったため、その後は何言われても笑顔で答えられるようになった。

















 そうして、私の視察における役割の遂行は順調であったと言えるだろう。

……ルイス様が、再びやってくるまでは。



「ルナ・ハリス。あなたの力が必要だ。今すぐに制服に着替えて講堂に来い。」



……必要ならば呼んでくれとは言ったけど、本当に呼ばれるとは思わなかった。









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