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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第三章
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改革の国王

 今日の私の仕事は、雑巾や布巾をひたすら縫うことだった。まだまだ磨かなければならないものも掃除しなければならない場所も沢山あるのに、雑巾も布巾も足りなくなりそうだからと、急遽縫うことになった。

 いらなくなった布、と聞いていたのに今世どころか前世でも見たことがないような綺麗な布に、なんだか複雑な気分になった。

……うん。もう、無心になってやろう。

 前世では家庭科の成績は悲惨だったけど、今世では布を継ぎ足しながら服を作ったりして凌いでいたので、針の扱いはもうプロと言っても過言ではないだろう。手元を見なくてもできるので、これ幸いにと、私は図書館でシュバイツオーケノア王国のことを調べながらひたすら針を動かしていた。



 シュバイツオーケノア王国。

神オーケノアの加護を受けた一族……現在の王家であるグレイスター家が1600年前に創った国。海に囲まれているシュバイツオーケノア王国は、グレイスター王家が納め繁栄してきた、戦争をしない国である。というのも、戦争をしても勝てない相手だからだ。シュバイツオーケノア王国の城には、現在も神オーケノアが住んでおり王家と共に行動している。過去にシュバイツオーケノア王国と戦争をした国は、例外なく負け、シュバイツオーケノア王国の領土となって国が地図から消えてしまった。それ以来、すべての国はシュバイツオーケノア王国に有利な形で和平条約を結ぶことで、平和を保っていた。なので、戦争をしない国……というよりも戦争をするまでもない国、という方が正しいだろう。




……なんというか、本当に恐ろしい国だな。

 この世界では、神という存在は実在するらしい。神がどれほどの力を持っているのか分からないけど、本当に神がいるとしたら……戦いにならないのも分かる。だって、種族が違う。熊と蟻が戦うようなものだろう。……蟻は蟻でも、グンタイアリなら勝てるかもしれないけど。



 戦争を避けたい、と言っていたシーくんの言葉が今本当の意味で理解できた。シーくんは、知っているのだ。神という存在がどれほどの力を持っているのかを……この国の誰よりも。

 でも、この国の人たちは戦争もやむなしといった考えを持っていた。多分、シーくんならなんとかなると思っているんだ。シーくんは、この国の誰よりも神の加護をもっていると言われているから、確かに強いんだろう。だから、シーくんなら勝てると思っている。

 でも、シーくんは戦争にならないように必死になってる。しかも、あんなに憔悴している所を見ると……シーくんは勝てない、もしくは勝てたとしても甚大な被害が出ると考えているんだろう。でも、それを表に出してしまえばこの国は一瞬でパニックになる。戦争になったって王太子殿下が何とかしてくれると思っている国民と、勝てないと考えているシーくん……



「……これは、胃に穴が開くわ。」



 私の部屋に来た時は、とにかくシーくんが休めるようにしよう。ベットでもなんでも使ってください……。



「……この本はここまで。今の国王について書いてあるのは……あ、この本か。」



 一番綺麗で新しそうな本を開くと、現在のシュバイツオーケノア王国の今の国王について書いてあった。



 ユージン・オーケノア・グレイスター、現在36歳。シュバイツオーケノア王国の、現国王。18人の側室がいるが、正室はいない。

 幼少期から頭脳明晰で魔力も高く、斬新な発想力で国を発展させてきた。神オーケノアにも気に入られ、王太子となってからはユージンの側にはいつも神オーケノアがいる。



「……え、情報これだけ?」



 まだ国王になったばかりということもあるが、そもそもこの図書館、自国の情報ばかりで他国の情報があまりない。参考にならない。

 こんな時こそインターネットの出番なのに、私のスマ本は前世の世界に繋がっているから、この世界のことを調べることはできない。



……その後も図書館中を探し回ったけど、結局私はそれ以上の情報を得ることはできなかった。

















「………………」



「………………」



 今日も、シーくんは夜遅くにやってきた。前回ベットで寝てしまったことを気にしているのか、床に倒れ込もうとしたため、慌ててベットに引っ張っていった。私の行動に、少し目を見開いたシーくんだったが、抵抗する力もないのか、されるがままベットに、倒れ込んでいった。



 飲むか分からないけど、とりあえず紅茶を入れてベットサイドテーブルに置く。椅子に座って紅茶を飲みながらシーくんを見ていると、無言で手招きされたので椅子ごとベットサイドに移動した。それなのに、シーくんは何も話そうとしなかったため……沈黙が流れる。でも、不思議と気まずい感じはしないのでそのまま紅茶を飲んでいると、シーくんがこっちを向いた。



「……明日だ。」



「うん、そうだね。」



「……何も、分からなかった。」



「……そっか。」



 私も、何も分からなかった。一日中調べても、分かったのは国王の名前と神の名前ぐらい。そんな、この国の貴族なら誰でも知っているような情報しか知ることが出来なかった。もっとこう、どんな人なのか、とか何が好きなのか、とか……ん?まてよ……



「あ!!ねぇ、シーくん。話せる範囲でいいからさ、どんな人なのか教えて!!」



「は?」



「シュバイツオーケノア王国の国王様のこと!外見とか、話し方とか、趣味嗜好とか、何でもいいから知りたいの!」



「……知ってどうする。」



 シーくんは不満そうにそう尋ねてきたけど、私はやっと見つけた新たな情報源に心躍っており、何とか話を聞きたいと思った。



「シュバイツオーケノア王国のこと、図書館で調べてもよく分からなかったの。国王様がどんな人なのか分からなくて、私も明日の視察への心構えができなかった。でも、シーくんからどんな人なのか知れば、少しは明日への心構えができる気がする……んだけど、」



 そこまで言ってから、そもそもシーくんはシュバイツオーケノア王国のことでストレス抱えすぎてこの状態になっているのだということを思い出した。……思い出したくもないかも知れないのに、ちょっと先走りすぎたかもしれない。



「あ、その、言いたくなかったらいいんだけどね……でも、人に話すことで新たな発見があったりするし!!」



「……なるほど。確かにルナなら、新しい視点からの意見も聞けるかもしれない。聞いてくれるか?」



「!!……うん!まぁ、あの、ご期待に添えるかはわからないんだけど……」



 有益な意見が言える自信はないけど、人に話すだけでなんか軽くなることってあると思う。とりあえず話は一生懸命聞こうとシーくんを真っ直ぐ見つめると、シーくんも起き上がってベットの端に座った。



「まず、シュバイツオーケノア王国の国王の名前は知っているか?」



「うん、それは調べたよ。確か、ユージン・オーケノア・グレイスター様。神様の名前はオーケノア様、だよね?」



「ああ、そうだ。ユージン陛下とは、幼少期から交流があった。顔は……まぁ、いいだろう。饒舌な人ではないが、他の人が思い付かないような改革をいくつも打ち出していた。そうして国を発展させた有能な人だ。突拍子がないように見えて、ユージン殿下の行動には理由があった。だから今回も、何か理由があるはずなんだ。」



「なるほど……」



 名前と年齢、妻の数しか知らなかった相手が、少しずつ見えてきた。外見はなんか濁されたけど、今は重要ではないということだろう。



「その、改革って例えばどんなことなの?」



 人が思い付かないような改革、というのが何なのか気になって尋ねた。もしかしたら、何かの参考になるかもしれない。



「そうだな……一番大きな改革が、社会保障制度と呼ばれるものだ。」



「………え?」



……社会保障制度。私はそれを、よく知っている。でも、この世界で聞くはずがないと思っていたもの。だってそれは、前世の……



「働いた賃金の一部を国が回収し、それを医療や教育のための資金にすると初めに言い出した時は国内外に衝撃が走った。特に、シュバイツオーケノア王国の国民からは反発もあったらしい。神がついている王家に反発するとはよほどのことだが、それほどに受け入れ難いものだった。誰もが、上手くいくはずがないと思っていた。」



「そ……れで、どうなったの?」



「予想外なほどに、上手く行った。今まで医療や教育を受けられなかった貧困層も医療や教育を受けられるようになった。医療や教育に不便を感じておらず、制度が必要ないと考えていた貴族からの不満の声も消えていった。賃金の一部は回収されるが、医療費や教育費が掛からなくなったため、自由に使える資金はむしろ増えたからだ。今まで医療費や教育費というのはとても莫大な金が必要だったのに、それが大幅に減額されたわけだからな。」



「………」



「どうした?あまりに荒唐無稽な改革で驚いたか?」



「……うん……びっくり……した、」



……同じだ。社会保障制度の内容も、日本とほぼ同じ。偶然……なはずはない。



「だが、結果的にこの政策は成功した。今や世界一の経済大国だ。戦力だけじゃない。戦略でも、俺はユージン陛下に勝てる気がしない。」



 その後もシーくんは、ユージン陛下の政策について話してくれたけど、そのどれもが聞き覚えのあるものだった。私は前世でもあまり政治に詳しくはなかったけど、そんな私でも知っているものばかりだった。社会保障制度、医療を提供する者の国家資格制度化、労働基準法、児童保護法……など、どれもよく知っている。



 もしかして、ユージン陛下も前世は日本人だった?



……ありえない、とは言い切れない。そもそも、どうして私がこの世界に記憶を持って生まれてきたのかが分からないんだ。分からない以上、私以外に記憶を持った転生者がいる可能性だって、十分にある。むしろ、他にも転生者がいたほうが、この世界には定期的に転生者が生まれるのだということで納得できる。



……でも、それならなんで戦争をしようとしているの?



 今までの改革は、どれも国を良くしようとした結果なのだと思う。でも、和平条約を解消して戦争を起こして、国が豊かになるとは思えない。



 知りたい、できればシーくんの不安を少しでも軽くするように話を聞きたい……そう思っていたのに、私は何も言うことができなかった。

 話しながら疲れて寝てしまったシーくんを見て、掛け布団をかけてあげよう、と思ったのに、私は椅子から立ち上がることができなかった。






……視察は、明日だ。心構えは、まだできていない。


















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