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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第三章
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分からない

「え?視察って、普段の生活を見に来るんじゃないの?」



 一週間後という急な視察に備えて、学校中がその準備に追われている。ただ、その準備というのがホールを飾りつけたり楽器の練習をしたり食事のメニューを考えたりと……なんか、私が思ってる視察と違う気がする。授業参観みたいに普段の授業風景とかを見に来るんだと思っていたが、そうではないらしい。



「国内での視察ならそうなんだけど、今回来るのはあくまでも他国の使者だから。国の重要教育機関であるこのエリュシオン魔法学校の様子をそのまま公開するわけにはいかないの。だから実際は、視察というか舞踏会に近いかもしれないわね。」



「なるほど……」



 視察……もとい舞踏会で使用するホールのテーブルや椅子をひとつひとつ磨き上げながら、私は納得したように頷いた。というか、私とティアは完全にただの雑用係と化している。ホールの掃除から始まり、飾り付けに使う物資の調達。今はテーブルと椅子を磨き、その後は廊下や玄関の掃除も残っている。……おかしくない?私たちだけ掃除の割り振り場所広すぎない?しかも、他の人は掃除しないくせにやれ埃が残ってるだの、まだ磨き足りないだの……。

 でも、この視察の結果次第でこの国の未来が決まるんだから、文句なんて言っていられない。戦争を止められるのなら、なんだってやる。それに、私たちに文句を言っている他の生徒や先生たちも余裕がなく、文句と言うようよりも、焦りから来る苛立ちをぶつけているようだった。そんな中で、シーくん……王太子殿下だけが、落ち着いた様子で周りに指示を出していた。



「……凄いな……王太子殿下って。」



 よし!私も私に出来ることをやろう!気合を入れ直して、私は再びテーブルと椅子を磨いていった。



















「……なんなんだ、あいつは。」



「えっと、お疲れさま。どうしたの?あいつ?」



 今日も夜遅くにやってきたシーくんは、何も言わずに勝手に私のベットに突っ伏した。その姿に、昼間学校で見た王太子殿下の面影はない。

 シーくんは視察に向けた学園側の準備だけではなく、シュバイツオーケノア王国側との視察についての調整も行っている。今日も、午後からシーくんとルイス様は校内に居なかったので、多分そっちの方に行っていたんだと思う。……私だったらキャパオーバーを起こして熱出しそうだ。

 だから、疲れた様子を見せてくれるシーくんに、少し安心した。ずっと肩に力を入れていたら、どこかで限界が来てしまう。私の部屋でなら肩の力を抜けるというのなら、夜中でも早朝でもいつでも来てくれていい。私は寝てるかもしれないけど、起きてたら紅茶くらいは入れてあげよう。



「……分からないんだ。」



「分からない?」



「シュバイツオーケノア王国が、何を求めているのかが。」



 紅茶を入れて、ベットサイドテーブルに置く。今日は椅子に座る元気もなさそうだし、このままベットに寝たまま話すなら、と私もベットの隣に椅子を置いて座った。

 紅茶を置くと、少しだけ顔をこっちに向けたけど、相変わらず起き上がる気配はない。



「シュバイツオーケノア王国の現国王は、狡猾な人間だ。意味のないことはしない。おそらく今回の視察にも目的があるはずなんだ。なのに、それが分からない。」



「目的……」



「そうだ。相手が何を求めているのかが分かれば、交渉は可能だ。交渉が失敗したとしても、得るものはある。しかし、今回はそれが全く見えてこない。このままでは、視察を行っても相手に取られるばかりで、こちらは何も得られないまま終わってしまう。」



 私は政治とかそういうのは全く分からない。だけど確かに、相手が何をしたいのか分からないままというのは怖い気がする。



「そもそも、何でこの学校を視察したいんだろうね。私、視察って授業風景とか見るのかと思ってたから、相手の教育内容とか学力水準とか見たいのかと思ってたけど、視察が舞踏会みたいなものならその可能性は低そうだしね。」



「ああ。俺もそう思って、何度も確認したんだ。エリュシオン王立魔法学校は国内最高峰の教育機関だ。視察といっても授業風景や校舎の全容を見せることはできないと。できたとしても、舞踏会のような形でしか招き入れられないと言ったんだが……それでもいいから、視察したいと。それができないのなら今すぐ攻撃を仕掛けて学校を占拠するとまで言われてな……」



「え!?怖っ!!なんでそんなに学校にこだわってるの?!」



「だから、それが分からないんだよ……」



 そう言って、シーくんは再びベットに突っ伏してしまった。……本当に参っているらしい。

 でも、何て声をかけていいか分からなくて……咄嗟に、シーくんの頭を撫でた……うわ、髪さらっさらだな。私は疲れたり落ち込んだりした時、お兄ちゃんにこうされると安心してよく眠れたから……と思って咄嗟にやってしまったけど、人に頭触られるの嫌な人もいるかもしれない。拒否されたらやめよう。

 でも、シーくんは嫌がる素振りもなく、ただされるがままになっていた。嫌じゃないのか、それとも疲れすぎて抵抗する気力もないのか……どっちだ。悩みながらもひたすら頭を撫でていると……しばらくして寝息が聞こえてきた。え?寝た?



「……シーくん?」



 返事がない。どうやら本当に寝てしまったようだ。



「……お疲れさまです。」



 シーくんに掛け布団をかけて、私はベットサイドの電気を消した。今日はお疲れのシーくんにベットを譲って、私は適当に床にタオルでも敷いて寝よう。前世でもよく友達と雑魚寝してたし、村にいた時はタオルすら敷かずに床で寝ていたから何の問題もない。



……それにしても、ここまで疲れているシーくんは初めて見た。

 いくら頭が良くても、魔法が強くても、しっかりしていても、まだ10代の男の子だ。そんな男の子の肩に生徒や教師全員の……しいては国民の命がかかっているなんて、重すぎる。しかも、相手は全く予想外の要求をしてきて、飲めないのなら即攻撃とかわけわかんないことを言っている。

 せめて相手の狙いが分かれば、対策を立てることが出来るのに、それさえも分からないからどうにもならない。それでも、周りを不安にさせないようにと人前では笑顔で……うん、これ胃に穴が開くわ。



 せめて、私に出来ることはないのかと考えて……そもそも、私は相手のことを何も知らないのだということを思い出した。シュバイツオーケノア王国という国名と、最近新しい国王が即位したこと、いきなり条約を破棄したことしか知らない。



……明日、時間があったら調べてみよう。



 そう決意すると、私はタオルを床に敷き、寝転んだ。掛け布団代わりにローブを掛ければ、とても快適な寝床の出来上がりだ。昼間の掃除やテーブルと椅子磨きで疲れていたのか、すぐにやってきた睡魔に逆らうことなく、私は目を閉じた。











 翌朝目が覚めると、私はベットで寝ていた。ベットにシーくんの姿はなかったので、部屋に戻ったらしい。部屋に戻る前に、床で寝ていた私をベットに運んでくれたのか。別に私は床でも何でもよかったのに、疲れている中運ばせてしまって申し訳なかったな。



「……ん?」



 着替えて朝食に向かわなければと起き上がると、昨日ベットサイドテーブルの上に置きっぱなしになっていたカップが無くなっていた。その代わりに、メモが置いてあった。書くことは未だに苦手だけど、読むことなら難しい言葉以外は分かるので、眠い目を擦りながらもメモを読む。



[ルナへ

昨晩はベットを使ってしまってすまなかった。言い訳になってしまうが、昨日はとても疲れていてルナの顔を見た途端気が緩んでしまい、思わずベットに横になってしまった。それでも、すぐに帰るつもりだったのだが、ルナに撫でられて安心して眠ってしまった。本当にすまない。

だが、ルナも床で寝るな。身体が休まらないだろう。ベットを使ってしまったことに関しては完全に俺の落ち度だ。次はないようにするが、ここはお前の部屋なのだからもしも次も俺が同じことをしてしまったら、ベットから俺を蹴り落としてでもお前がベットで寝ろ。俺は、一緒にベットで寝てもよかったんだがな。]



……うん、蹴り落とさないし、流石の私も自分のこと好きって言ってくる人と同じベットでは寝ないとか、色々言いたいことはあるけども、



「……頭撫でたの、嫌がられてなかったのはよかった。」



 あ。あと、カップ片付けてくれてありがとう。









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