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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第二章
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初めての友達〜Sideティア〜

 貴族から孤立している、といっても、男爵家である以上出席しなければならないパーティーや式典は存在する。その度に、私たちネット男爵家は冷ややかな視線と嫌がらせ、隠すつもりすらない中傷に晒されてきた。その度に私は、俯いて、縮こまって、泣いて……それしか、出来なかった。

 でも、言い返すことなんてできない。全部本当のことだから。私たちは平民の血が混ざった、もう貴族とも呼べないような存在。仕方がないと諦めて、泣いて、ベッドにこもることしかできなかった。ずっと、貴族の世界では自分の存在を隠すように、縮こまって生きてきた。



 そんなふうに生きるしかない自分が、大嫌いだった。









 だからルナ・ハリスを見たときは、思わず言葉を失った。

 平民で、奴隷具に見えるような魔法具をつけながらエリュシオン魔法学校に通っているから、私がパーティーで言われているよりも酷いことを言われて、酷いことをされている。

 それなのに、魔法具を隠すこともなく、どんなことを言われても臆することなく前を向いている。どんな扱いを受けても、泣くことなく……ううん、それどころか、真っ直ぐ背筋を伸ばしなから笑っている。



……どうして、笑っているの?どうして、そんな風に、真っ直ぐ前を向いていられるの?どうして、私を庇ってくれたの?



 分からない。分からないけど……私は、確かにルナ・ハリスに助けられた。お礼を言って、それから謝罪をして……ううん、謝罪をしたって、許されることではない。本来ならば、私が受けるはずの傷を全て押し付けておきながら、怖くてただ悲鳴を堪えて泣くことしかできなかったのだから。

 それでも、お礼だけは言いたい。夕食の時間になったら、きっと食堂に来る。その時に、話しかけて、お礼と謝罪をして……と、放課後は何度もシミュレーションしたけど……その日、どんなに待ってもルナ・ハリスが食堂に現れることはなかった。












「どう思う?あの奴隷、来ると思う?」



「いや、絶対来ないでしょ。昨日はかなりやられてたもんな。」



「そういえば、昨日の夕食も今日の朝食もいなかったよな。もう寮にすらいないんじゃないか?」



「このまま学校辞めてくれないかしら。学校の品位が下がるし、同じ空気を吸いたくないわ。」



 次の日、朝食の席にもルナ・ハリスは現れなかった。……やっぱり、あんな目にあったのにここに来られるわけがない。……仕方がないんだ。ここに、平民や貴族のなり損ないの居場所なんてない。



「ということは、今日の魔法薬学の授業は実験台なし?」



「いるじゃない。平民の血が混じった……田舎貴族が。」



「っ!!」



 次はお前だ、と言わんばかりの視線に、スカートを握りしめて震える。……怖い。やっぱり私は、このまま背中を丸めて縮こまっているしか出来ない。



「おはようございます。」



「……え?」



 ドアの方から声がして、そちらを見ると……昨日と同じ、笑顔のルナ・ハリスがいた。まるで、昨日の出来事なんてなかったかのように教室に入ってきて、私の後ろの席に座る。あまりに変わらないその態度に、私は言葉を失っていたけど……すぐに我に帰った。

 昨日、決めたじゃない!まずは、あいさつをして、それからお礼と謝罪を言う!この教室で自分から言葉を発することはとても怖かったけど、せめてこれだけは言わなければとスカートを握りしめたまま後ろを向いた。



「あ、あの、おはよう。」



 返事が、帰ってくるとは限らない。怒っているかもしれない。それでも、返事がなくても言わなければと自分を奮い立たせてあいさつをした。



「……?え、おはようっ!……あっ、ございますっ!」



 私が声をかけたことで、驚かせてしまったみたいだけど、その表情に怒りや嫌悪はない。それだけで、少し緊張が和らいだ。



「私、ティア・ネットといいます。あの、昨日は本当に、ありがとうございました!」



 そう言って、頭を下げる。このまま、謝罪を……と思って口を開きかけた時、先に言葉を発したのはルナ・ハリスの方だった。



「あ、私はルナ・ハリスです。え?昨日?なんかありました?」



「……え?」



 その言葉に驚いて、思わず下げていた頭を上げてルナ・ハリスを見た。はぐらかされているのかと思ったけど、思い出そうとしてるけど本当に分からない、といった様子だ。信じられないけど……ルナ・ハリスにとって、あの行動はお礼や謝罪を言われるようなことじゃないんだ。昨日は、私が一応貴族だから庇ってくれたのかとも考えていたけど、今までの会話からそれはないことも分かった。あれだけのことを、損得感情なしにやってのけたなんて……

 


「……ふふっ。なるほど、分かりました。」



 かっこよすぎて、思わず笑ってしまった私に、ますます分からないと言った表情をしているルナ・ハリスを見て、私は右手を差し出した。



「……私と、お友達になってくれますか?」



……ずっと、憧れていた言葉。貴族からは、こんな田舎貴族とは話すらしたくないと敬遠され、街の人たちは優しかったけど恐れ多いと誰も対等にな立場には来てくれなかった。貴族でありながら貴族ではない私は、ずっとひとりぼっちだった。

……ううん。私とお友達になってくれる人なんていないと、自分で殻に閉じこもっていた。それしか、自分を守る術を知らなかった。



「え!わ、私とですか?」



「はい。……だめですか?」



 そんな私が、初めて行動した。断られるかもしれない。でも、この人をもっと知りたい。仲良くなりたいと思った。



「私でよければ、お願いします!」



 そう言って握られた手を見て……泣きそうになった。いつもの悲しい涙とは違う、嬉しい涙。














 今度こそ力になりたい、と思って望んだ魔法薬学の授業だったけど、結局私は守られるばかりで何もできなかった。それなのに、ルナは全て自分で何とかしてしまった。

 昨日受けた傷も、これから受けるはずだった傷も、対属性魔法の刑も、王太子殿下との拝謁だって、全て自分で切り抜けていった。



……涙ひとつこぼさず、真っ直ぐ笑顔で前を見ながら。



 本当に、凄いと思った。

 こんな風に真っ直ぐ立てるようになりたい。身分なんて関係なく、自分は自分だと胸を張れるようになりたい。泣いてばかりではなくて、誰かを助けられるような人になりたい。








 私は、あなたの友達なのだと胸を張って言えるような人になりたい。









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