出会い〜Sideティア〜
私、ティア・ネットが生まれたのは、貧乏ながらも小さな町を収めるネット男爵家だ。ネット男爵家は、一応貴族を名乗ってはいるが、貴族としての力はとても弱い。その理由は、200年前の戦争にある。当時の戦争では、多くの奴隷が戦地に送られたが奴隷が全く使い物にならず、貴族の第2子以降の者が多く戦争に駆り出され、多くの者が戦死した。そのため、男爵家のような下位の貴族は後継者のパートナーを貴族から見つけることができず、平民に子供を産ませたことがある。その時に平民の血が混ざったことによって、ネット男爵家は貴族から孤立していった。
ネット男爵家があるのは、王都から遠く離れた場所にある、緑の多い自然あふれる町。ネット男爵家は、貴族といえども貴族としての力はほとんどなく、王都のパーティーやお茶会にはほとんど呼ばれない。そんな田舎町で、お金もなく娯楽もない中育った私が唯一見つけた楽しみが、薬草の観察だった。
「ティア。またここにいたのか。」
「お兄さま!見てください、ついにアイルの大量生産に成功しました!」
最初はただ観察しているだけだったが、次第に栽培、調合にも興味が湧いてきて、今では特別に作ってもらった薬草園と調合室を行き来する毎日だった。
ここの領地の人たちは本当にいい人たちばかりで、お金のない私たち家族のために無償で家を直してくれたり(調合室を作ってくれたのも街の人だ。)、食料を分けてくれたりした。自分たちも十分な食事が取れていないにも関わらず、私たちにたくさんのものをくれた。私も何かできないかと考え、魔法薬の調合をするようになった。
初めは無償で渡していたが、それでは街全体には行き渡らないと気づき、安く流通させるにはどうしたらいいのか考えた。栽培方法を変えたり、調合を変えたり……いろいろやった結果、私の領地では安価で薬が手に入るようになった。他の領地の人も買いに来るほどになり、領地にも活気が出てきたと街の人からまたお礼を言われた。
そんな毎日を過ごしていて、私ももうすぐ12歳になる。12歳になったら魔法学校に通うことが貴族の義務のようなものなので行かないわけにはいかない。学校で魔法薬学のについて学ぶのも楽しみだし、私は近くにある魔法学校に通いながら薬草園と調合室を行き来する毎日を送るつもりだった。
「ティア……エリュシオン魔法学校に行かないか?」
「……え?」
だから、最初は何を言われているのかが分からなかった。
「ティアの魔法薬学の才能は素晴らしいものだ。その才能を、こんな田舎の男爵家なんかで埋もれさせるのは惜しい。それに、近くの魔法学校では、ティアのその知識量にかなう教師はいないんだ。」
「……はい、分かりました。」
本当は、行きたくはなかった。でも、お兄さまが決めたことに第2子である私が逆らうわけには行かない。こうして、入学試験に合格してしまった私は、エリュシオン魔法学校に通うことになってしまった。
「ティア・ネットと、も、申します。ネット男爵家の、長女、第二子です。よろしく、お願いいたします。」
「え、男爵家?」
「この学校に伯爵よりも下のものが入学してきたってこと?」
「しかもネット男爵家って、あの田舎の貧乏貴族だろ?」
「やだ……学園の品位がさがるわ……」
国内最高峰の魔法学校であるエリュシオン魔法学校。貴族の中でもひと握りの人しか通えないというその学校に、田舎貴族の男爵家の第2子が通う。自己紹介をしても、周りの反応は冷ややかだ。そんな視線に耐えきれなくて、自然と涙が出そうになっていた時……後ろから大きな拍手が聞こえた。
思わず振り返ると、そこにいたのは奴隷具をつけた黒髪の女の子だった。
「(え……、奴隷?)」
「ちょっと、男爵家の後ろに座っている子がいるわよ。」
「ネット男爵家より下って……」
「しかも、あの耳についているのって……どこかの奴隷ってこと?」
「あの子って、寮で噂になってた奴隷の……?」
クラス中の冷ややかな視線が、私からその女の子に移ったことに気がつき、私は慌てて席に座った。黒髪の女の子は、そんな視線をものともせずに立ち上がった。
「(……笑ってる。)」
「ルナ・ハリスと申します。この耳飾りは、魔法具召喚の儀によってクロス様から頂いた魔法具ですので、私は誰の奴隷でもありません。……ガラク村出身の、ハリス家の長女、第一子です。よろしくお願いいたします。」
そう言って、貴族の礼とは違う……とても綺麗な礼をした。思わず見とれていると、その子と目が合い微笑みを向けられた。なんとなく、目を合わせていることができなくて、思わず視線を逸らしてしまった。
それが、私とルナとの出会いだった。
それは、魔法薬学の授業中での出来事だった。
「……なので、調合には十分気をつけてください。では、ルナ・ハリス前へ。」
「……?はい。」
魔法薬学での授業中。1番初めの講義は、基本中の基本である切り傷や擦り傷などの軽度の外傷を治す薬の調合だった。この調合は、基本中の基本ではあるが、聖水の温度を誤ると皮膚が爛れる毒薬になってしまう。
「……ほら、このように。」
「……っい!」
「……っ!!」
ルナ・ハリスを呼んだ先生は、その毒薬をルナ・ハリスの腕にかけた。思わず悲鳴をあげそうになったけど、周りが楽しそうに笑っているのを見て、思わず口を押さえて耐える。
その後も、さまざまな失敗作や危険な薬草の実験台にされているルナ・ハリスを見て、私は口を押さえて悲鳴を堪えることしか出来なかった。
「さて……そろそろ限界か。では、次の薬草を……」
そう言って、先生はこちらを見た。……目が合う。次は、私だ。
それに気がついた瞬間、震えが止まらなくなって、思わず涙が溢れた。立ち上がることもできなくて、震えている私を連れて来ようとしているのか、先生が歩き出そうとして……止まった。
「……え?」
「……どこにいくのですか?」
「……っルナ・ハリス!無礼だぞ!手を離せ!」
「次があるのでしょう?さぁ、どうぞ?」
「(また、笑ってる……)」
そのままルナ・ハリスを実験台にした授業は続き、私が実験台にされることはなかった。
……ごめんなさい。何もできなくてごめんなさい。泣いてることしかできなくてごめんなさい。
ルナ・ハリスは、何度も痛みに顔を歪めながらも……それでも、一度も、涙を流すことはなかった。




