対属性魔法
「ルナ・ハリス!一体何をした!?今は昼だぞ!月がない状態で魔法を使うなど……ましてやあんな防御魔法……!そうか、それはお前の魔法ではないな……。記録魔法石をどこから盗んできた!?」
私は、混乱している教師を一瞥し、その後教室の中を改めて見渡す。全員が、睨むように私を見ているけど……さっきの防御魔法が怖いのか、誰も危害を加えようとはしていない。というか、記録魔法石ってなんだ。
「………あ、えっと…」
思いつかない……そんなすぐにいい感じの言い訳なんて思いつかないよ……せめて防御魔法かけたこと事前に言ってくれたらもっと対策立てられたのに!私のアドリブ能力はそんなに高くない!
睨むような視線に耐えられなくなった私は、とりあえず笑うことにした。ごまかす時も笑っとけば何とかなるってお兄ちゃんも言ってたし。
「な……なんだその顔は!いいか!平民の分際で授業を妨害した罪は大きい!しかも記録魔法石の窃盗は重罪だ!今すぐ魔法場に来なさい!」
………なんとかならなかったらしい。
「あの、魔法場って一体何を……」
「ルナ・ハリスを対属性魔法の刑に処する!」
先生の言葉に、クラスの人たちがざわつく。
「対属性魔法の刑……!この学園では初めてじゃないか?」
「平民なら仕方ないわよね。」
「そうよ。平民の分際で授業を防御したんだもの。」
「僕、実際見るのは初めてなんだよな。」
「私、見たことあるけどかなり過酷だったわよ。しかも、夜までまだまだ時間がある。」
「これで、平民との学園生活がやっと終わるのね。」
……不穏だ。刑っていうからには、何かされるのは分かるけど、生きて帰れるのかってレベルなの?というか、なんで身を守っただけで刑に処されなきゃいけないんだ……。
前の世界なら、こっちが訴えれば間違いなく勝つ案件なのに!
対属性魔法の刑。
それは、退学処分や停学処分が存在しない魔法学校で、唯一の罰則。いわゆる貼り付けの刑のようなものらしい。ある条件を満たすまで魔法場の真ん中で魔法具によって拘束される。その様子をよってたかって見物するという……悪趣味なものだ。いっそのこと停学とかのほうが……いや、そうなったらまた勉強が遅れてしまう。
その解放条件というのは魔法の発動らしい。魔法なら何でもいいそうなので、この前習ったばかりの基礎魔法で大丈夫だ。これなら少しの間だけの拘束でいける、と思ってた。
しかし、この対属性魔法というのがミソなのだ。あえて、魔法が使えない状況に持ってくるのが、この刑の嫌な所。花属性ならば花が咲いていない場所、星や月属性ならば昼間、陽属性なら太陽が出ていない夜……と行った具合に、属性の魔法元素がない状況で拘束を行うらしい。
今は昼で、私の属性は月。ということは……月がでる時間になるまで、私は魔法を発動できないということだ。
そして、自らの属性の魔法元素が現れるのを待っていると、お腹もすくし喉も乾くし、トイレに行きたくもなる。それなのに拘束され続けるというのは……とてつもなく恐ろしい刑だ。
この、尊厳を無視した刑は今まであまり使われて来なかったらしい。そりゃそうだ。貴族第一主義のこの世界において、貴族にそんな扱いはできないだろう。
今までこの刑が行われたのは、貴族のなかでも下の、男爵家の一部と平民のみ。ひとりの例外もなく全員が学校を辞めて行ったと……ご丁寧に私を魔法場まで連れて来た先生が教えてくれた。
恐怖心を煽るためだったのかもしれないけど、何も知らずに連れて行かれるよりも何倍もよかったので、教えてくれてよかった。ありがたくはないけど。
魔法場に着くと、この学園初の対属性魔法の刑を一目見ようと沢山のひとが集まっていた。いや、大人しく授業しててよ。
……どうして、こうなんだろう。せっかくシーくんが守ってくれたのに、また新たな壁にぶち当たる。どうして、私はここまでされなきゃいけないんだろう。……もういっそ、こんな所辞めてしまいたい、という思いが湧き上がる。
……日本に帰りたい。
でも、それは出来ないから。せめてこれから生きて行かなきゃいけないこの世界が、少しでも平民にとって……私にとって住みやすい世界になればと思ってここまで来た。でも、何かを変えるということは、こんなにも難しいものなのか。
拘束用の魔法具がある所まで歩いていると……魔法具の横にシーくん(とルイス様)がいた。
思わず名前を呼んでしまいそうになるけど、ぐっと堪える。クラスメイトですら、こっちから声をかけると不敬だと言われてしまうんだ。こんな大観衆の中、声をかけるわけにはいかない。
「……これは一体、どういうことですか?」
「王太子殿下。今からこの平民を、対属性魔法の刑に処する所です。この平民は月属性ですので、まだ太陽が登っている今のうちに始めなければなりません。」
「対属性魔法の刑……。一体、彼女が何をしたのですか。」
「恐れながら、王太子殿下のお耳に入れるようなことではありませんが……身の程を弁えず、授業の妨害を行なったのですよ。しかも、記録魔法石を盗んでまで。」
その説明だけで、何があったのか察したシーくんは……反射的に魔法を発動させようと魔法具である杖を出した。それを、ルイス様が慌ててとめる。ねぇ、記録魔法石って何。
「……ルイス。」
「シェイド様。我々は下がって見物いたしましょう。」
王太子の仮面が剥がれそうになっているシーくんを、必死で止めるルイス様。この光景も、なんだか見慣れたものになって来ているなぁ、なんて考えていると、少し落ち着いてきた。
「王族の方々のように、どんな状況下でも魔法が使えるわけではないので、この刑は有効なのです。月がない今、この平民に反撃の術はないのでご安心を。今は記録魔法石を持っていないことも確認いたしました。あのひとつだけだったのでしょうね。」
……だから、記録魔法石って何。誰か説明してくれ……という思いでシーくんとルイス様を見ると、察してくれたらしいシーくんが説明してくれた。さすがシーくん!頼りになる!
「記録魔法石というと、自らの魔力と術式を込めた魔法石のことですよね?それを使えば、魔力がなくても魔法石を発動させるだけで込めた術式を発動できる……他者に委ねることもできるとか。しかし、記録魔法石の原石は数年にひとつ発掘されるかどうか。そんな希少なもの、この平民が入手できるとは思えませんが。」
……なるほど、その盗んだ魔法石を使ってさっきの魔法を発動させたと思われているのか。というか、記録魔法石を使わなくても他人に術式委ねられるシーくんすごくない?
疑問が解決したところで、これからどうするか……。いい感じにごまかしてくれるように、シーくんに助けを求めるか……。
「だからこそ、盗んだのでしょう。平民というものは本当に意地汚い生き物ですね。しかし、記録魔法石もなく、月が存在しない今、月属性の平民に成す術などありませんよ。」
ルイス様の手を振り切って、今度こそ魔法を発動させようとしたシーくんだったが、私の顔を見るなり手を止めた。
……ずっと引っかかっていたことがある。魔法の属性について説明を受けた時から。
私は月属性なのだから、夜しか魔法は使えないはずだ。それなのに、私は昼夜問わずスマ本を使っていた。魔法具は特別なのかと思っていたけど、クラスの人たちが魔法具を使っているところを一度も見たことがない。
(「どれだけ基礎魔法の知識があるか、それを応用する知識があるか、それを形にする想像力があるか、それが魔法を使う上で重要なことです。」)
どれだけ知識があるか、想像力があるか……。私には、魔法の知識なんてなにもない。でも、私には前世の知識がある。魔法がないかわりに、科学が発達した世界の知識が。
「……ルイス。我々は下がっていましょう。」
ルイス様は、急にシーくんが大人しくなって困惑しているが、シーくんに連れられて下がっていった。シーくんの口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。
……きっと、私も同じ顔をしていると思う。
だって、見つけてしまった。対属性魔法の刑の……攻略法を。




