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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第二章
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寮の部屋で

「ただいま……」



 ようやく授業を終えて、寮の部屋に戻ってきた。ただいまを言うのは前世からの癖なので、誰もいないと分かっていてもつい言ってしまう。当然返事は帰ってこない……



「おかえり。」



「……ん?」



……はずだったのに、なぜか返事が返ってきた。

びっくりして部屋の中を見ると、何故かシーくんがいた。しかも、人の部屋のイスに優雅に座り、お茶を飲んでいる。

……うん、絵になる。でも、何この状況。その高そうな茶器どっから持ってきたの。



「え、なんで私の部屋にいるの?女子寮って男の子入れないでしょ?」



 たしか、女子寮の入り口には結界魔法がかかっていて、部外者と男子は誰であろうと入れないようになっている、と説明された。男子寮にも、同様の魔法がかかっていると聞いたし、家族でも入れない強固な結界魔法だって聞いたけど……



「出入りするのに決まったルートなんて必要ない。」



「ん???」



 どういうことなのか分からず、はてなが浮かぶ。全く答えになってないのに、質問には答えた、と言わんばかりの態度のシーくんに、私は再度質問する。



「他に抜け道でもあるの?それとも王太子権限で顔パス?」



「違う。」



 とりあえず思いつく限りの出入り方法を言ってみたけど、ひとことでばっさり切られた。

……というかそもそも、寮に入れたとしても部屋には鍵がかかっている。



「え、じゃあどうやって入ってきたの?」



「魔法だ。一瞬で移動できる。」



「ああ、なるほど!すごいね、魔法って!」



 前世では、遅刻しそうになったり疲れている時、何度も瞬間移動したいって思ってた。実現しなかった夢のひとつを、目の前の人が実現したんだと思うと胸が躍る。

 しかし、よく考えると胸躍らせてる場合ではない。私は今不法侵入されている。相手がシーくんだったからよかったものの、他の人だったら通報案件だ。あ、でも相手が貴族だった場合泣き寝入りで終わるんだろうな、この世界の場合。いや、そんな時こそシーくんの出番……いや、そのシーくんが不法侵入してるんだった。



「……え、まって、それじゃあ結界魔法とか鍵とか意味ないよね。」



 魔法で自由に行き来できるなら、結果とか鍵とか何の意味もない。不法侵入し放題、無法地帯になってしまう。そんな不安な気持ちでシーくんを見ると、何を言ってるんだ、と言わんばかりの呆れた顔で私を見た。

……それさ、完璧な王太子になってまで手に入れたいと思ってる女の子に対して向ける顔じゃないよ。



「ここの結界は強固なものだ。普通ならそれを破って侵入はできない。ここの鍵も魔法耐性が付与されているから、普通は侵入できない。」



「……ということは?」



「俺が優秀なだけだ。」



……なるほど。

 すごいことなんだろうけど、自信満々に言うわけではなく、淡々と言われると、反応に困る。

とりあえず分かったことは、シーくん以外に不法侵入される恐れはないことと、この世界の普通の基準をシーくんにしちゃいけないということだ。



「それで、魔法使ってまで何しにきたの?しかも、お茶まで持参して……。」



「お茶だけじゃない。お菓子もあるぞ。」



「え!?お菓子!?」



 シーくんが腕を振ると、魔法具が光って、次の瞬間テーブルの上に美味しそうなお菓子が並んだ。今世はじめての光景に、思わずテーブルに駆け寄る。うわぁ、美味しそう……夢にまで見た甘いお菓子……。



「とりあえず座れ。そして食べろ。」



「うん!ありがとう!」



 クッキーをひとくちかじる。甘い砂糖の味が口いっぱいに広がって、自然に笑みが溢れる。



「美味しい……!」



「……そうか。もっと食べろ。」



「うん!」



 村では満足に食べることができなかったから、胃が小さくなってしまって学食のご飯もいつも残してしまっていたけど、お菓子はいくらでも食べられる気がする。甘いものは別腹っていうのは、本当だったんだ!

 幸せいっぱいになりながらお菓子を食べている私とは対照的に、シーくんは全くお菓子を食べていない。食べないのかな?と疑問に思い、シーくんを見ると……とても優しい眼差しで私を見ていた。



 え、まって、ちょっとその顔は待って。なんか、かっこいいとか顔がいいとかはいつも思ってるけど、なんか、その顔はだめだ。

 なんとなく、この空気に耐えられなくなった私は、何か話題を振ってその顔をやめさせなければ、と必死に話題を探す。

……あ!そういえば、結局この人何しに来たんだろう?わざわざ自分にしか使えないような高度な魔法使ってお茶しに来たの?……シーくんならありえそうだけれども。



「……ところで、何しに来たの?」



 お茶しに来た、とか暇だった、とかそんな答えが返ってくると思ってたのに、シーくんは私がクッキーを持っているのと反対の手を握った。

 え、なにこれ?



「……ただ、ルナに会いに来ただけだ。」



 さっき見たよりも綺麗な微笑みを至近距離で、しかも手を握られながら言われた私は、思わず手に持っていたクッキーを落とした。顔が赤くなっていくのが分かる。



 シーくんは、赤くなった私を見て満足そうに笑った後、何事もなかったかのようにお茶を飲み出した。



………やられた。っていうか、シーくんに照れとか恥じらいとかいう感情は存在しないのだろうか。









 



 


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