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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第二章
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自己紹介

「皆さんの入学を、心から歓迎します。」



 前世ではなんとも思わなかったそんな学校長からの言葉が、心に染み渡る。

 寮に入ってから入学までは、あっという間だった。







 寮に人が増えると、シーくんたちと会うこともできなくなったため、私はひとり寮での生活を送っていた。



「ちょっと、あの子がつけてるのって耳飾りじゃない?」



「どこの奴隷?」



「奴隷がこんなところにくるか?」



 と、食堂に来るたびにひそひそと噂されるけど、こんなのは想定の範囲内だ。直接聞いてくれば違うって否定できるのに、話しかけてこないから否定もできない。モヤモヤするけど、まぁ仕方ない。これも想定の範囲内。

 それよりも、同じ空間にいるシーくんとルイス様のほうが気になった。私が何か言われるたびにシーくんの王子様の仮面が剥がれていく。魔法具である指輪に触れて杖を出そうとしているのをルイス様が必死になって止めている。……言っておくけど、初めて会ったときのシーくんも同じこと言ってたからね。



 そうして、ひそひそと噂話をされることと、それによってシーくんが爆発しないかヒヤヒヤしたことと、ルイス様の胃が心配なこと以外は何事もなく、入学式までの時間を過ごした。








 感動の(私だけ)入学式を終えて、各教室へと案内される。クラスは、花、月、星、陽、の各学年4クラスずつあり、私は月組になった。クラス決めは信託によって行われるらしい。ルナの名にふさわしいクラスだと思う!気に入った!といっても、ルナが月って意味だということを知るのはこの世界で私だけだけど……



 そんなこんなで、月組の教室に案内された私は、指定された席に座る。窓際の1番後ろ。なかなかいい席じゃない?前世では、席替えのたびに窓際の1番後ろになりたくてくじ引く前に祈ってたなぁ……



「それでは、順番に自己紹介をしてください。オークウェル公爵令嬢からお願いいたします。」



 新学期の定番ともいえる自己紹介が、廊下側の1番前の女の子から始まった。



「舞踏会やお茶会でお会いした方もいるかと思いますが、あらためまして。皆さまごきげんよう。セレナ・オークウェルですわ。オークウェル公爵家の長女、第二子です。どうぞみなさま、おみしりおきを。」



 そう言ってスカートを持ち上げながらお辞儀をしたのは、とてもきれいな金色の髪をした女の子だった。すごい!かわいい!そして、なんかすごく育ちが良さそう!



 周りと同じように惜しみない拍手を送っていると、次の人の自己紹介が始まる。次の人もなかなかのイケメンだったので、私は再び惜しみない拍手を送る。やっぱりこの世界って、彫りが深いからなのか美男美女が多い気がする。うん、いいことだ。



 そうして、自己紹介が進むにつれてだんだんと拍手の音が小さくなっていく。まぁ、自己紹介って中だるみしがちだしね。しかも、手も痛くなってくるし、仕方ない。

 そう思っていたんだけど、なんとなく様子がおかしい。なんか、廊下側の列の人が誰1人として拍手をしていない。自己紹介をしてる人の方を見もしない。

 そうして、少しずつ拍手をする人の数が減っていき、いよいよ私の前の子の番になった。



「ティア・ネットと、も、申します。ネット男爵家の、長女、第二子です。よろしく、お願いいたします。」



 その自己紹介が終わったあと、誰も拍手をしない。



「え、男爵家?」



「この学校に伯爵よりも下のものが入学してきたってこと?」



「しかもネット男爵家って、あの田舎の貧乏貴族だろ?」



「やだ……学園の品位がさがるわ……」



 それどろこか、教室中からそんな声が聞こえてくる。……え、同じ貴族の中でもこんな感じなの?

 目の前の女の子はうつむきながら震えていて、今にも泣き出しそうだった。

 私は、教室のひそひそ声にも負けないぐらい大きな音をだして惜しみない拍手を送る。いいじゃない、そのピンク色の髪!前世の私が似合わなくて断念したその髪色も、違和感なく似合ってて素敵だと思う!



 ピンク髪の女の子は、自分の後ろから拍手が聞こえたことに驚いて振り向いた。その目には少し涙が浮かんでいて、今にもこぼれ落ちそうだった。……あ、この子もかわいい。



「ちょっと、男爵家の後ろに座っている子がいるわよ。」



「ネット男爵家より下って……」



「しかも、あの耳についているのって……どこかの奴隷ってこと?」



「あの子って、寮で噂になってた奴隷の……?」



……そんな声が聞こえてきて、私はなんで廊下側から拍手をする人が減っていったのか、その理由が分かった。

この席順は、位の高い順なんだ。1番爵位の高い公爵家から始まって、だんだんと爵位が下がっていく。

そして、自分よりも爵位のが低い人の自己紹介には拍手しないし目も向けない。

……だから、私がこの席なのか。この世界のあいうえお的なやつでルナ・ハリスが1番後ろになるのかと思ってた……。



 クラス中が私に注目する中で、ハッとしたように目の前のピンク髪の女の子が席に座った。座ったまま、振り返って呆然と私を見ている。



……ねぇ、みんな、気づいてる?



 自分より位が低い相手の自己紹介ではその相手を見もしなかったくせに、今は全員が私のほうを見ている。

 それだけで、なんか勝ったような気がして、私は笑みを浮かべながら立ち上がる。



「ルナ・ハリスと申します。この耳飾りは、魔法具召喚の儀によってクロス様から頂いた魔法具ですので、私は誰の奴隷でもありません。……ガラク村出身の、ハリス家の長女、第一子です。よろしくお願いいたします。」



 

 貴族の令嬢がしていたお辞儀なんてできない。だって、そんなやり方知らない。

 それでも、お兄ちゃんからお辞儀のやり方は何度も教えてもらった。

 真っ直ぐに背筋を伸ばして、角度は斜め45度。手は前で重ねる。ゆっくり3秒数えてから、顔を上げると、私を見ているのは蔑み、侮辱、そんな否定的な視線ばかり。

 そんな視線に負けないように、私は背筋を伸ばしたまま席についた。



 この世界の差別意識というものは、もう嫌というほど見てきた。それでも……同じ貴族の中でも、こんなふうにあからさまに差をつけてくるなんて思わなかった。



 目の前のピンク髪の女の子が、呆然としたまま私を見ていたので、とりあえず笑ってみた。

すると、慌てて前を向いてしまった。クラスを見渡すと、もうみんな私のほうを見ていなくて、全員が前を向き、先生の学校生活についてなどの話が始まった。



 それを聞きながらぼんやりとしていると、私は恐ろしい可能性に気づいてしまった。



……私、もしかしてこの学校で友達できないんじゃない?









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