始まりの朝
「明日の朝には寮に入るから用意しておけ。入学式まであと10日しかないからな。」
バレッタをもらい王宮に泊まった翌日、朝食を終えた私に、朝の公務を終えてきたらしいシーくんはそう言った……らしい。
というのも、その時の私は、夜にいただいた食事が凄く豪華だったにも関わらず、長年の食生活のせいで胃が弱っており、パンを二口ほど食べただけでギブアップしてしまい、さらにその後お腹が痛くなってしまって朝食も食べずに寝込んでいた。
今世で初めてのあんなに素晴らしい食事を残してしまった上、体調を崩すという事態に、精神的にも身体的にも弱っていた私は、シーくんの言葉に適当に返事を返して追い返した。正直、何て言われたかなんて全く覚えていなかった。
何とか回復した翌日、今日こそは同じ鉄は踏まない!と、挑んだ朝食。消化をよくすれば何とか……と思い、ちびちびとパンをスープに浸していた私の元に、はじめて見る格好をしたシーくんが現れた。
「まだ食べていたのか?もう出るぞ。」
「……いい、」
「は?」
「その服、いい。」
シーくんが着ていたのは、いつも見ている高そうな王族の服ではなく、日本で見慣れた制服だった。
しかし、ただの制服はなく、所々に刺繍がしてあるなど、とてもおしゃれな制服だ。私が高校の時に着ていた地味な紺の制服とは大違いだ。
それだけでも素敵なのに、その上に、これまた高そうな長い上着を着ていた。……これなんていうんだっけ、なんか、魔法使いが着ているような……えっと、そうだ!ローブ!刺繍と宝石が散りばめられたそれは、目を見張るほど綺麗だった。
そして、それを見にまとったとてつもない美形……いい、すごくいい。
「……服だけか?」
ここが押しどころだとでも思ったのか、シーくんが私の顔を覗き込む。身長差があるシーくんがその仕草をすることによって、ローブが綺麗になびいて……とても美しい。
「すごい!中身含めて完璧!」
あまりの完璧な仕上がりに惜しみない拍手を送ると、シーくんは満足そうな笑みを浮かべた。
その表情がまた素晴らしかったので、私はさらに大きな拍手を送る。
「……お取り込み中申し訳ありませんが、もう時間がありません。はやく支度をしてください。」
拍手をやめて声のする方へ目を向けると、そこには同じ服を着たルイス様がいた。
「ルイス様!おはようございます!ルイス様もとってもお似合いですね!素敵です!」
ルイス様もとても整った容姿をしているので、似合う。シェイド様はとにかく美術品のように美しいけど、ルイス様は現実的な美しさだ。なんというか、生きてる人って感じがする。シーくんは浮世離れしすぎている。
「ルイス……脱げ。もう着るな。」
「は!?無理に決まってるじゃないですか!制服なんですから!」
「……制服?」
確かに制服っぽいとは思ったけど、本当に制服なのか、これ。とても素晴らしいと思う。これを制服にした人には金一封あげたい。お金ないけど。
「そうですよ。昨日シェイド様からお伝えしていただいたと思うのですが、これからエリュシオン学園に向けて出発いたします。準備はできていますよね?」
「……え?準備?」
「……シェイド様?」
「俺は伝えた。」
「……あ、待って、昨日?」
「ああ、昨日。」
「……ごめんなさい。今すぐ準備します。」
私は大事に大事に浸していたパンを一口食べると、すぐに準備をした。といっても、そもそも荷物なんてほとんどない。来た時に持ってきた風呂敷ひとつだけなので、それをそのまま持って来た。
「あと、これを着ろ。」
「!これって……!」
「制服だ。」
渡されたのは、シーくんやルイス様が来ているのと同じもの……のスカートバージョン。
「うれしいっ!ありがとう!すぐ着替えてくるね!」
そう言って、私はいそいそと部屋の奥の洗面所へ向かう。前世で夢にまで見たかわいい制服!とってもうれしい!
「……俺が宝石あげた時よりも嬉しそうじゃないか?」
「いえ、まあ、そんなことは、」
「……で、ルイス。お前はいつそれを脱ぐんだ。」
「ですから、脱ぎません!」
「……まぁ、確かにお前の容姿もあいつの好みだとは思っていたが……」
その後、着替えて戻ってきた私にシーくんは、
「俺とルイス、どちらの容姿が好きだ?」
と聞いてきた。どっちも……と言いかけたところで、ルイス様がすごい目でこっちを見ていることに気がついた。……まるで、答えによっては自分の命はないとでも言いたげな表情だ。
「……シーくんかな。」
そう言った私に、シーくんは満足そうな笑みを浮かべた。
……これでルイス様の命は繋がった?
「そうか。ルナ、お前もその制服、よく似合っている。サイズも大丈夫みたいだな。だが、やはり痩せすぎだ。学園ではしっかり栄養をとれ。」
「……うん、ありがとう。」
……それはね、私も思った。制服を着た自分を見て、あまりにも細すぎる足に愕然とした。
顔も、痩せこけていて生きているのが不思議なほどだ。前世でこんな子がいたら、間違いなく近所の人に通報されるレベル。こんなんじゃ、長生き出来るわけがない。
やっぱり、このままじゃいけない。
鏡に写った自分を見て決意を新たにした私は、エリュシオン魔法学校に向かう馬車に乗り込んだ。
……ちなみに、馬車を引いていたのは馬ではなくペガサスで、道ではなく空を飛んでの移動だった。
さすが、魔法の国……!




