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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第一章
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贈り物

「くくっ……まさか、あんなこと言い出すなんてな」



 王様との謁見が終わり、私は今、シーくんとルイス様と共に王宮の小さな(王宮の中ではの話であって、前世の私の部屋の10倍はある)部屋にいる。

 あの私の発言は国王の怒りを買ったらしく、そこまでいうならと婚約にあたっての条件を突きつけられた。



「シェイド様。笑い事ではありませんよ。どうするのですか、あんな不可能な条件。」



「不可能ではないだろう。俺は入学以来ずっとトップだ。それを、一度でも実現すればいいんだ。」



 そう。その条件とは、シーくんが通っている国内最高峰の魔法学校、エリュシオン王立魔法学校において、トップの成績を一度でもいいから取ることだった。

 え?一回でもいいなら簡単だろうって?

よく考えて見てほしい。私は今、この世界の常識も知らず、文字の読み書きもできない。そんな私が首席をとるなんて、小学生……下手したら幼稚園児にも劣るような人間が、国内最高峰の大学で首席をとるようなものだ。無理だろ。

 しかも、自慢じゃないが私は前世でも決して頭がいい方ではなかった。大学は、大体志望すれば誰でも受かるような私立だったし、その中でも毎回赤点ギリギリのラインを彷徨っていた。

……そんな私が、異世界で首席。うん、無理。



「ごめん、シーくん。無理な気しかしない。」



「ルナ様!あなた、あの場ではあんなに堂々と言い切っていたのに……」



 正直言って、あの場ではとてつもないアドレナリンが出ていたんだと思う。今思い出すと、震え上がるほど怖かった。……良くあの場で発言できたな、私。

あれが火事場の馬鹿力というやつか。



「……それよりもルナ。俺が他に妃を迎えろ、と言われた時、婚約から逃げようとしただろ。」



……やっぱりバレてた!



「……いいとこ取りしようとして、すみませんでした。」



 これに関しては、明らかに私に非がある。だって、都合のいい条件だけ受けてから、結婚間際に逃げるとか……冷静に考えると、結婚詐欺と変わらない。うん、本当にごめん。



「俺は、ルナ以外の女を妃に迎えるつもりはない。だから……逃げるな。不満があるなら、逃げる前に言ってくれ。」



「……うん、本当にごめんなさい。」



「まあ、逃げたとしても捕まえるだけだけどな。」



……怖っ。



「はぁ。とにかく、どうにかしてルナ様が首席を取らなければ、そもそも婚約から逃げるも何もないのですよ。婚約自体が、無かったことになるのですから。」



「その時は俺が王太子から退くだけだ。問題ない。」



「問題しかありませんっ!ああ、どうしてこんなことに……!」



 頭を抱えてしまったルイス様を全く気にせずに、シーくんは棚を開けて色んな箱を机の上に並べている。

相変わらず、自由だ。



「こうなったら、ルナ様!なんとしてでも首席を取ってください。大丈夫です!同学年にシェイド様がいないのですから、可能性はゼロではありません!」



「え、シーくんてそんなに頭いいんですか?」



「シェイド様は、入学以来ずっと満点で首席です。」



「え!すごっ!」



……確かに、これほど優秀なら、何としてでも国王になってほしいと思うだろう。

 元々の素質はあったんだろうけど、私との婚約を認めさせるためにここまで優秀な王太子になったのだと思うと……重い。愛が重い。



「しかし、首席を取るまでは婚約者だと公言できないとはな。」



 そうなのだ。私が首席を取るまではシーくんとの関係を悟られてはいけない、というのが、国王の出したもうひとつの条件だった。

 国王からしたら、私が首席を取ることは絶対に不可能であり、婚約者となる未来は永遠に訪れない。関係を周りに悟られることがなければ、全ては王宮のごく一部の間のみの話で終わる。

シーくんの経歴に傷をつけることもない。



「さあ、ルナ。持っていけ。」



「え?何が?」



 相変わらず唐突すぎて、何が何だか分からない。

 シーくんが机に並べた箱をひとつ開けると、その中から綺麗なネックレスが出てきた。



「商人がこうして宝石を売りにくるたびに、いつもルナを思い出していた。これは、ルナにきっと似合う、これも似合うだろうか、と考えては買っていた。

いつかお前に渡せる時を、楽しみにしていたんだ。」



 そう言って嬉しそうに微笑むシーくんに、恐怖を感じる。怖い。愛が重くて怖い。



「そんな高そうな物、そんなにたくさんもらえないよ!」



「……なら、ひとつでもいいからもらってくれ。」



「えぇ……いらない。」



 とても綺麗だし、欲しい気持ちはあるけど、怨念が篭ってそうでいやだ。



「俺が贈ったものを身につけていてくれれば、たとえ公言できなくてもルナは俺のものなのだと感じることができるだろう?

その証すら無いとなると……なぁ?」



 そこで言葉を切ったシーくん。口元には、続きは言わなくてもわかるだろう、とでも言いたげな笑みが浮かんでいる。



「……お願いします、ルナ様。ひとつでいいので、どうか受け取ってください。」



「……分かりました。」



 仕方がない。世界平和のために、この呪いの品を受け取ろう。

 さて、どれにしようか……と考えながら、恐る恐る箱を開けていく。当然、ピアスやイヤリングなんかの耳につけるアクセサリーはないけど、それ以外のネックレスやブレスレット、指輪といった様々なアクセサリーが並んでいる。

うん、とりあえず指輪だけはない。



「……あ、これ……」



 それを見た瞬間、私の心は決まった。



「これにします!」



 私がそれを選び、身につけるとシーくんとルイス様が目を見開いた。



「ほ、本当にそれでいいのですか……?」



「はい!」



 きっと、国内最高峰の魔法学園なんかに私が通ってしまえば、さまざまことが起こるだろう。

ただ楽しい学園生活、なんて程遠いことは最初から分かっている。シーくんという後ろ盾を公にできない以上、降りかかる火の粉は自分でなんとかしなければならない。



……だからこれは、おまもり。

 どんなことがあっても、私にはシーくんという絶対的な味方がいるのだと、いつでも忘れないように。

 そして、偏見をなくすためには、まずは隠すことを辞めなければならない。



 私は、右側に付けたバレッタによって、もう隠れなくなったピアスに触れた。




 もう、隠す必要はない。









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