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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第一章
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国王陛下

 無事に王宮に着いた私は、裏口から入るように言われて、その時点でシーくん達とは別れた。

 私の格好を見た途端に、王宮の人たちは全員顔をしかめ、あれよあれよという間にメイドさんたちに連れて行かれた。

 その先で、身ぐるみ剥がされてお風呂に入らされて着ていた服は捨てられて……

……そんなに汚かった?なんかへこむ……

 とはいえ、久しぶりのお風呂はとても気持ち良くて、もうこれだけでここに来た甲斐があった。

そして、見たこともないような綺麗な服を着せてもらう。

……綺麗とかよりも先に何かあった時の怖さが勝つ。汚さないようにしないと、絶対弁償できない……!



 そうして、一体いくらかかっているんだろうというプランを終えた私が次に連れて行かれたのは、これまた豪華な扉の前だった。



「これから、国王陛下と王妃様に会っていただきます。失礼のないように。」



……え、直接会うの?今?心の準備とか、何話すとかそういう準備時間はないの?



 助けを求めるように周囲を見渡すけど、誰一人として目を合わせてくれない。

……王宮にきてから、誰も目を合わせてくれないことには気がついていた。それどころか、蔑むような目で見てくる人もいる。というか、ほとんどがそういう人だった。

 王宮で働いている人たちがどんな地位にいるのかは、この国のことを何も知らない私には分からないけど、この反応を見るに、それなりの地位を持っている人なのだろう。

……それは分かるけど、私は仮にも王太子が迎えた婚約者という立場だ。もうちょっと、そういう感情を隠した方がいいと思う。前から思ってたけど、この国の人たちはちょっと感情が表に出過ぎだ。隠すつもりもないのか?



 そんなことを考えているうちに、目の前の重そうな扉は開いた。あまりにも重そうだったので、何人かで開け閉めするのかと思っていたが、まさかの魔法での開閉だった。久しぶりのファンタジー要素に、ちょっとテンションが上がる。

……しかし、そのテンションは一瞬で地に落ちた。

部屋の空気重っ!!









 扉をくぐったあと、私は一番奥にいる国王夫妻を目指して、やたらと広い部屋をひたすらまっすぐ進んだ。

そして、部屋の両側には高そうな装飾を沢山つけた騎士らしき人たち……視線が痛い。



 もう分かった。私は全く歓迎されてない。

 あまりにもあからさまな態度に腹が立って、もう帰ってやろうかと思ったとき、お兄ちゃんの教えを思い出した。



[『アウェイな場所でこそ、真価が試されるんだ。空気を読んで縮こまってやる必要はない。背筋を伸ばして、笑顔で進め。』]



 私は、今世初の慣れないヒールと周りからの視線のせいで自然と縮こまっていた姿勢を正した。口元に小さく笑みを浮かべながら、前だけ見てまっすぐ進む。



……分かっていたでしょう、瑠奈。あなたが普通だと思って気にもしていなかった当たり前は、この世界ではここまでしなければ手に入れることは出来ない、理想だということが。

 それでも、欲しいと思ったから、ここに来たんでしょう?



 だったら、笑え。



 いろいろな、半ば脅しとも取れるような条件だったとしても、この道を進むと決めたのは私だ。ならば、何があっても背筋を伸ばして、笑顔で進む。そう決めた。



……でもさ、いきなり国王と王妃っていうのはレベル1でラスボスに挑むようなものだと思うのは、私だけでしょうか?








 長い長い道のりを終えて、国王と王妃の前についた私は、村でシーくんを迎えたときのように跪いた。下を向いたことで顔が隠れて、ようやく表情筋を緩めることができた。

……この空気で笑顔を保つとか、難易度高すぎて表情筋がつりそうだった。



「そこの平民。名を名乗れ。」



 人に名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさい!……なんて言えるはずもなく、私は大人しく名乗る。



「ルナ・ハリスと申します。」



「そうか。全く興味はない。」



 そっちが聞いてきたんでしょうが!



「シェイドが平民を婚約者とすると言った時には耳を疑った。そんな汚らわしい者を、王家の血筋に入れるわけにはいかない。」



……自分の国の人間を汚らわしい、という国王を見て、王宮の人たちのあの視線に納得がいった。こんな人がトップにいるんじゃ、ああなって当然だ。



「しかし、シェイドは貴様を婚約者に迎えることが出来なければ王太子を辞すると言ってきた。シェイドは、実に優秀な王太子だ。シェイドが王太子を辞めると、困るんだよ。」



 改めて、王太子を辞めるというのがどれほどの力をもった脅し文句なのかを知る。

……ていうか、分かっててここまでやったのなら、シーくんの執念すごい。怖い。



「そこで、せめてもの策として、貴族へ養子になってから迎えることを許した。それなのに貴様は、それを断ったそうだな。」



「……はい。」



「全く、信じられん。見るにも耐えない汚しい存在を正面から入れたくないから、裏口からならと入れたが、予想以上だった。綺麗にする様に命じても、その貧相な身なりは隠せない。そんな者を王家に入れるわけにはいかない。

貴族の養子になっても所詮は平民。やはり、当初の予定通り進めるとしよう。」



 嫌な予感しかしなくて、視線をずらすと、一斉に魔法具を構えた騎士たちがいた。

……ここまできて、何のために私がこの場に呼ばれたのか分からないほど鈍感じゃない。



「やれ。」



 やっぱりーーー!!



 魔法はというと、未だにスマホ機能しか使えない私に、自衛する手段なんてない。

くるべき衝撃に備えて目を閉じたが、いつになっても衝撃はこない。



「……そんなことだろうと思いましたよ、父上。」



 もうすっかり聞き慣れた声に、恐る恐る目を開けて前を見ると、そこにいたのは長い杖を構えたシーくんだった。

おそらく、この長い杖がシーくんの魔法具で、私を助けるために出したのだろう。



 ピンチに現れるイケメン魔法使い王子様……というかっこ良すぎるシーくんに、ときめきが止まらない。

これ、少女漫画だったら間違いなく恋が始まるやつだ。



 しかし、続けて攻撃を仕掛けようとするシーくんにそんなときめきはすぐに消えた。

 慌てて腕を掴んで止めると、シーくんはこっちを振り返って攻撃をやめてくれた……のはよかったんだけど、表情が消えたシーくんと目があった。



……めっちゃキレてる。イケメンの無表情めちゃくちゃ怖い!!






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