はじまり〜Sideルイス〜
「きょうからおつかえさせていただきます!ルイス・カーデルともうします!よろしくおねがいいたします、シェイドさま!」
この日から、俺の人生は始まった。
カーデル侯爵家の次男として生まれた俺、ルイス・カーデルは、5歳の時に第二王子であるシェイド様付きの騎士となった。
シェイド様付き騎士といっても、まだ十分に戦えない俺は、シェイド様といる時間よりも鍛錬に当てる時間のほうが長かった。侯爵家と王家には大きな身分の差があるので、こちらから話しかけることもせず、時間は流れていった。
シェイド様から初めて話しかけられたのは、俺が魔法具召喚の儀を行った日のことだった。
「ルイスは何を願ってその剣を神クロスから頂いたんだ?」
数ヶ月後には、シェイド様の魔法具召喚の儀がある。だからきっと、気になったのだろう。自分の考えを言うなんておこがましいとは思いながらも、主君の質問には答えなければと俺は緊張しつつ口を開いた。
「はい!私は、シェイド様の進む道のお力になれるような剣が欲しいと願いました!」
「……俺の?」
「もちろんです!私の主君は、シェイド様ですから!」
「そうか。」
それから数ヶ月後、魔法具召喚の儀を行ったシェイド様がとんでもない願い事をしたらしい、と城中の噂になった。一体何を願ったのか気になったものの、従者の方から聞くのが失礼に当たるのではないか、と思うと聞けなかった。
「……お前も気になっているのだろう。俺が魔法具召喚の儀で願ったことについて。」
「いえ!決してそんなことは!」
「俺は、最強の力が欲しいと願った。」
「最強の力……ですか、」
「周りはいろいろ言うが、俺も兄様を助けるための力が欲しいと思った。俺は、将来国を背負う兄様を助けるための剣であり、盾となるんだ。」
そう言ったシェイド様に、俺は一生ついていこうと思った。周りはいろいろ言っているが、第一王子であるウィルド様との仲は良好だったので、シェイド様もあまり周りの声を気にしていなかった。
それから数年後、信託によってシェイド様が王太子殿下に選ばれた。
そして、シェイド様は城からいなくなった。周りは逃げ出したとか、勝手なことを言っていたけど従者である俺には分かる。シェイド様は、ウィルド様の力になることを夢見ていたのに、いきなり自分が上に立つと言われて、それを周りから非難されて、どうしていいのか分からなくなったんだ。
分かっているのに、何もできずにシェイド様をひとりにしてしまった自分が情けない。でも、いつか戻ってきた時には力になれるようにと、俺はいつも通りに鍛錬を続けながら、ひたすらシェイド様を待ち続けた。
数ヶ月後に帰ってきたシェイド様は、別人のようになっていた。
「これから、完璧な王太子を目指す。ルイスも思うところがあったらなんでも言って欲しい。」
一体この数ヶ月の間に何があったのかは分からないが、シェイド様は完璧な王太子を目指すと言って動き始めた。
勉学の成績は元々優秀だったのに加え、魔法や剣の鍛錬、社会情勢などを幅広く学び、2年が経ち魔法学園に入学する年には次期国王はシェイド様以外にあり得ない、と言われるほどになっていた。
そんなシェイド様だったが、唯一家臣達が頭を悩ませることがあった。婚約者問題だ。
本来ならば王太子殿下は、生まれて間もなく数人の婚約者が決められる。
しかし、シェイド様は次男であったため、信託が行われるまで婚約者はいなかった。信託が行われ城に戻ってきた後も、シェイド様はなにかと理由をつけて婚約を断っていた。
「何を言ってもはい、しか言わない。」
「自分の家のメリットはどうだとかそんなことばかりで、自分自身の話を全くしない。」
「家臣に対して謝りもしない。」
「嫌そうにしているのに、嫌だと言わない。」
「目を見て話してくれない。」
「いろいろと聞き出そうとしてきて不快だ。」
……当然だろう、と思った。面と向かって、王太子殿下に対して肯定以外の言葉を発する令嬢はいない。家臣の家もそれなりの家柄だとはいえ、実家を継がない第二子以降のものばかり。
王太子妃には第一子のみが選ばれるので、立場の違いは一目瞭然。家臣が王太子妃候補に謝罪することはあれど、逆はないだろう。
王太子殿下と目を合わせるなんてそんな真似は普通の令嬢には出来ない。それでも仲良くなろうと話をしている令嬢に対して、シェイド様は不満そうだった。
「シェイド様。お言葉ですが、それが普通のことかと。」
「ルナは違った。」
俺がルナ・ハリスの名前を聞いたのはこの時が初めてだった。
ルナ・ハリスの名前を聞いて以降、シェイド様は俺にだけルナ・ハリスの話をするようになった。
話を聞くうちに、今のシェイド様をつくっているのはほとんどがルナ・ハリスの言動だと言うことに気がついた。そして、ルナ・ハリスの話をしている時のシェイド様は、別人のように穏やかで楽しそうだった。
「いつか、ルナを城に迎えようと思う。侍女でもメイドでも……ああ、俺の補佐でも庭師でも何でもいい。ルナを迎えなければ王座にはつかない、と言えば今なら通るだろう?
……しかし、なぜルナよりも魅力的な女性はいないのだろうな。いれば俺はすぐにでも婚約をするというのに……」
その言葉に、俺は衝撃を受けた。どんなに下っ端の仕事でも、城に仕えられるのは貴族のみ。平民が城に上がれる訳がない。
いや、それより衝撃だったのは……
……まさか、と嫌な予感がした俺は、恐る恐るシェイド様に尋ねた。
「シェイド様。まさかとは思いますが……ルナ・ハリスを好いておられることを、自覚していないのですか……?」
「……は?」
俺の発言に、シェイド様はフリーズした。それから数分後。
「え?俺、ルナのこと好きだったのか?」
「あんた、あんだけ好き好きオーラ出しといて、無自覚だったのかよ!」
この日、俺は初めてシェイド様に対して敬語を忘れて突っ込んだ。それ以降、俺は本当の意味でシェイド様に言いたいことを言えるようになった。
その後、自覚したことで完全にストッパーが外れたシェイド様は、
「ルナ・ハリスを婚約者として迎えることを許してもらえないのであれば、俺は王太子の座を辞するつもりです。」
などと言い出し、王宮に混乱を招くこととなる。そして俺は、それによって胃痛が絶えない日々を送ることとなる。
両親から、次期国母の親となれるのなら、となんとか平民を養子にしてもいいとの許可をもらい、ガラク村に行って実際のルナ・ハリスとあった時、ようやく胃痛から解放されると思っていたのに、
「平民のままの私を、迎え入れてくれるのが筋じゃないの?」
シェイド様よりも我が強いこの女のせいで、俺の胃痛生活はさらに悪化することとなってしまうなんて、想像もしていなかった。
シェイド様!そりゃあ、これより癖が強い女なんて世界中探したって見つかりませんよ!




