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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第一章
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婚約の条件

「ただし!条件があります!」



 胸が苦しくったって、選んだのは自分だ。ならば、どうすればいいのか、現実的に考えていこう。

 まず、婚約者になりました、じゃあよろしくっていう訳にはいかない。あれだけの好条件をもらっておいて何だけど、どうしても譲れないことがある。これを断られたら……どうしよう。



「ああ、聞こう。」



 私の心配をよそに、シーくんは嫌そうな顔ひとつせず聞いてくれた。嫌そうな顔をしていたのはルイス様の方だった。

……確かに、自分の主君である王太子殿下にこんな態度を取る村娘がいたら普通に嫌だろうな。



「まず、その、あれです。」



「どれだ。」



「その、できれば身体的接触は控えていただきたいと思っております。」



 今後もあんな風に手にキスとかされたら、普通に心臓がもたない。それに、こっちは彼氏いない歴=年齢(前世含む)の恋愛初心者だ。初心者どころか、まだ教習所すら通ってないレベルだ。



「どこまでだ。」



「え、」



「どこまでは許される。」



「どこまで……」



 予想外の質問に、たじろぐ。え、これ私が決めるやつなの?ていうか、どこまでって、シーくんは何をしようとしてるわけ?



「まず、さっきのようにキスするのはやめてください。」



「……」



 あ、不満そうな顔。

 その顔が、なんだか昔会った幼いシーくんを見ているようで、かわいい。でも、その訴えはかわいくない。



「婚約者として、親睦を深めることは必要だ。最低限の接触は認めて貰わなければ。」



「最低限!?キスは最低限じゃないでしょ!」



「最低限だ。」



 え?この世界じゃ最低限の接触なの?

いや待てよ……確かに外国では、コミュニケーションとして家族ともキスするって聞いたことがある。ここは名前も世界観も外国風の異世界だし、コミュニケーションについても外国基準という可能性が……



「……」



 いや!違う!だってルイス様があからさまに目を逸らした!

 こっちでもキスは恋人とか以外とはしないんだ!そうだよね、だって私お父さんともお母さんともしたことないもん!



 でも、婚約者となることを受け入れたのは私だし、あれも嫌、これも嫌っていうのも悪い気がしてくる。



「助けて、スマ本……」



 恋愛初心者には難易度が高すぎる難問に、私は文明の利器に頼ることにした。

 スマ本を召喚したことで、耳を隠していた髪の毛も解けて、魔法具が露わになる。それを見てルイス様が、目を見開いて驚いているのが視界に入ってきたけど、ここにはシーくんがいるから大丈夫だと思った。



 キスについて調べていると、部位によって意味があることを知った。よし、これを参考にしてなんとか妥協点を……



「じゃあ、キスはいいけど、首と耳と口は禁止でお願いします。」



「……分かった。」



 不満そうだったけど、一応は納得してくれたシーくんに、とりあえずは安心した。私のファーストキスは守られた!



「あと……ルイス様には申し訳ないのですが、養子になることはできません。」



「……なぜですか?我がカーデル家に何かご不満がおありですか?」



 言葉は柔らかいけど、言葉の端々から平民の分際でなに侯爵家に文句つけてんだゴラァ、ぐらいの不満を感じる。



「いえ、ルイス様のお家に不満があるとかではなく、私はルナ・ハリスです。この世界での私の父はカイル・ハリスただひとりで、私の母もニナ・ハリスだけなんです。それ以外の人を、父や母と呼ぶことはできません。」



 この世界で生まれてから、ずっと育ててくれたのは今の両親だ。私を産んだのは、前世の私より若い頃で、沢山の苦労があったと思う。それでも、ここまで育ててくれたことに、本当に感謝している。

 この世界での理不尽さも、悔しさも、優しさも、愛情も、教えてくれたのはお父さんとお母さんだ。ルナ・ハリスにとっての両親は、このふたりしかいない。



「しかし!ただの平民の女性を王太子殿下の婚約者として迎え入れることはできません!最低でも、伯爵家以上の地位のある家に養子となって頂かなければ!」



 多分、ルイスさんが言っていることは最もなのだろう。でも、それこそが私が窮屈だと思っている価値観のひとつだった。生まれた家で一生が決まるなんて、そんなのはつまらない。



「ねえ、シーくん。」



「なんだ。」



「私は、ガラク村で生まれたルナ・ハリス。貧しい村で生まれた、ただの平民なの。どんな立派な家に養子に行ったとしても、貴族にはなれない。そんな私をあなたは欲しいと言った。それなら、平民のままの私を、迎え入れてくれるのが筋じゃないの?」



 自分でも、わがままを言っているのは分かっている。でも私は、誰かも分からないような貴族の家に養子に行くなんて、絶対にいやだ。

それに、もしこれが叶ったのなら、この世界の身分制度というものは、今よりもっと自由になるのではないかと思ったのだ。



「そんな無理が通るわけが、」



「分かった。」



「殿下!?」



「そうだな。俺が好きになったのは、そこら辺の貴族の令嬢じゃない。ただの平民の、ルナ・ハリスだ。

ガラク村のルナ・ハリスとして、俺の婚約者になってくれ。」



「……うん、ありがとう。」



 シーくんがそれを認めてくれたのが嬉しくて、私は笑顔でお礼を言った。後ろでルイスさんがシーくんに何かを言っているのを聞く限りでは、きっとそううまくはいかないのだろう。でも、シーくんがそれを認めてくれたのなら、大丈夫だって思える。



 だって、本人達の意思がなにより大切にされるべきでしょう?


























 






 

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