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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第一章
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もうひとつのはじまり

「神託によって、シェイド・フェルダリアが王太子になることが決まった。

シェイド、お前が第一王位継承者だ。

シェイド・クロス・フェルダリアとして生きることが、ここに許された。」



 国王である父のこの一言で、シェイド・フェルダリアの人生は変わった。









 シェイド・フェルダリアはオフェルトクロス王国の第二王子として生まれた。



 ネフェルトクロス王国の王家、フェルダリア家は遠い昔、神クロスの加護を受けこの土地に国を創った。

 神クロスの加護の力は強く、フェルダリア家は強い魔力を得て、その力で国を大きくしていった。



 それは1500年経った今でも変わらず、強い魔力を持ったフェルダリア家が代々王座に付き、国を治めてきた。

 そして、第一王位継承権を得て、王となるものにはクロスの加護を受けた証として『クロス』の名を冠すことを許される。



クロス、という名を名乗ることを許されているのは、この国で国王・王太子のたったふたりだけ。



 ネフェルトクロス王国の第一王位継承者は、生まれた順番や母親の位に関係なく『神託』いう儀式によって決められる。

 神託が行われるのは国王が即位してから20年目の満月の夜と決まっている。



 そして、今日がその20年目の満月の夜だった。



 神託は国王が王家全員の立ち合いの元行われる。

神託によって決められるといっても、選ばれるのは決まって第1子であり、第2子以降が選ばれたことはこの国が建国してから1500年間一度もなかった。

 シェイドには歳の離れた兄がおり、その下にも3人の姉がいた。第二王子といっても上には4人ともの兄姉がいるため、自分はこの儀式の間ただ立っていれば終わるはずだった。



 ……それなのに、神託によって選ばれたのは第一王子である兄でも、第一、第二、第三王女の姉でもなく、5番目に生まれた自分だった。



 頭が真っ白になっていたのは自分だけではなく、国王も含め全ての人の時間が止まっていた。一番最初に我に帰ったのは国王である父で、父は自分が王太子になることが決まったと宣言し、自分にクロスの名を授けると神託の儀の終了を告げた。



 その全てを、シェイドはまるで現実じゃないような感覚で、ただただ見ていた。



 それが現実だということを実感したのは、その後のことだった。



「ほら、あの方が第1子であるウィルド様を差し置いて王太子に選ばれた第5子のシェイド様よ。」



「シェイド様って……あの、召喚の儀で恐れ多くも最強の力がほしい、とか言った方でしょう。ちょっとねぇ……変わってるというか、」



「クロス様の神託の結果だから私たちは何もいえないけど……」



「俺たちはウィルド様に仕えるためにこれまで鍛錬してきたんだ。今更シェイド様になった、なんで言われても、そんな簡単にいくかよ。」



 城中から聞こえて来るそんな声が、自分の立場を嫌でもわからせてくる。



「ウィルド兄様を差し置いて、あなたが時期国王?クロス様の名前を名乗るにふさわしいとは思えないわ。」



「まさかこんなことになるとは……第1子であるウィルドには未来の王太子として様々な教育を受けさせてきた。それなのに今更シェイドが王太子などと……この国はどうなってしまうんだ。」





……うるさい。うるさい。



 自分が王太子に相応しくないことなんて、自分が一番よくわかってる。

 いつか王太子となり国王となる兄様を補佐して、この国を守っていくことが、自分の使命だとそう思って生きてきた。

だから召喚の儀の時も、兄様とこの国を守るための力がほしいと思った。そのためにはどんな時でも支えになれるような最強の力がほしいと願った。

 全ては、いつか兄様を支えるひとりとなるためのものだった。そのはずだったのに……

こうなったことに、一番ショックを受けているのは自分のはずなのに、何故か自分が悪者のように言われている。



……俺は、何もしていない。

 俺だって、王太子になんてなりたくない。

 もう、どうしたらいいのかわからない……

……消えてしまいたい。



 そうだ、自分がいなくなれば神託の結果も変わるのではないか。

神クロスの加護が関係しているのか、神託によって選ばれた王太子は国王になって次の王太子が決まるまでは、まるで何かに守られるように何があっても死ぬことはなかった。



……そうだ、王族を処刑するために作られたあの森なら、消えていなくなれるのではないか。



 気がついたら、シェイドは城を抜け出していた。



 城の強固な警備も結界も、王族の強い魔力に加えて『最強の力』を得たシェイドを止められる者は、どこにもいなかった。






 そうしてたどり着いた森で、シェイドはただ座り込んで呆然としていた。

 こんなことになるなんて思わなかった。自分の人生はここで終わるのか……



 そんな時、人の声が聞こえた。

 追手が来ていないことは確認済だ。

ここは処刑のための森で、生きている人間がいるばずがない。

 気になって声のする方に行くと、そこにいたのは聞いたこともないような音楽を奏でる少女だった。



……なんて美しい歌なんだ。

まるで、女神のしらべだ。



 そうか、これは神が死ぬ前に与えてくれた贈り物だ。

それなら、ありがたく拝聴しよう。

……死ぬのは、その後でいい。



そうして、シェイドは意識がなくなるまで、女神のしらべに耳を傾けていた。



 そのシェイドが倒れた音でしらべを奏でていた女神……歌うことをやめたルナは、草むらの先でシェイドを見つける。




 この出会いが、シェイドにとって、全ての始まりだった。




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