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私は普通を諦めない  作者: 星野桜
第一章
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別れ

 そんな生活が1か月ほど続いたある日、シーくんが真面目な顔をして切り出した。



「ルナ、俺、帰ることにした。」



「ああ、そうなんだ。気をつけてね。」



「……それだけか?」



「……そういえば、逃げてきたって言ってたよね?もう逃げなくて大丈夫なの?」



 わがまま坊ちゃんの反抗期、ぐらいにしか思って無かったが、よく考えてみたらこんな毒だらけの森にひとりで来るなんてよっぽどのことだ。

ちょっと、この世界に来てから感覚がおかしくなってる気がする。



「俺、次男なんだ。なのに、俺が後継者に選ばれて……おかしいだろ?」



「え、なんで?」



「だって、次男だぞ?」



「うん、いいんじゃない?シーくんはしっかり話聞いてくれるし、あいさつもできるようになった。私、シーくんなら大丈夫だと思うよ!

あ、もしかして嫌で逃げてきたの?それなら断ればいいよ!断れなくて逃げてきたなら、このまま逃げ続ければいいし!」



「いや、そういう話じゃなくて……。長男が家督を継ぐのが常識だ。なのに次男が継ぐなんて、おかしいだろ。普通じゃない。」



そういえば、奴隷制度について説明された時、この世界は1番目に生まれた子どもだけを大切にする、と言っていた。

この世界について詳しいシーくんなら、その思いがさらに強いのだろう。



「私は、この世界の事情に疎いから、よく分からないけど……シーくんは、どうしたいの?」



「え…?」



「そういう普通はこうだとか、こうあるべきだとかは関係なしに、シーくんはどうしたいの?

私は、それが1番大切だと思う。」



 この世界では、自分の意思、というものが軽視されがちだと思う。

生きていくためには仕方がない部分もあるのかもしれないけど、それでも、言葉にすら出来ないなんて、そんなのは悲しすぎる。

 私だって、村のみんなに迷惑かけないためには仕方ない、と思いつつも軟禁されている状況への文句は心の中でいつも言っている。



「……俺は、継ぐ気がなかった。それなのに、信託で俺が後継者に選ばれて……怖くなって、逃げてきた。」



「……うん、」



信託って何、って聞きたかったけどせっかくシーくんが本心を話してくれたんだし、私は大人しく聞き役に徹する。



「でも、こうしてルナと過ごすうちに、欲しいものができた。多分、それを手に入れるためには、継いだ方がいいんだと思った。

だから、俺は家に帰ることにした。

家に帰って、立派になったら……また会いに来ていいか?」



「うん!嬉しい……ありがとう!」



 最初はあんなに横柄な態度だったのに……自分の意見をしっかり言った上で、立派になって会いに来ていいか?なんて聞けるようになったなんて……シーくんの成長に涙が出そうになる。



「……継ぐ気がないのに、欲しいもののためにその地位につくなんて、良くないことだとか思わないのか?」



「シーくんのお家がどんな立場なのか、私にはよく分からないけど、きちんと役割を果たすのなならば、いいと思うよ。

欲しいものを手に入れるのに、正解なんてない。シーくんが決めた方法で、欲しいものを追いかけてほしい。

あ、でも、犯罪とかそういうのはだめだよ!」



「そうか……。」



「うん、頑張ってね!でも頑張りすぎもよくないから、適度に休むんだよ!」



「なんだそれ。どっちだよ。」



 そう言って笑ったシーくんを見て、とても安心した。

 どんな環境で育ってきたのかは知らないけど、あいさつも出来ないし無神経なこと平気な顔して言うくせに、自分の本心は見せようとしない。

泣きも笑いもしないから、初めはとても不安だった。

多分、そこまで親しくなかったのもあると思うけど。

 でも今は、かなり大人びてはいるが、ちゃんと自分の気持ちを言えるようになって、笑ってくれるようになった。



 私はそれが、とても嬉しい。

 第一印象が最悪だった分、成長した姿を見る感動もひとしおだ。

手がかかる子ほどかわいい、と言っていたお母さんの気持ちが今ならよく分かる。



「いつ出発するの?」



「今すぐに出る。」



「そっか……」



……またひとりになると思うと、ちょっとさびしくなる。

いや!私にはアイドルのみんながいる!



「それから、俺の本当の名前はシェイド・クロス・フェルダリアだ。

またな、ルナ・ハリス。」



「うん!元気でね!」



 この時の私は、貴族になるとミドルネームとか付くんだ!かっこいい!程度にしか思っていなかった。

 クロス、というミドルネームがどんな意味を持つのかも、フェルダリアという家名がどんな意味を持つのかも、何も知らなかった。
























 

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