9 施設へ
僕は自分の名前、渡辺諒平を伝えた。相川も自分の名前を名乗る。そのうえで、2人に名前を聞いてみた。
「俺の名前はクラッ・ハッ・ゾンです」
「僕はジン・ジャン・クワンと言います」
城平の街では漢字表記の言語が用いられる。恐らく、これらの名前にも漢字・意味があるのだろう。僕は、彼らに名前の”日本語訳”を教えてもらった。
クラッ(Klak)は「落ちる」という意味、ハッ(Haap)は「適合する」という意味の動詞、ゾン(Zohng)には「信じる」「宗教」という意味があるようだ。訳すなら、「落合宗」という感じになるらしい。
ジン(Zin)は「森・林」。ジャン(Zjuan)は「山脈」。クワン(Kwang)「光・灯」。クワンは主に(99%)女性につけられる名前らしく、男性には珍しい名前だそうだ。ちょっと恥ずかしいが「森山あかり」というのがニュアンス的には近いとのことだ。
「落合宗さん、森山あかりさんって読んでいいですか?」
「2人がそれで覚えやすいなら、そう呼んでもらえると助かります」
背が高いほう、森山さんは話す。僕たちはどうすればいいんですか、ということをあらためて聞いてみた。
「この帽子には相手の言語を理解・話せるようになる機能があるので、とりあえずこれを被ればだいたい何とかなりますね。これ1台で電話・メールなどなんでもできるスマートデバイスで、持っている人はかなり多いです」
「とりあえず相川さんと渡辺さんに言っておきたい事は、あなた方2人と同じ境遇の人が集まっている施設のような場所がありますから、そちらの方に向かっていただければ何かわかるかもしれません。隔離するための施設ではないので安心してください。実際、僕の高校のクラスにもその施設から編入した人がいますし」
その施設はこの道をまっすぐ歩いて、3つ先の次の交差点で左折して10分ほど歩いた場所にあるらしい。僕たちは、ありがとうございます、といって、その場所まで向うことにした。
城壁が遠くにそびえる街並みを、僕らは歩いていった。指示された通り、3つ目の交差点を曲がる。そんな大した距離を歩かずに、その施設のような場所にたどり着いた。学校のような見た目をしている建物だ。
「ここだよね」
不安になった僕は、お互い知らないことを承知したうえで相川に確認した。
「入っていいのかな」
施設がコンビニエンスストアやスーパーマーケットのような見た目をしていれば、躊躇なく入ることができただろう。しかし、学校と言われても信じてしまうような見た目の施設に入るのは、かなりためらわれた。
校門のような入口の前で2人で座っていると、中からさっきの帽子をかぶった30代くらいの女性が出てきた。彼女は、僕らを見て何か言ってきた。
「カーイーンジー」
僕と相川は、わかりませんといった表情で女性を見つめた。すると、彼女は帽子を、さっきの2人の男子高生がしたように操作しながら僕たちに話しかけてきた。
「もしかして、2人とも違う場所から来た人間ですか?」
僕たちは日本という国に住んでいた。こんな城郭都市を見たことは生まれてから一度もない。そのことを彼女に伝えた。
「了解しました、こっちに来てください」
「知らない人にはついていくな」という言葉があるが、今はその言葉は役に立たない。だれにも頼らずに2人で何とかしようというのは、不可能に近いということを今までの生活で感じていたからだ。
僕らは、彼女について行き職員室のような場所に入っていった。