8 見知らぬ人との出会い・会話
ベンチに座りながら、2人は元の世界戻る方法を模索していた。考えてみると、この世界に来てから1度も風呂に入っていないし、服も着替えていない。服自体は対して汚れていないのがせめてもの救いだが。僕は、今更だが風呂に入りたい、着替えたいと思うようになっていた。
相川は元の世界に戻るために情報収集をしてみよう、という提案をした。幸いにも、スマートフォンはつかないものの、紙のノートとペンを持っている。ここは漢字圏ということで、(さっきの人には通じなかったけど)最悪筆談もできるかもしれない、と楽観視していた。というより、しないとやっていけないと感じていた。
「学校ってどこにあるんだろう?」
僕はふと呟く。城郭都市は広いが、入口からでも向こう側の壁が見えるので、直径は5kmもないだろう。だいたい面積は20平方キロメートルより小さいくらいだろうか。
「日本の人口密度ってどれくらいかわかる?」
「わからないけど、さいたま市は覚えてる。6300人/平方kmだったと思う」
単純計算できるかは分からないが、相川の言った数値がここに適用できるなら120000人程度がこの街に住んでいることになる。......意外と多い。どれだけこの街が密なのかはわからないので、全くあてになる数字ではないだろうが、街並み自体は日本と同じ感じなので、この城壁の中に数千人しかいないor数百万人もいるといったことはないだろう。
「これだけ人数がいるなら、何かわかることもありそうじゃない?」
「どうだろうね。とりあえず今の私たちにできることは、情報を集めることじゃない?」
彼女がいうことはもっともだろう。時計を見てみると、15時25分だ。
「もうすぐ授業も終わるね」
そんなことを彼女が言った瞬間、男子高生くらいの2人が道を歩いてきた。1人は身長165cmくらい(相川と同じくらい)、もう1人は170cmくらい(僕より半周り背が低い)で、どちらも好青年といった印象だ。2人とも帽子をかぶっているがメガネはかけておらず、僕の元いた世界でも通用するような制服を着ている。スクールバッグは、2人ともリュックサック型(両肩で背負うタイプ)のものだ。
僕は、言葉が通じないことを承知で、2人に日本語で話しかけてみた。
「すみません、ここはどこですか?」
2人は困惑したような表情でお互いを見つめたが、すぐ状況を理解したようで冷静に帽子を脱ぎ、中にあるレバーのようなものをいじって再着用した。
「ここは、ジョウヘイです」
彼は比較的自然な日本語で話す。おお、言葉が通じた! たぶん帽子に何かあるのだろうというのはすぐにわかったが、そんなことは言葉が通じるという感動の下ではどうでもよかった。
ジョウヘイというのはここの地名だろう。僕は、どんな字ですか、と聞きながら、ノートとペンをを取り出して紙に書いてもらった。
彼は、紙に達筆で「城平」と書いてくれた。
「すみません、ちょっと話を聞いてもらっていいですか」
相川は話す。どうやら2人とも急いではいないようなので、できるだけ手短にしてくださいねといいながらも話を聞いてくれた。
僕たちは、5分程度使って「もともと日本って国にいたんだけど、気が付いたらここにいた」ということと今までの経緯を話した。
彼らは納得したような表情で話す。だいぶ昔から、そのようなことは定期的にあるようだ。意識を失い、突然草原に突き放されて、なんとかここまでたどり着く人は珍しくない、と教えてくれた。