7 誰かを探して
公園を抜けると、大通りのような場所に出た。相変わらず人は少ない。今のところ見た人はさっきの男性だけだ。
「もしかして、平日でみんな会社とか学校とかがあるんじゃない? まだ昼間だし」
相川は話す。車が走れるような道もないし、平日の日中なら人をあまり見かけないのもおかしくない、と僕は納得した。何もない草原をさまよい続けてきて曜日感覚も麻痺してきているが、数え間違えていなければ今日は水曜日だ。自分が元居た場所とここで曜日が変わらなければの話だが......。
「なるほど」
その仮説を確かめるべく、僕たちは時計を探すことに決めた。太陽の位置的にまだ2時くらいだと思う。2人はとりあえず探索も兼ね、色々な所をめぐってみることにした。
曲がり角をテキトーな方向に曲がりながら歩いて10分弱。僕たちは2つ目の公園のような場所を見つけた。そこまで広くはないが、ベンチも時計もある。
「あ、時計だ、アラビア数字が書いてある!」
相川は叫ぶ。見た感じだが、時計の読み方と数字は、僕たちがいた世界とココとで変わらないようだ。時計は2時25分を指している。彼女の言った通り、平日でみんな仕事にいる・学校に行っている・家にいる可能性がある。公園にも遊具はほとんどないし、わざわざ外に出てもすることがあまりないのかもしれない。
僕たちは学校のようなものを探して更に散策していった。
「ふと思ったんだけどさ、渡辺くんも私も同じ日本からココに来てるんだよね? 他にも誰か来てる可能性ない?」
完全に盲点だった。確かに、誰か似たような境遇の人がほかにいる可能性は高い。僕だけ、相川だけなら単なる偶然かもしれないが、「来たのは二人だけ」という可能性はそんなに高くないだろう。言葉は通じなかったが、さっきであった人もそうだったのかもしれない、と僕は考えた。
とりあえず彼女の「今日は平日で、だれもいないのはみんな学校・会社・家にいて外に出てないから」という仮説を信じて、僕たちは授業が終わるであろう時間(16時ごろ)まで、公園を拠点に色々と探索することに決めた。
遥か遠くに城壁が見えること以外は、建物の感じとか街並みは日本と大して変わらない。街路樹も(人工的かもしれないが)等間隔で植わっているほか、マンションのような建物もある。ここに住むのも悪くない、と僕は思い始めていた。
マンションの掲示板に書かれている文字を見て相川は叫ぶ。
「あ、みてみて、漢字だ!」
僕は掲示板をのぞき込んだ。文字はすべて漢字で構成されているが、読める字も、日本ではまず使われない字も含まれている。ただ、字の組み合わせ的に「漢字を(万葉仮名的な使われ方ではなく)表意文字として用いているっぽい」ということはわかった。
マンションの掲示板の見出しには、「邸処-”圭來”」と書かれている。完全には分からないが、恐らく邸処は住居もしくは住処といった意味で、圭來は固有名詞(○○”ハイム”のようなもの)、もしくは「ようこそ」みたいな意味だろう。
「誰かくるまで待ってみよう」
僕と相川は同意した。僕は、さっきまでいた公園に座り、誰かがくるのを待ちつづけた。ベンチはそこまで古くないので、多分他の誰かはいるのだろう。
僕は対してのども渇いていないが、ちょっと前に汲んできた水を飲んだ。
「おなかがすいている」とも感じないが、「お腹いっぱい」とも感じない。必要はないまだ食べようとすれば食べられる、と言った感じだ。
時計を見ると今は15時前。あと1時間もすれば授業は終わるだろう。同じくらいの年齢の人に会えるかもしれない。そう信じて2人は時がたつのを待ち続けた。
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