6 城郭街で
「起きて、もう明るいよ!」
相川は起こす。僕は眠い目をこすりながら城壁のような場所へと歩きだしていった。休憩をはさみつつも4時間ほど歩き、いくつかの小山を超えると、もうその白い壁は目の前にあった。
「うわ、すごいな」
僕は思わず第一印象を声に出してしまった。ぱっと見た感じだが、中はかなり広そうな印象を受ける。相川は興味深そうに城壁の材質を確認していた。高さはざっと10メートル近くはあるだろう。2人は周りを見ながら、入り口を探していた。
「ここか」
およそ700m歩いたところに、入口とも呼べる大きな扉を見つけた。どういうわけかわからないが扉は開いていて、高さは約2.5m。しばらく使われていないようで、木でできているそのドアにはツタが巻き付いていた。
「入っていいのかな?」
相川は僕に問う。まだ日は沈んでいない。僕は、入られてまずいなら警護してるでしょ、と言いながらもおそるおそる中に入っていった。
中には街が広がっていた。周りに城壁があることを除けば、日本にもあるような普通な街だ。私たちは、とりあえず誰か人を探すということで話がまとまっていた。
入ってすぐの場所には噴水があり、そこから住宅街が続いているような感じだ。どうやら誰もいない気配がある。私たちは、探索を始めた。
「あ、あの街灯見て、ここ、もしかして日本なのかな?」
周りに電柱は見えないが、街灯は何本も並んでいた。日本の道でもよく見るような、下を照らすタイプのものだ。どうやら、文明レベルは現代日本とあまり変わらないようだった。
表札を見て言語を調べようとしたが、名前を書いている人は全くおらずわからなかった。
不安になるほど人がいない住宅街を抜けると、公園のような場所に着いた。
「もうこの街、誰も住んでないのかな」
諦観していた僕はため息をつく。その瞬間、相川はある方向を指さして叫んだ。
「あ、あそこ、誰かいる!」
僕は彼女の指さした方向を見てみた。良く見えないが、多分僕たちと同じくらいの年齢の男性だ。2人は、その人の方向を目指して歩いていった。
見た感じ、アジア人(中華系)っぽい外見をしていて、服には「色即是空」の漢字4文字が書き込まれている。僕は「漢字だ!」とはしゃぎたくなる気持ちを抑えて、相川に確認をとった。
「話しかけるよ」
「わかった」
僕は勇気を振り絞って、彼に話しかけてみた。
「すみません、ここはどこですか?」
すると、彼は困惑した表情で何かを言ってきた。
「ジェイカンマリェ?」
何を言っているのか全く分からない僕だったが、彼が困惑していることだけはわかった。
「Where am I?」
英語で問うてみるも相手の?な表情は変わらない。僕は鞄の中に入っているノートを取り出して、筆談を試みた。
まずは英語で「Where am I?」と文字を書いて相手に見せてみるも、相手は「?」という文字だけを書き込んだ。「?」は伝わるので、どうやら地球上の可能性があるということが分かった。少なくとも漢字は伝わる可能性が高いと判断した僕は、「何処是此処?」という所謂を書いて男性に見せてみた。
「観敦伏」
彼はノートにきれいな字で書いてくれたが、どの漢字も見たことはあるものの、それが合わさることにより何が意味されるのかが全く分からなかった。僕は、「観敦伏?」と文字に書いて相手に見せた。
相手は諦めたような表情で「発演」という文字をノートに書き込んだ。意味自体はわからないがかなり機嫌が悪そうな雰囲気をしていたため、僕は手を合わせI’m sorryとだけ言ってその場を去っていった。