5 さらなる探索&人工物発見
さっきのアイドルの、違う曲の歌詞に、「砂漠抜けた 遠くにある街へ ただ 迷わないで進める」という歌詞がある。しかし、相川さんは知らないようだった。そもそも草原に終わりがあるのかすらわからないし、仮にそこを抜けられたとしても、砂漠にたどり着くのかさえもわからない。
ゆっくり歩きながら、僕たちは会話をした。
「僕は、神奈川県、在住だったけど、相川さんって、どこに住んでたの?」
さっきまでは普通に話すことができていたのに、僕は何故か今になって急にコミュ障を発揮してしまった。ここに来る前はは女子と話す機会さえ少なかった。実際には、業務連絡のようなもの以外で女子と話したことがなかったのだ。何故かさっきまでは大丈夫だったのに、今あらためて話すと、急に心拍数が上がってしまった。
「え、私?埼玉だよ。あと、今更だけど普通に苗字呼び捨てで呼んでくれて大丈夫だよ」
呼び捨てでいいといわれても、僕には女子を苗字単独で呼ぶ勇気はなかった。
「埼玉か、僕の叔母の実家があるのが埼玉だったな確か」
「あ、来たことあるの?どこだったか覚えてる?」
「ごめん、全然覚えてないけど所沢?だっけ。相川」
僕は勇気を振り絞って、彼女を呼び捨てで呼ぶ。
「あ、私の市から2個隣の所だ。私、さいたま市に住んでたんだよね」
僕がコミュ障のせいで、ここで会話は止まってしまった。彼女の話し方を見る限り、申し訳ないがトップクラスの陽キャ、という印象は受けなかった。しかし、ちゃんと見てみると、相川さんの顔は結構整っている。僕のクラスにいれば、女子15人中3番目くらいには入ると思ってしまった。無理やり話すために、僕は彼女に、「2人で、この草原を抜けよう!」とエールを送った。
今までこんなに長く歩いたことも、まともに女子と話したこともない僕だったが、相川とは割と息が合うようで、何でも話すことができた。彼女と話していると、過ぎ去っていく時間を忘れてしまいそうになる。
「あ、あれ何?」
歩き続けていると、遥か遠くの地平線の手前に白い壁のようなものが見えた。相川も気が付いたようで、じっと目を凝らしてみるが、具体的になんなのかは見えない。何かあるのは間違いないので、僕たちは、そっちの方を目指そう、ということで進んでいった。
山がちというわけではないのだが、平原エリアはもう終わり、僕たちは今、少々の起伏がある大地にいる。それなりに体力を必要とするが、まあ1日もあればあの壁までたどり着くだろう。誰かに会いたい、たとえそれが敵対する勢力だとしても。そんな一縷の望みをもって、僕たちは歩き続けた。
「もう暗くなってきたな」
暗い中で歩くのは得策ではない、というのはこの数日のサバイバル経験で僕が学んできたことだった。僕は、明るくなるまで相川さんと2人で横になり、一緒に話していた。
「相川ってさ、喉乾いてる?」
僕のふとした疑問に、彼女は答える。
「いや、ここに来てからほとんど乾いてないね、そっちは?」
「僕もぜんぜん渇いてない、疲れは感じるのに」
どうやら、喉の渇きを感じないのは彼女も同じようだった。色々話していると、いつのまにか眠りについていた。