2 彷徨って
雨が降れば、持っている傘で水をある程度溜めることができる。しかし、雨が降ったらびしょぬれになる。雨宿りができる場所も、全く見当たらない。草が茂っているということは、雨はそれなりに降る場所なんだろう、と僕は考えたが、どうすることもできなかった。
月は見えるが、下弦の月だった。何かで下弦は「"C"agen」だからCの形をしている月だと読んだ覚えがあるが、こんなところで役に立つとは思わなかった。だけど、あと1週間くらいで見えなくなる。また見えるようにはなるが、この先ちょっと夜の活動が難しくなることを理解する必要があるように感じた。
更に歩いていると、東の地平線がほのかに赤くなってくる頃に、水が溜まっている池を発見した。僕は、水を手でくみ上げて匂いを確認した。
そこまでおかしなにおいはしない。まだ喉が渇いてはいないが、今後水がどこかにある保証はない。からっぽの水筒にいっぱい池の水を入れて、そして僕も顔を付けて水を大量に飲んだ。
どこまで行っても草原は続いている。ところどころ木がたっていたりはするが、それでもずっと平原だった。同じ場所を歩き続けているのかもしれない。僕はそう思って怖気づいたが、悩むより先に進めばいいと考え、まっすぐ道なき大地を歩き続けた。
僕はイライラしてしまい、鞄の中に入っているお菓子を食べた。少ししょっぱい。鞄の中にごみをしまって、僕は歩き続けた。
どの方向に向かっても同じような景色が広がっているだろうというのは目に見えているから、まっすぐ歩き続けるのは苦ではない。問題は、どのくらい歩き続ければ、この草と木しかない広野を抜けられるかということだった。
太陽の位置的に、この世界に来てからもう丸1日立った気がしていた。ここは死後の世界なのか。少なくとも、僕が知っている場所ではないようだった。何かの奇跡でスマートフォンが起動しないかなと思って電源を付けようとしてみたが、やっぱり動かなかった。
今やっと気づいたのだが、トイレに行きたいと全く感じない。眠気は感じるのだが、ここに来てから1日、空腹感・のどの渇きは”あまり”感じず、尿意や便意に至っては全く催していない。なぜなのかは不明だが、そもそも自分がいる場所さえわからないという異常な状況のせいで、今までぜんぜん気にしていなかった。
僕が今まで歩いてきた道を振り返ると、足跡ができている。雨で消えたりしなければ、寝ても進むべき方向に迷うことはないだろう。今の僕の想いは、「帰りたい、それが無理なら、誰でもいいから誰かに逢いたい」だ。僕は、何もない大地を歩き続けた。
空は晴れていて澄んでいる。上空にヘリが飛んでいれば、誰かいるということがわかるのに。この世界に自分一人だけじゃないと教えてくれる安心感のようなものが欲しかった僕は、気づかなくてもいいから来てくれ、と強く願っていた。
更に歩き続けると、もう地平線は赤くなっていた。もうすぐお日様が顔を隠すのか。空の青、雲の白、日中の太陽の黄色、夕日の太陽の赤。見慣れた地球のものと、それだけは何ひとつ変わらない。あれだけここを抜け出したいと思っていたのに、また変な場所に行くくらいならここでもいいかな、と少しずつ思い始めていた。
日が沈もうとする直前に、数十メートル先に自分のではない足跡を見つけた。見た感じ、人間のものである可能性がある。誰かいるのかもしれない。僕は、そこまで自分が出せる全力で走っていった。
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