18 施設の2日目
「あ、相川もきてたんだ」
僕は思ったことを正直に言葉に出した。僕はいすに座り、授業を受けた。
この国の言語は、そこまで難易度が高いというわけでもなさそうだ。漢字自体日本で使われていた文字と同じだし、何よりここにいる人が日本語を理解できる装置があるのが大きい。先生は日本語で話してくれるので、授業自体もそこまでわけがわからないということはなかった。
「どうして日本語に対応してるんですか?」
僕はふと浮かんだ疑問を投げかける。困惑する様子もなく、先生は答えてくれた。
「元々、日本からきているという方は多く、城平では日本語に関する研究もおこなわれています。そのため、日本語について分析された結果がデバイスにも入っています。それを用いて理解できているのです」
僕は、なるほど、とうなずいた。城平語の発音は子音+母音+子音の構成をとっており、声のトーンで意味を区別する仕組みは存在しない。文法はいわゆるSVOであり、形容詞が名詞に先行するようだ。動詞は活用せず、過去形は単に副詞を置いて表す(例:「明陽我行海」が「明日海に行く」であり、「昨陽我行海」が「昨日海に行った」という意味になる)とのことだ。
「それではこの文章を読んでみてください」
そういって、先生は漢字とアルファベットを黒板に書いた。
「我行海」(Ngo gang khai)
「ンゴー・ガン・ハァイ」
僕は、聞こえたとおりに発音した。ハァイは喉の奥から声を出す感じだが、そこまで難しい発音でもなさそうだ。ンゴーの「ンゴ」は、アナウンサーが語中のが行を発音するときの鼻濁音(カ゜とも表記される音)に近い(というか、同じ)。全くもって聞かないような発音はなさそうだ。
「行の発音は、ガン(gan)ではなくガン(gang)って感じです。もう1回発音してみてください。『りんご』というときに、『ん』で止めるような感じです」
僕は、彼に言われたとおりに発音した。相川も、なれない発音になかなか苦戦しているようだった。
「まあ発音については、そのうち慣れていくと思うので、今できなくても心配しなくて大丈夫です」
先生は落ち着いた声で話す。僕は、少し安心した。
「確かに、発音からやった方がいいかもしれませんね」
先生から発音の練習を受ける。どうやら、城平語には20の子音と11の母音があるようだ。
日本語と同じものは、子音はk(日本語のか行と同じ), g(日本語のが行と同じ), t(日本語のた行と同じ), d(日本語のだ行と同じ), s(日本語のさ行と同じ), z(じを除いて日本語のざ行と同じ), n(日本語のな行と同じ), m(日本語のま行と同じ), p(日本語のぱ行と同じ), b(日本語のば行と同じ), j(日本語の”や行”と同じ), w(日本語のわ行と同じ), ng(日本語の鼻濁音と同じ), ch(日本語のちゃ行と同じ), sh(日本語のしゃ行と同じ), zh(日本語のじゃ行と同じ), h(日本語のは行と同じ)の17個。
日本語にない発音は、kh(のどの音から出すは行), l(英語のlと同じ), nr(説明しにくいが、rが混ざったジューみたいな音)の3つだ。それらを中心に練習を行えば、何とかなるだろうという印象を受ける。
母音はa, aa, i, ua, ia, ei, ea, e, i, u, oの11種類あるようだ。どれも日本語と同じような発音だが、二重母音も1音節としてカウントされるらしい。発音自体が難しいわけではないので、これも何とかなるだろうという感じだ。
僕は先生に続けて発音練習を行った。