施設で 5
少し短くてすみません。
更に聞いてみると、この施設では1日3食、朝7時半、昼13時、夜19時に食事が出るらしい。味については、人によっては個人差があるかもしれないが、”わるくはない”程度、とのことだ。僕は、この世界に来てからほとんど空腹を覚えていないことを伝えた。
「え、渡辺もそんなのがあるのか。なんかわからないけど、こっちの世界に来た人って大体、何か”おかしい”ところがあったりするんだよね。『元の世界ではメガネかけていたけど、こっちでは裸眼でマサイ族くらい遠くまで見える・地平線の向こうが見える』とか、『元の世界では100m走るとすぐ息が切れるけど、こっちではフルマラソンなみの距離を走っても疲れない』とかね。渡辺の場合は、それが『腹が減らない』なんだろうね。ご飯は食べれる?」
僕は、「おなかがすいていない」だけで、「お腹がいっぱい」というわけではないので、食べようと思えば食べられる事を伝えた。
「みんな『何かおかしいところがある』のは共通だけど、それが何かは人によって違う、ってことですね。おなかがすいちゃう、って人は、どうやってここまでたどり着いたんですか?」
僕は純粋に思ったことを聞いてみる。そうすると、僕より一回り身長が高いがきゅうりのように細い、童顔の村本くんが答えてくれた。
「俺の場合は疲れなかったから、ひたすらに走り続けたよ。そしたらここにたどり着いた」
僕は、なるほど、とうなずいた。ここに来ている人はまあいいのだが、結局来られずに彷徨い命を落とした人はいたのではないか、と僕は勝手に想像してしまった。
「ここ以外にも国とか街ってあるんですか?」
僕はさらに質問を重ねる。村本くんは嫌そうな顔をすることなく答えてくれた。
「ここは城壁都市だけど、ここから70kmくらい離れたところに大国があるって聞いたことがある。この街の中では自動車とかもないから、気軽に行けるような距離じゃないけどね。列車を使えば行けるけど、高価だからやめたほうがいい」
「どうでもいいけどさ、1mって地球の1メートルなんですか?」
ふと思った(思い出した)ことなのだが、1mは地球の長さ(地球1周の4万分の1)から決まった単位のはずだ。この世界でも1mという単位は通じるのだろうか。僕はそれについて聞いてみた。
「ここでは1mのかわりに1チャッ(測;chak)って単位が使われていて、長さは元の世界でいう1m(光が1秒間に進む約3億分の1)より少し短いっぽい。普通に過ごしていれば気にならないレベルだよ」
彼はどんな質問に対しても答えてくれた。ありがとうございます、と伝えると、村本くんはこういった。
「僕もここに来た時質問しっぱなしだったから、何でも聞いていいよ。あと、タメ語で話してくれて大丈夫だから」
僕は、わかったと伝える。時計は19時を指している。ここの職員の人たちが、食事を持ってきてくれた。