11 施設で 2
僕らは、ここに来るまで3人の男性に出会った話をした。1人は公園にいた、話が通じなかった人。もうふたりは、茶色い帽子をかぶっていて、話をすることができた人だ。僕たちは、彼らに教えてもらってここにたどり着いたのだ。
「そういえば、今日ここに来てから人を全く見かけなかったのですが、なぜでしょうか?」
僕は思ったことを正直に話す。張川さんは答えた。
「平日ですし、大体の人は仕事に行ってますね。あなた方は商店街エリアを通らなかったでしょう? 平日はみんな学校・会社・家にいる人が多いですね」
城平は誰もいない都市ではなく、夕方や祝日は公園・道も結構人は多いらしい。街の北側にある商店街エリアにはいつもそれなりに人はいるらしいが。
「この施設の目的ですが、違う世界から来たあなた方のような人を保護し、ここ、またはどこか違う街で生活できるように支援することです。残念ながら、私はあなた方を元居た世界に戻す方法を知りません。そのような原理は、私の知る限りでは2309年は現在確立していないと思います」
僕はえ!?と一瞬驚いてしまったが、心のどこかではそれを受け入れていた。相川さんは妙に落ち着いている。
「今ここにいる人は500人弱で、男女は半々くらいです。自分で生計を立てる力を身に着けてここを出ていく人も多いので安心してください」
「それでは今渡す申込書に名前を書いてください」
そう言って彼女はフォームを持ってくる。僕と彼女はたわいもない話をしながら氏名、誕生日、元のいた世界の国名、性別などをボールペンで書き込んでいく。
「誕生日ってどう書けばいいんだろう? 1年は372日って言ってたよね、日付とかのシステムも元居た世界と違うんじゃないの?」
相川は僕が誕生日のところを埋めた後に張川さんに聞いた。彼女は話す。
「暦のシステムは、1か月が31日・12か月を1年としています。また、共通歴が5の倍数の年は『うるう年』と呼ばれ、12月に1日、いわゆる『うるう日』が追加されます」
「私の元居た世界と暦のシステムが違うんですけど、どうすればいいんですか? 私たちがいた場所では、1年が12か月なのは同じなんですけど、2月は28日まで、4・6・9・11月は30日まで、1年は365日で、うるう年は4年に1回、2月に29日が増えるんですけど」
相川の質問に対し、彼女はよくあることだといって話す。
「とりあえずその場合は、あなたが『誕生日は?』と聞かれて答える数字を書いてもらえれば大丈夫です。大してずれていないようですし。共通歴の生年部分だけ年齢から計算してもらえますか?」
僕の誕生日は11月9日で、16歳の高校1年生だ。相川さんも同い年で、6月24日生まれらしい。共通暦で換算するとともに2293年生まれとなる。
僕はフォームに記入する事項を全て書き込んだ。相川さんも同じくらいのタイミングで書き終えたようだった。
「書き終わりました、確認お願いします」
僕はそう言って書類を提出した。彼女は「確認するので少し時間をください」といって席を離れていった。
この街に来てからまだ1日もたたない。それなのに、日本と似ているからなのかは分からないが、僕はもうこの街並みに愛着を感じ始めていた。
相川さんは、元に戻れないとしてここでうまく生きていけるかな、と話をする。まあ日本と見た目が変わらないし、なんとかなるだろう、と僕は答えた。
張川さんが戻ってきた。
「データベースと照合したところ、あなた方が嘘つきでないことがわかりました」
「嘘つきって何ですか!」
相川さんは声を荒らげていう。張川さんは、落ち着いた声で話した。